脳実質内の微小出血はCAA(cerebral amyloid angiopathy)や高血圧性に認める場合が有名ですが、低酸素血症にさらされた重症患者に多発微小出血を認める場合がありこれを”Critical illness-associated cerebral microbleeds”と表現します(全てはStroke. 2017;48:1085-1087から参照させていただきました)。COVID19関連の勉強をしていたときにこの概念に遭遇し、全く知らなかったのでまとめさせていただきました。
ここでは12例の”Critical illness-associated cerebral microbleeds”を挙げており、全例に呼吸不全があり11/12例は人工呼吸管理、3/12例はECMOを装着し管理されています(DAIをきたすような頭部外傷歴は全例でありません)。以下に典型的なMRI画像を掲載します。
分布は白質のjuxtacortical lesion・脳梁に全体的に微小出血を認め、深部白質、脳室周囲白質、それから灰白質には認めていません。CAA(アミロイドアンギオパチー)では後頭葉優位の分布となり、高血圧性では視床・基底核など深部灰白質主体の分布となるのに比べて対照的です。高山病での頭部MRI所見では似た微小出血の分布を示すことから、本症例も低酸素によりBBBへ力学的もしくは化学的影響が生じ、赤血球のextravasationを引き起こしたのではないか?という病態が考察されています。
(参考:下図は高山病のMRI所見 Teaching NeuroImages: “Typical neuroimaging features in
high-altitude cerebral edema” DOI: 10.1212/WNL.0000000000004544より引用)
その他関与している可能性がある病態としてはDICが挙げられています。fat embolismでは通常DWI高信号となりますが、今回の症例ではそういった所見は認めていないためfat embolismは否定的とされています。
この所見がどのような臨床上の影響を持つか?に関してはまだわかっていませんが、他の研究でcerebral microbleedsは独立して認知機能障害と相関していることが指摘されているので今後検討が望まれます。
確かにこのような概念を知らないと「あれ?なんか微小出血が沢山あるけど分布が変だな・・・」という感じで終わってしまうかもしれないので、まだ若い概念ですが「白質の多発微小出血の鑑別」として知っておくべきと思いました。最近COVID19の症例で同様の報告がありました(DOI: https://doi.org/10.1212/WNL.0000000000010537)ので、元文献として本論文を読ませていただきました。
患者背景のまとめ:この論文で紹介している12例だけでなく、既報例のなかにも”critical illness associated cerebral microbleeds”に該当するものがあるとして紹介しています。