注目キーワード

メトロニダゾール脳症 MIE: metronidazole induced encephalopathy

1:病態

メトロニダゾールは抗菌薬関連脳症(AAE: antibiotic-associated encephalopathy)の代表的な原因薬剤です。AAEに関してはセフェピム脳症のチャプターでまとめましたのでこちらをご参照ください。

機序としてはビタミンB1の代謝障害、GABA受容体が関係している可能性が指摘されていますが正確な機序は分かっていません。

メトロニダゾールの総治療期間は中央値35日(平均は101.6日、全体で2日~8年)、神経症状出現までの治療期間は中央値28日(平均47.2日)、総投与量は中央値65.4g(平均125.7g)と報告されています。メトロニダゾール治療対象疾患としては消化管感染症が38%、肝膿瘍18%、中枢神経感染症10%と報告されています。

2:症状

他の抗菌薬関連脳症との違う点で、小脳失調が主体であることが特徴です。症状は頻度別に構音障害63%、歩行障害55%、四肢失調53%、意識変容41%、末梢神経障害30%、眼球運動障害23%、めまい18%、痙攣13%、片麻痺7%、その他21%と報告されています(下図)。メトロニダゾールによる末梢神経障害を合併している初例が1/3程度あるとされています。

3:画像

典型的には両側対称性の小脳歯状核病変が最も有名で、その他中脳蓋(下丘)、脳梁膨大部、橋、延髄などの病変を認めます。小脳歯状核、脳梁膨大部、中脳の3か所が特に特徴的です。MRI所見はかなり特徴的なので、メトロニダゾール脳症の診断に大きく寄与すると思います。信号変化は薬剤中止により多くの場合可逆性であるとされています。

拡散制限は認めない部分も認める部分もあるとされていますが(血管性浮腫も細胞性浮腫も病態に関与している可能性)、特に脳梁膨大部は細胞性浮腫を示し(ADC map low)、小脳歯状核や中脳病変は血管性浮腫の病態を示す(ADC high)場合が多いとされています(Am J Neuroradiol. 2007;28(9):1652)。

下図はN Engl J Med 2016; 374:1465より。CDI治療のため21日間メトロニダゾール使用症例、右図は1か月後の画像。

報告でも歯状核90%、脳梁膨大部44%、中脳39%、橋29%、延髄18%、大脳白質17%、その他11%で信号変化を認めたとされています(T2/FLAIR 124例 下図)。

歯状核は当初わからず、フォローアップで出現してくる場合もあるようです。過去2例でMRIでの変化がなくメトロニダゾール脳症と診断した症例が報告されています(いずれもメトロニダゾールの開始、中止と神経所見の時間的関係から因果関係としたもののようです”Nephron 2001;89:108–109″, “Pediatr Emer Care 2013;29: 751-752″)。

ウェルニッケ脳症との類似点が指摘されていますが(AJNR 2008;29:e84)、脳梁膨大部と小脳歯状核はいずれもウェルニッケ脳症ではまれで、逆にウェルニッケ脳症で特徴的な視床、乳頭体病変はメトロニダゾール脳症ではまれとされています(下図参照)。

4:経過

治療は抗菌薬中止しかありません。抗菌薬中止後数日以内に神経学的所見が改善する場合が多いとされています。抗菌薬中止により重篤な神経学的後遺症が4%に残り、5%は死亡(メトロニダゾール脳症が直接の原因でないものも含まれている)とされていますが、それ以外は改善したとされています。メトロニダゾールを中止すれば比較的予後は良いかもしれませんが、神経学的後遺症を残す場合や死亡例もあるため注意が必要です。

参考文献
・J Neurol. 2018 Dec 7. doi: 10.1007/s00415-018-9147-6. [Epub ahead of print]Metronidazole-induced encephalopathy: a systematic review. メトロニダゾール脳症の136例をまとめたreviewで詳しいです。ほぼ全ての内容をここから引用しました。

・感染症誌 89:559~566,2015 今回はこちらからの引用はないですが、国内でのメトロニダゾール脳症の32例をまとめたreviewで日本語です。