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limb-shaking TIA

極めてまれだけれど知らないと診断できず、注意が必要な不随意運動の鑑別としてlimb-shaking TIAがあります。高度内頚動脈狭窄(または閉塞)を背景として対側の四肢に不随意運動を認める症候です。1962年にMiller Fisher先生が症例報告したことに端を発し(CMAJ 1962;86:1091–1099.)、現在は教科書にも載っているくらい有名な症候ではありますが実際臨床現場で出会うことはきわめてまれと思います(見逃しているだけ・・・?)。勉強した内容をまとめます。

臨床像は?

■limb shaking TIA34例まとめ Brain 2010: 133; 915–922

313例のICA閉塞患者のうち34例(11%!!)でlimb-shakingを認め、その臨床像を検討した報告です(おそらく既報の中では最大規模のもの)。

年齢:62±7歳、男性82%
持続時間:<1分(13例)、1-5分(15例)、>5分(3例)、分類不能(3例) *5分以内がほとんど
頻度:1回(5例)、2-5例/月(18例)、>5例/月(11例)
左右:右(21例)、左(13例)
部位:上肢のみ(15例)、下肢のみ(5例)、上肢+下肢(9例)、まちまち(5例) *上肢>下肢(顔面を含むものは報告なし)
上肢の部位:全体(25例)、前腕+手(2例)、手のみ(2例)
下肢の部位:下肢全体(19例)、足のみ(0例) *部位は手のみ、足のみなどではなく上肢、下肢の全体が多い
発作後:一過性の麻痺随伴(28例)、通常の筋力(2例)、不明(4例) *麻痺随伴例がほとんど
前駆症状/誘因(14例:41%):立ち上がる(8例)、頸部後屈(1例)、寒いところから暖かいところへ移動(1例)、運動(5例)、食事(0例)、咳嗽(4例)、最近の降圧薬開始(1例) *必ずしも前駆症状/誘因を認めない場合もある

機序は何なのか?

■limb shaking TIA症例でのJerk-locked back-averaging(JLBA)による解析(日本からの報告) Neurology. 2016 Jun 14;86(24):2315.

不随意運動出現直前にspikeを認めており、運動皮質での過興奮を示唆する所見と考えられます。postictalのSPECTでは同部位の血流低下を認めており、基底核・視床の血流低下は認めない結果でした。これらの結果からは虚血により運動皮質の細胞膜電位が変化することで過興奮になるなどの機序が推定されます(基底核や視床の問題ではなく)。

■fNIRSによる時間的な脳血流の分析 Neurology. 2016 Mar 22;86(12):1166-8.

SPECTは時間的な経過をフォローする点を苦手とするため、fNIRS(Functional near infrared spectroscopy)により時間的に脳血流がどう変化するかを計測した報告です。動画もこちらに掲載されています。この結果からもlimb-shakingの前にHbO2とHbT低下が先行しており、前頭葉後背側部分の血流低下が背景にあることが示唆されます。

Seizure(発作)とどう区別するの?

上記臨床像などを踏まえてBMC Neurol (2021) 21:260に分かりやすい図があったので元にして作成させていただきました。意識が保たれるか?、顔面が障害されるか?、jackson marchの進展様式(=部分発作)をとるか?、持続時間、誘因などが鑑別点として重要と思います。

limb-shaking TIAの経験例がある先生いらっしゃいましたらぜひご経験の臨床像をコメントで教えていただけますとありがたいです。よろしくお願い申し上げます。