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認知症と自己免疫性脳炎

変性疾患の認知症とおもっていたけれど、実は自己免疫性脳炎というケースがあります。この場合免疫治療により治療介入可能なので(treatable dementiaに該当)、見逃さないように注意が必要です。これらに関してまとめた文献を紹介していきます。最近亜急性経過の認知症で受診してLGI1脳炎の診断に至った例を経験したばかりなので、とても勉強になりました。

文献:自己免疫性脳炎側からのapproach Neurol Neuroimmunol Neuroin fl amm 2021;8:e1039.

・自己免疫性脳炎のうち45歳以上の67例を検討(発症≦4週間にSeizureなし)
*神経変性疾患と自己免疫性脳炎の鑑別が問題になるのが45歳以上であるため
・自己抗体内訳:LGI1 n=42(最多) , NMDAR n=13, GABABR n=8, CASPR2 n=4
*NMDARはより若年発症が多いため少なく,GABABRはてんかん重積が特徴的であることが多いため本解析では少ない結果になっている,またCASPR2は通常その他のポリニューロパチー、小脳失調などを伴う
抗LGI1抗体関連脳炎に関してこちらのまとめをご参照ください。
・LGI1, GABABR:視空間認知障害、遂行機能障害
・NMDAR:言語障害が多く、行動変化が目立つ
*LGI1, GABABRはレヴィ小体型認知症に似て、NMDARはFTDに似る
・睡眠障害:LGI1に多い
*MRIでDWI異常信号を呈した例はなし

全体 n=67LGI1 n=42NMDAR n=13GABABR n=8
年齢64歳66歳61歳73歳
行動障害87%83%100%88%
言語障害27%14%85%13%
運動障害19%10%46%25%
睡眠障害43%57%15%13%
Seizure経過中発症64%76%23%63%
髄液一般正常53%76%15%0%
細胞数増多36%13%85%71%
IgG index上昇50%44%40%75%
OCB +56%0%67%100%
MRI内側側頭葉病変48%60%15%50%
腫瘍17%8%23%57%


・障害される認知機能の内容


・RPD(rapidly progressive dementia) 76%,軽微なseizure 27% n=17 (LGI1が16/17を占める)
・軽微なSeizureは見逃されていることが多い→ほとんどがLGI1脳炎
・半数は当初神経変性疾患を疑われていた
・MRI異常所見/髄液細胞数増多いずれもなし 25%
・ポイント”Red flags”:①RPD, ②軽微なseizure,③髄液またはMRIが異常

・ただ自己免疫性脳炎で必ずしも髄液炎症性変化を認める訳ではない,逆に変性疾患でのバイオマーカー(14-3-3, tauなど)が陽性になる場合がある
・IgG index, OCBは測定するべき
・早期からの広い脳萎縮は神経変性疾患を示唆する
・MRI DWI信号変化はCJDを示唆する

文献:認知症側からのapproach Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2023;10:e200137.

・メモリークリニックでの認知症診断患者の0.8%(7/920例)に自己抗体検出(2つの別の測定方法で確認し偽陽性を徹底的に除外)
・内訳:IgLON5(n=3), LGI1(n=2), NMDAR(n=1), DPPX(n=1)
・後ろ向き検討 当初の病型内訳:AD39%, FTD 31%, DLB17%, その他13%), 年齢中央値62歳(16-90歳)
・RPD 7%(n=60)
非典型的なポイント:亜急性進行性(n=3), ミオクローヌス(n=2), 自己免疫疾患既往(n=2), 変動する経過(n=1), てんかん発作(n=1)

抗体陽性(n=7) vs 抗体陰性(n=28*)の比較
*抗体陰性全体から無作為抽出して 1:4になるように)
有意差がある項目:①非典型的 100% vs 21%, ②亜急性経過(または変動) 57% vs 7%
*非典型的な項目:RPD, 髄液細胞数増多、亜急性経過、変動経過、ミオクローヌス、自己免疫疾患既往、てんかん発作
有意差ない項目:年齢,Seizure,睡眠障害,MMSE、髄液,EEG

既報告との比較:. Brain Behav Immun. 2021;96:106-112.
・抗体陽性が14%と高い値で報告
・要因1:患者背景で髄液炎症性変化を30%に認めており、検査前確率が異なる
→今回の報告では髄液に炎症性変化を認めていないため通常の認知症外来に近い
・要因2:測定方法が不十分であることによる偽陽性の問題
→今回はこの点をクリアしている
*抗体偽陽性に注意すべきである