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脳梁病変

脳梁の解剖

・脳梁(のうりょう: corpus callosum)は左右大脳半球を連絡する最大(約2億本)の繊維束(白質)です。その他左右の大脳半球を連絡する交通線維は前交連、海馬交連が存在します。

・膨大部:PCAからの血流支配
・膨大部以外:ACAからの血流支配

脳梁障害による神経症候

■左半球機能の伝導障害:言語処理を左半球で行う際に右半球からの情報が脳梁障害により左半球に伝達されないと生じる(脳梁障害の症候は言葉だけだと左、右がかなり混乱するため以下に図で示します・脳梁の症候を考える場合は必ず自分で図にして左右を確認しながら把握することをお勧めします)。
・左手の失行
・左手の失書
 下図参照

・左手の触覚性呼称障害、触覚性失読:視覚情報を遮断して左手で物を触って何かを答えてもらうことが障害される
・左視野の呼称障害、失読
(これを調べるためには「タキストスコープ:右視野と左視野に別々の視覚情報を提示する装置」が必要) 下図参照

■右半球機能の伝達障害 右半球は空間認知が優位であることを反映している
右手の構成障害:立体を描く、積み木を組み立てるなどが右手で出来なくなる(構成能力は右半球優位であり、左半球への連絡が絶たれることで右手での構成が困難となる) 下図参照


右手の反応および言語反応での左半側空間無視:左半側空間の情報は一旦右半球に入り、その後脳梁を通じて左半球に到達する経路しか存在しないため、脳梁が障害されると左半球空間を左半球の機能で認識できなくなる。 下図参照

■左右半球間の抑制経路の破綻:非協力的な動作となる(以下全体をalien hand syndrome: AHSとする記載もあり定義があいまいな部分が大きい点に注意)
拮抗失行(diagonistic dyspraxia):右手の動作が誘因となり、左手が逆の目的の行為をしてしまう(右手でボタンをしめようとすると、左手が開けようとしてしまう)
他人の手徴候(alien hand sign):左手が自分の意図と関係なく動く現象(不随意運動と違う点は:動作に特徴がない点、状況に応じた動きを呈する)*元々は視覚情報なしに右手で左手を触ると、自分の手であることに気が付かない現象(このため他人の手という表現をしている)として報告されている。「他人の手徴候」は文献により意味する範囲が違う場合があり注意
道具の強迫的使用(compulsive manipulation of tool use):目の前の対象物を「右手」が強迫的に使用してしまう現象・右手に把握反射・本能性把握反応を伴う

*失行一般に関してはこちらをご参照ください。

■その他
・意図の拮抗
・agonistic dyspraxia
・脳梁性吃音・構音障害
・記憶障害

参考文献:Jpn J Neurosurg(Tokyo) 18: 179-186, 2009 「脳梁および近傍領域損傷による高次脳機能障害」著:大槻美佳先生 素晴らしく良くまとまっていた文献です。

脳梁病変の鑑別

脱髄:MS, NMOSD (ADEMはまれ)
脳血管障害
外傷:DAI, contusion
腫瘍:glioblastoma, glioblastoma cerebri, lymphoma
一過性脳梁膨大部病変:MERS(clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion)
原因:感染症後influenzaなど、てんかん、川崎病、SLE、MNZ 5FU,SAH、eclampsia,低Na血症、malignant lymphoma etc
PRES
代謝性
 先天性:ALD, Krabbe,Mitochondria、フェニルケトン脳症、
 後天性:MBD, ODS(osmotic demyelination syndrome), トルエン中毒
放射線障害
低酸素脳症、CO中毒、Metronidazole脳症
血管炎:Bechet’s disease, Sjogren syndrome, SLE
感染:PML, Malaria, HIV, SSPE、脳膿瘍
その他:奇形、水頭症後変形、Waller変性

画像上の鑑別点に関して

脳梁はaxial像のみでは病変分布や偏在が評価しにくいため、axial, coronal, saggitalの3方向で評価することが極めて重要です(特に脳梁の評価はsaggitalが重要)。脳梁のどの部位に病変があるのか?(膝・体部・膨大部)、左右対称性?非対称?、focal or diffuse?などが分布状では重要です。以下は J Neurol Neurosurg Psychiatry 2014;85:1041–1048. より引用・改変させていただきました。

■病変分布による鑑別

■信号変化による分類

疾患各論

MS:下面から脳室に対して垂直・放射状に・左右非対称 FLAIRのsaggital像が重要(MSの画像所見に関してはこちらにまとめがあるためご参照ください)
Septal-callosal interface lesion *FLAIR saggital像が有用

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ADEM脳梁病変は通常認めない場合が多い(ポイントとして重要)

NMOSD:脳梁膨大部に病変を認める場合が多い(MSよりも)、脳室に接した下面の広い病変が多い(AQP4チャネルの存在部位と対応)

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非脱髄性の炎症疾患(Sjogren, SLE, Sarcoidosis, CLIPPERS)→これらは基本的に脳梁以外の病変部位を同時に認める

脳炎:ときどきウイルス性脳炎で認める場合がある CMV脳炎→脳室周囲病変が脳梁を含むこともある

PML:脳梁を障害する例は10-15%程度・mass effectは呈さず・造影増強効果を呈さない場合が多い(PMLのまとめはこちら

脳膿瘍:まれ(こちらが脳膿瘍に関するまとめ)

Marchiafava–Bignami disease:ビタミンB1欠乏により生じる代謝性脳症で脳梁病変を呈する代表的な疾患(Wernicke脳症で脳梁病変は稀)。読み方がめちゃ難しい疾患のうちの1つですが時々遭遇します。

病変分布に関しては以下の様に報告されています(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2014;85:168–173.より引用)。やはりこれでみても脳梁膨大部に病変を多く認めることがわかります。また経過で脳梁の萎縮やnecrosisを呈することも多いとされています。

ODS(osmotic demyelination syndrome) :詳細な内容に関してはこちらをご参照ください。
・CPM 50%:橋
・EPM 50%:橋以外 *CPMがなく、EPMだけの場合もあります
→皮質下白質・被殻・尾状核・視床(外側に多い)・中脳内包・外包・脳梁>海馬・皮質>外側膝状体

DAI: diffuse axonal injury:脳梁の体部後方または脳梁膨大部が部位として多い
*細胞性浮腫を反映してDWI高信号、ADC map低下、ときおり内部にSWI or T2*WIで低信号を認める

脳梗塞:血流が豊富でpericallosal arteryからの血流もあり虚血に陥りにくいとされており、脳梁に限局した梗塞は比較的稀であるとされています(脳梁膨大部が梗塞の中では部位として最も多いとされています)

Critical Illness–Associated Cerebral Microbleeds低酸素血症にさらされた重症患者に多発微小出血を認める場合がありこれを”Critical illness-associated cerebral microbleeds”と表現します(Stroke. 2017;48:1085-1087)。VA-ECMO使用患者で認める場合もあります。 分布は白質のjuxtacortical lesion・脳梁に全体的に微小出血を認め、深部白質、脳室周囲白質、それから灰白質には認めないといわれています。 こちらにまとめがあるためご参照ください。

PRES:10%に脳梁病変を合併する(PRESに関してはこちらのまとめをご参照ください)

delayed posthypoxic leucoencephalopathy(DPL) 原因:CO中毒、narcotic overdose、全脳虚血前頭、頭頂葉

glioblastoma:脳梁を介して左右の大脳半球に広がる病変を認めた場合は必ずglioma, lymphomaの可能性を一度は考慮する。point:不均一な造影増強効果、周囲の浮腫

gliomatosis cerebri:広範囲の白質T2WI高信号・GdT1造影では通常造影増強効果を持たないことが多い。

悪性リンパ腫:拡散制限を認める・GdT1造影で均一(homogeneous)な造影増強効果を認める点などが特徴として挙げられます。PCNSLに関するまとめはこちらをご参照ください。

腫瘍転移:脳梁のみに転移することは極めてまれ、脳梁に転移を認める場合は通常他の脳部位にも転移を認める

Waller変性

radiation-induced leucoencephalopathy(RIL):放射線治療後数か月~数年後に出現する

メトロニダゾール脳症(MIE: metronidazole induced encephalopathy):一般的には小脳歯状核病変が有名ですが、脳梁に病変を呈する場合もあります。詳しくはこちらのまとめをご参照ください。

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MERS(clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion)・一過性脳梁膨大部病変(transient callosal splenium lesion)脳梁膨大部正中卵円形・境界明瞭のDWI高信号、ADC低下病変(造影効果は認めない)を一過性(可逆性)に認める病態で、インフルエンザなどのウイルス感染症や低血糖、てんかん後、抗てんかん薬減量後など様々な原因があります(結構よく遭遇します)。脳梁膨大部は神経線維密度が高いため、同部位に少しでも水が存在すると拡散制限を呈しやすいのでは?と考察されています。偶発的に指摘される場合もあります。Brain & Development 31 (2009) 521–528

*参考:5FU脳症で上記の一過性脳梁膨大部に病変を呈する場合があります(メトトレキサート脳症で脳梁膨大部病変を認めることは稀とされています)。下図はEur J Neurol. 2021 Jul;28(7):2396-2402.より引用。

参考文献
・J Neurol Neurosurg Psychiatry 2014;85:1041–1048. 脳梁病変に関して包括的にまとめたreviewでとても優れています。「脳梁病変」の画像評価に関して何か一つ読むのであればこれではないでしょうか。

管理人記録
・2021/10/23:脳梁障害の神経症候に関して記載追加