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IgG indexって何ですか?

普段髄液検査の後に「IgG indexを計算してね」と上司から言われて計算するものの、「一体この値は何なんだろう?」と思っている研修医の先生方が多いと思います(私もそうでした)。ここではIgG indexが何を意味しているのか?について解説します。

1:髄液中のアルブミンをなぜ測るのか?

IgG indexの計算式には血中と髄液中のアルブミン濃度が必要ですが、なぜアルブミンの値が必要なのでしょうか?模式図を使って考えていきます。

アルブミンは肝臓で産生されるたんぱく質ですが、髄液中で産生されることはありません。このため、髄液中のアルブミンは全て血中からblood-CSF barrierを介して移行したもの(漏れ出したもの)で構成されています。”blood-CSF barrier”は通常脈絡叢上皮細胞の”tight junction”という強固なつながりによって血液中から髄液中に簡単には物質が漏れ出さないようになっているため、通常アルブミンの比は血中:髄液中=200~400:1程度になっています。

正常例ではこのようにアルブミンが”blood-CSF barrier”を介して髄液中に移行する(漏れる)量はわずかです。しかし、“blood-CSF barrier”が破綻した場合は多くのアルブミンが血液中から髄液中に移行する(漏れる)ことになります。この”blood-CSF barrier”を介したアルブミン移行の程度を評価するため、髄液中と血中アルブミン濃度をくらべた比を、QAlb(Qは”Quotient:日本語では割り算の商と対応します” the CSF/serum quotient of albumin)と表現します。

基準値は以下の通りで、通常10のマイナス3乗をかけて表現します。例えば60歳の場合はQAlb=8 x 10マイナス3乗となります。

QAlb値が高いということは、アルブミンが“blood-CSF barrier”を介して血中から髄液へ大量に移行していることを意味するため、”blood-CSF barrier”の破綻を示唆します。例として以下に疾患ごとのQAlbの参考値を載せます。細菌性髄膜炎では髄膜に激しい炎症が起こるのでQAlbは著増しますし、ギランバレー症候群でも神経根部でのBNB(blood nerve barrier)が抗体により攻撃されることでQAlbは上昇します。逆に通常の神経変性疾患や、”blood-CSF barrier”に影響をきたさない多発性硬化症ではQAlbは上昇しません。

2:IgGとアルブミンの違いは何か?

ではIgGもアルブミンと同じように考えることが出来るのでしょうか?答えは”No”です。その理由は病態によってIgGは中枢神経で産生される場合があるからです(アルブミンは中枢神経で産生されないのに対して)。つまり、髄液中のIgGは「中枢神経で産生されたもの」「血中からblood-CSF barrierを移行したもの」の2つによって構成されています。

ではどうすればIgGが中枢神経で産生されていることが分かるのでしょうか?ここでアルブミンが必要になってきます。アルブミン・IgGはどちらもタンパク質なので、アルブミンとIgGは血中から脳脊髄液へ同じ様に移行する(漏れる)と見積もることでこの問題を解決していきます。つまりアルブミンはほとんど血液中から脳脊髄液へ移行しないけれど、一方でIgGがじゃんじゃん移行するような状況は考えにくいので、アルブミンとIgGは基本的に同じように血液中から脳脊髄液へ移行すると考えます。血中から髄液中へ移行するIgGを見積もるために、アルブミンが比較として必要だということです(アルブミンは中枢産生がないため比較に適しているということです)。

まず先ほどと同じようにIgGに関しても血中と髄液中の比をとります(先ほどのQAlbと対応して、これをQIgGと表現します)。

もしIgGの中枢産生がないとすると、髄液中のIgGは血中から移行したものだけで構成されるため、QIgGとQAlbは同じくらいの値になるはずです。その一方でもしIgGの中枢産生があるとすると、QIgGがQAlbに比して大きくなるはずです。つまり、IgGの中枢産生があるかどうかを知るためにはQIgGとQAlbを比べれば良いため、QIgGとQAlbの比を調べます。これがIgG indexです。(IgG indexの正常値は同じくらいであれば”1″になるかと思うかもしれませんが、実際には0.7以下くらいが正常値です。)

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IgG indexが高いということは、QIgGがQAlbに比して高い状態なので、中枢でのIgG産生を示唆します。一方でIgG indexが正常範囲内の場合は、髄液中のIgGはほとんど全て血中のIgGが”blood-CSF barrier”を介して移行したものと考えることが出来ます。このようにIgG indexは色々な計算式をこねくり回した結果作った式ではなく、IgGの中枢産生があるかどうかを知る必要性に応じて作られた式なのです。

例えば抗NMDA受容体脳炎では、中枢での抗体産生が主病態だとされており、実際にIgG indexはとても高い値をとります。このようにIgG indexを計算することで、病態の把握につながり、また中枢での抗体産生をどう抑えるべきか?といった治療にも結び付いてきます。このようにIgGが中枢で産生されているかどうか評価するためにIgG indexは重要な値です。

3:この関係をグラフで理解する Advanced

さらにこれをグラフにして考えてみると病態を視覚的にイメージしやすくなります(少しAdvancedな内容になります)。横軸にQAlb、縦軸にQIgGをとると以下の様なグラフになります。もし中枢神経でのIgG産生がない場合、QAlb, QIgGはこのグラフの緑ライン内に位置するはずです(下図の赤丸が実際の値を表現しています)。

一方でもしも中枢神経でIgGが産生されている場合は、この緑のラインよりも上方向にQIgGが位置することになります(下図)。このように視覚的に線を超えているか?、いないか?によって中枢神経でのIgG産生を評価することが出来ます。

また下図の様に血中移行分を赤色、中枢産生分を青色で表現することで、IgGのうちどの程度が中枢産生分で、その程度が血液移行分かを視覚的に見積もることができます。

更に、このグラフでは右軸がQAlbを表しているので、右にいき基準の値を超えると前述の通り”blood-CSF barrier”の破綻を意味します。このように縦軸で中枢神経でのIgG産生と、横軸で”blood-CSF barrier”の2つの項目を同時かつ視覚的に評価できることがメリットです。

実際にはグラフは指数関数となるため、具体的な値をいれたのが下図になりいます。これを”Reiber’s nomogram”と呼んでいます。

4:具体例で考える

より理解を深めるために具体例を提示します。考える要素は横軸の「QAlbが基準値を超えていないか?(つまり”blood-CSF barrier”が破綻していないか?)」と縦軸の「QIgGが緑ラインより上に位置していないか?(つまりIgGの中枢産生がないか?)」の2点です。

■例1

上図では
・QAlb:正常範囲内
・QIgG:緑ライン内
→よって”blood-CSF barrier”は破綻なく、IgG中枢産生もないことが分かります。

■例2

同じ様に考えます。
・QAlb>基準値より高い値
・QIgGは緑ラインの範囲内
→”blood-CSF barrier”が破綻しているが、中枢でのIgG産生は起こっていない状態。

■例3

・QAlb>基準値より高い値
・QIgGは緑ラインの範囲を超えている
→”blood-CSF barrier”が破綻し、かつ中枢でのIgG産生も行われている状態。

■例4

・QAlb:基準値範囲内
・QIgGは緑ラインの範囲を超えている
→”blood-CSF barrier”は正常だが、中枢でIgG産生が行われている状態。

大体イメージがつきましたでしょうか?

またこのグラフは治療効果判定や病勢の推移の評価にも役立ちます。下図ではポイント1(赤丸)からポイント2(オレンジ丸)へ時間経過で髄液の値が変化したとします。これは”Blood-CSF barrier”には変化がないが、中枢でのIgG産生が低下してきていることを意味します。このように治療効果判定や病勢の評価も視覚的に行うことが出来るのが優れた点だと思います。

以上IgG index理解のために、QAlbまたReiber’s nomogramまで解説しました。特殊な検査をせずに、髄液と血中のアルブミン・IgGを調べるだけで、ここまで深く病態を考察することが出来るので髄液検査も奥が深いなと思います。ただ細胞数、蛋白、糖だけを検査してはもったいないので、是非今回の内容を病態把握に活かしていただければと思います。

参考文献
・Journal of the Neurological Sciences 2001;184:101