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Kluver-Bucy syndrome クリューバー・ビューシー症候群

単純ヘルペス脳炎の患者さんで議論になったテーマです。Heinrich Kluver先生とPaul Bucy先生が1939年に発表したことに端を発します。ここではAuroraと名付けられたサルに対して両側側頭葉切除術が行われた後の様子を観察して記述されました。

人間での報告は1955年にTerzian先生とOre先生が19歳男性でてんかんコントロールのために両側側頭葉切除術を実施された患者さの報告にさかのぼります(Neurology. 1955 Jun;5(6):373-80)。元々のKluverとBucyが報告した報告はあくまでサルでの報告なので人間に対して高次脳機能障害をそのままapplyして良いかどうかはやはり分からないとされていますが、参考になります(先ほどのTerzian先生とOre先生の報告では口唇傾向と視覚失認は認めなかったとされます)。

■病巣両側側頭葉の扁桃体や海馬が想定されています。

■臨床像:以下の6つの症状が典型例です。人間では必ずしも下記の症状全てが揃っている必要はなく、このうちいくつかを認める場合(不全型)が多い(多くは3つ以上とする報告が多いです)と報告されています(文献上は”partial Kluver Bucy syndrome”とよく表現されています)。

1:視覚失認(visual agnosia):見慣れているものを視覚的に認識できない
2:口唇傾向(hyperorality/ oral tendency)
:なんでも口に入れようとする(口に物を入れることで物を確かめようとする・ハサミなどの危険な物を口に入れようとする場合もあれば、排泄物を口に入れようとする場合もある)
3:視覚性過敏反応・変形過多(hypermetamorphosis):視覚刺激に入るものに全てに注意が向いてしまい反応しようとする行動
4:情動行動の変化(placidity):無感情・恐怖心を失う(元々はサルがヘビに対して恐怖心を失った様子から)
5:性行動の変化(hypersexuality):社会的な制約を無視して性行為を求めようとする・自慰行為を行う
6:食事習慣の変化(過食:bulimia):過食や異食(pica)が起こる場合が多い

その目で見ないと認識しづらい印象があるため、注意が必要と思います(ただの人格変化と捉えられてしまうと社会生活に支障をきたしてしまうため注意)。

原因:成人では頭部外傷や脳血管障害、小児では単純ヘルペス脳炎こちらにまとめがあります)が多いと報告されていますが、様々な疾患(変性疾患、てんかんなど)でKluver Bucy症候群を呈した報告がされています。

少なめの内容で申し訳ないですが、また調べて分かったことがありましたら追記していきます。

参考文献
・M Das J, Siddiqui W. Kluver Bucy Syndrome. 2021 Apr 10. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2021 Jan–. PMID: 31334941.
・ 内科 Vol. 109 No. 6(2012)