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島(insula)と脳梗塞

本日カンファレンスで島(insula)梗塞の議論になりました。島(insular)は脳の中でも臨床的にはなかなか謎に包まれた部位と思います。あまりすっきりした内容にはなっていなくて恐縮ですが、学んだ内容をまとめます。

島(insula)の解剖と機能

中心島溝(central insular sulcus)により前部と後部に解剖学的には分かれます。

動脈支配:中大脳動脈(MCA)のM2から還流(ACAやPCAからの軟髄膜を介した側副血行路に乏しく虚血には脆弱とされている→このためMCA領域の梗塞で島を含む場合が多い)
*直角に分岐する走行のため、同部位が単独で塞栓症で閉塞することは稀なため通常島単独梗塞はまれとされます(通常島皮質と別の部位にも梗塞を認める)。

機能:言語、味覚、内臓感覚、体性感覚、疼痛、平衡感覚、感情(扁桃体や前部帯状回との連絡)など
*島単独が障害されることが稀なため、島単独の障害で起こる神経症候がどこまでかの判断が難しい(例えば血管障害だと他のMCA領域障害を随伴することが多いため)

島皮質を含む脳梗塞に関して

島皮質を含むMCA領域の梗塞は重症度が高い Arch Neurol. 2005;62:1081-1085

・150例連続で非ラクナ梗塞のMCA梗塞を解析
島皮質を含む:48% 島皮質を含まない:52% →非ラクナ機序のMCA梗塞の約半数で島皮質に梗塞を認める
・NIHSS:insular 13.5 vs non-insular 6 *
・MCA領域の1/3以上を含む:insular 35% vs non-insular 3% * *P<0.001
*QTc延長、pulse rate、心筋梗塞とは相関関係になし

島皮質(特に右)と心原性突然死の関連 Arch Neurol. 2000;57:1685, J Neurol Sci. 2008 May 15;268(1-2):6-11.

・島皮質の血管障害と心臓突然死の関係については非常に多く報告されています(脳梗塞だけでなく、てんかんの領域でもよく指摘されています)。
・SAHで心電図変化を認めたりたこつぼ心筋症を合併することは有名ですが、SAH以外の脳疾患でも心電図変化や心筋逸脱酵素が上昇することが知られており(SAHでの心電図変化は40-70%、頭蓋内出血では60-70%に認める J Neurosurg 2006;105:15 – 20.)、脳と心臓の連関(特に自律神経支配)が重要と考えられています。特に右sylvian fissureのSAHは心電図変化を認めると報告されており、血腫が右の島皮質を刺激することが原因と考えられています(Stroke 2001;32:2278 – 81.)。
・これも面白い話ですが左大脳半球が障害されると心拍数は上昇し、右大脳半球が障害されると心拍数は減少するという左右差が指摘されています(Neurology. 1990 Sep;40(9):1408-11.)。特に右大脳半球が交感神経支配が強いことが指摘されています。このことを反映してか「右」の島病変で不整脈を来しやすいとされています( J Neurol Sci. 2008 May 15;268(1-2):6-11. )。
・島皮質を含む梗塞では上室性、心室性の頻脈性不整脈も洞性徐脈、房室ブロックいずれも報告されています。
・また右島皮質病変を含むと予後が悪いことも指摘されています(Stroke. 2005 Aug;36(8):1710-5.)。

■脳梗塞後に認めた心房細動は脳梗塞の原因なのか?結果なのか? “Poststroke atrial fibrillation: Cause or consequence?” Critical review of current views Neurology ® 2014;82:1180–1186

・私は今までこの点に関してきちんと臨床で考えられていなかったのでこの論文を読んだ時はかなり衝撃的でした(個人的にここ最近で読んだ論文の中で最も面白かったです)。つまり、通常脳梗塞後に心房細動を認めた場合は心房細動による心原性塞栓症を考慮します。しかし、島皮質に脳梗塞を起こすと、心房細動を合併する場合が多く必ずしも脳梗塞の原因が心房細動とは限らず、ただ脳梗塞の結果をみているに過ぎない可能性があるということです。


“IT IS OFTEN THE BRAIN, NOT THE HEART”:・心房細動は肺静脈周囲がgenerator sourceとなって起こることが有名ですが、同部位の自律神経支配も同様に重要であることが分かっており、この自律神経支配の上位に位置するのが大脳皮質、特に島皮質です。島皮質から延髄や辺縁系、視床下部へ神経線維の投射経路があります。島皮質の脳梗塞により自律神経のコントールが断たれることで、脳梗塞後に心房細動が起こりやすくなる機序が想定されています。
*心房細動は年齢が上昇するにつれて罹患率が増加することが知られていますが、これも中枢からの自律神経支配が加齢とともに弱くなることが関係しているのではないかと推察されています(左房の器質的な加齢に伴う変性だけでなく)。

・ただ実際に脳梗塞後の心房細動が脳梗塞の結果なのか原因なのかを鑑別する確立した方法はないため、現状はまだ実臨床に活かすまでの議論にはならないかもしれませんが、面白い話だと思います。

血栓溶解療法などによる再灌流後の島「単独」の脳梗塞(isolated insular infarction)に関して

上記の通り、島皮質「を含む」脳梗塞はMCA領域の梗塞で非常に多いですが、島皮質「単独」の脳梗塞は非常に稀とされています(急性脳梗塞4800例中4例のみと報告:NEUROLOGY 2002;59:1950–1955)。しかし、近年rt-PAや血栓回収療法などにより主幹動脈が再開通した後の梗塞巣として島皮質単独梗塞を呈する症例が報告されてきているということを本日I先生より教えていただきました。以下に勉強した内容をまとめます。

■rt-PA後に島に限局した梗塞を認めた症例報告 Eur Neurol 2009;61:308

・血栓溶解療法で再開通に成功した39例中2例(約5%)に島皮質単独(他の領域を含まない)梗塞を認めた。血栓溶解により血栓が小さい破片となり、MCA下流の分枝に流れることで遠位の血管を閉塞し、島は側副血行にも乏しく虚血に脆弱であることが関与していると考察されています。確かに既報が4/4800例にしかisolated insular infarctionを認めなかったのに比して2/39例は多い印象があります。

島に限局する脳梗塞(isolated insular infarction)のまとめ Cerebrovasc Dis 2020;49:10–18

・223例の島を含んだ梗塞と13例の島単独梗塞の症例をまとめたもの。
・13例(男性5例、女性8例)、年齢73歳(47-90歳)
・患者背景:rt-PA実施8例(内2例は血栓回収療法併用)、rt-PA非実施5例(内1例は血栓回収療法のみ、1例はステント術実施、つまり何も実施していないのは3例のみ)下図参照
*やはり上記の症例報告からわかる通り、rt-PAや血栓回収療法を実施された症例が多いことが分かります

・症状:運動障害(13/13例)、感覚障害(6/13例)、言語障害(11/13例)、失語(6/13例 非流暢性失語5例、Wernicke失語1例)、構音障害(5/13例)、半側空間無視(2/13例)、睡眠障害(2/13例)、めまい症状(5/13例 3/5:左、2/5:右)、聴覚障害(1/13例)、一過性構音障害(3/13例:全て左)、見当識障害(1/13例:右)、せん妄状態(1/13例)、不安(1/13例)、自律神経障害(11/13例:8/11例左、3/11例右 不整脈9例)

島(insula)に関して他にも何かご存じのことがございましたら是非コメントでご教授いただけますと幸いです。