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失行 apraxia

麻痺や失調があるわけではないが、運動を正しく遂行することが出来ない状態。分類の系統は確立しきっていないところもあるため言葉に注意が必要。左半球の頭頂葉の障害で両上肢に認める場合が多い(失語に合併する場合が多い)

肢節運動失行 limb-kinetic apraxia

病態:手先が不器用になってしまう

観念運動性失行 ideomotor apraxia

病態:社会慣習で意味が決まっている信号的な動作、日常物品を使用する動作の真似(パントマイム)が障害される
BPO(body part as objects):自分の指、手、腕を道具に見立てて使う動作を認める
例:「くしでとかす動作をしてください」、「せんすであおぐ動作をしてください」、「けいれい」、「じゃんけんのチョキをしてください」、「歯を磨く真似をしてください(→BPOとして人差し指で歯を磨くような動作をする)」
*手で道具の真似をするのではなく、手で道具を持ったつもりで使う真似をしてほしい旨を伝える必要がある
*実際の日常生活での動作や道具の使用は問題ないが、口頭命令や模倣で動作が障害される自動随意運動解離(automatico-voluntary dissociation)を認める場合がある
*観念運動失行では上肢の動作が障害されやすい(体全体の動作:着替え、起き上がりなどは障害されにくい)
責任病巣:左下頭頂小葉
*脳梁病変で左手のみの失行(脳梁性失行:callosal apraxia)を認める場合がある(脳梁障害の神経症候に関してはこちらをご参照ください)

観念性失行 ideational apraxia

病態:道具(日常普通に使っている物品)をうまく使うことが出来なくなる。
*前提条件:指示は理解し(失語ではないことが必要条件)、物品が何であるかと、何に使うかの目的もわかっている(視覚性失認ではないことも必要条件
*”系列動作”が障害されやすい(例:「手紙を折って封筒にいれて、糊付けをする」「タバコに火をつけて、口にくわえる))
随伴症状:言語野と近いために失語を合併することが多い
責任病巣:下頭頂小葉、中心前回後部など

口舌顔面失行 buccal-lingual-facial apraxia

例:「火を吹き消すふりをする」、「ストローで液体を吸うときのふりをする」、「あくびのふりをする」、「舌を出す」、「舌打ちをする」、「咳払いをする」
随伴症状:Broca失語や発語失行を合併することも多い
責任病巣:左>>右、中心前回~頭頂葉

*着衣失行に関して:単独の失行というよりも種々の要素が組み合わさっていると考えた方が良いかもしれない(参照:「神経症候学を学ぶ人のために」著:岩田誠)

失行に関するreview article Cassidy A. Pract Neurol 2016;16:317–322.

3つの代表的な失行パターン

1:観念失行 ideational apraxia

運動のコンセプトや意図が崩れる “conceptual motor system”の問題
道具の名前はわかるが、どのように使うか/どのよううな目的で使うか?が分からない
ジェスチャー(さようなら、手招きなど)はデモンストレーションをすれば可能
→原理的には”action production system”が保たれれば可能だが、実臨床では同時に障害されることが多いため厳密にはこの判断は難しい

下頭頂小葉はよりconceptual motor systemに関与し、上頭頂小葉はよりaction production systemに関与するとされているが、そこに病変があったとしても必ずしもその障害を呈するとは限らない
→ideational apraxiaとideomotor apraxiaを区別することで病巣同定につながる訳ではない

原因:進行期アルツハイマー型認知症、左大脳半球脳血管障害など

2:観念運動失行 ideomotor apraxia

運動のコンセプトは問題ないが、そのコンセプトを表現する”action production system”の問題
パントマイム “body-part-as-object” 指で歯を磨こうとする
ideational apraxiaよりも日常生活への支障が軽い傾向にある

3:肢節運動失行 limb-kinetic apraxia

元々複雑な動きの”melody”が障害されるという意味合いで”melokinetic” apraxiaとLiepmanが命名したが、その後”limb-kinetic apraxia”と命名された経緯
skilled task細かい指を独立して用いる協調性が障害される運動プロセシングの最終段階の障害
元々neglectedされていた:失行というよりも巧緻運動障害であるという理由から
また実臨床では病変により錐体路にも障害がでるため、overlapが生じてしまい純粋に取り出すことが難しい
→しかしCBSで認めることから再度脚光を浴びるようになる(初期から障害される点で重要)

診察例:指タップ、ハンドジェスチャーが困難

参考:真の失行ととらえられないもの

条件:運動の問題・skilled taskの問題

構成失行 constructional apraxia、着衣失行 dressing apraxia:視空間認知の問題であり、運動の問題とは限らないため、真の失行と捉えない

開瞼失行 apraxia of eyelid opening:skilledではなく自動的運動のため失行とはいえない、どちらかというとジストニアであり、多くの場合blepharospasmを伴う

参考文献:第62回日本神経学会学術大会(2021年5月)「神経心理学をカジる人のために」 東山雄一先生のご講義