人工呼吸管理と循環動態

通常私たちは陰圧換気(胸腔内圧を陰圧にすることで大気と肺胞内に圧較差を作り、空気を肺に流入させる方法。詳しくは人工呼吸器の原理の項こちらをご参照ください。)をしていますが、人工呼吸管理では陽圧換気(陽圧をかけることで肺胞内と圧較差を作り空気を肺に流入させる方法)を行います。陽圧換気では胸腔内圧が上昇し、胸腔には心臓・肺・血管など循環動態を担う様々な臓器が存在しているため、循環動態へ影響が出ます。その影響を右室系、左室系に分けてそれぞれ解説していきます。

1:右室系への影響

■右室前負荷:静脈灌流量

右室にとっての前負荷(preload)は右房への静脈灌流量と同じです。ではこの静脈灌流量はどのように決まり、陽圧換気がどのような影響を与えるのでしょうか?まず静脈灌流量ですが、静脈灌流量はIVC, SVC圧と右房圧の圧較差により受動的に決まります

血流は高校生の時に習った電気回路に例えて考えると分かりやすいです。電流=電圧差/抵抗と同じように血流=還流圧/血管抵抗となります。ここでは
静脈灌流量=(IVC,SVC圧 – 右房圧)/静脈血管抵抗となります。これをグラフにすると下の様になります。静脈灌流量に関しては詳しくまとめたチャプターがあるのでこちらをご参照ください。

このように右房圧が上昇すると静脈灌流量が減少します。陽圧換気では、胸腔内圧が上昇します。胸腔内圧は右房圧にそのままつながるため、陽圧換気で右房圧は上昇します。このため、陽圧換気→胸腔内圧上昇→右房圧上昇→静脈灌流量減少となります。

輸液負荷を行うとグラフが右上にシフトするため(下図青線)、同じ右房圧でも静脈灌流量が上昇します(下図赤丸)。実際陽圧換気で血圧が下がってしまう病態の場合は輸液負荷で対応します(呼吸への負担の問題もありますが)

■右室後負荷:肺血管抵抗

右室にとっての後負荷(afterload)は肺血管抵抗(PVR: pulmonary vascular resistance)となります。肺血管抵抗は肺容量との関係性があります。肺容量が少ない場合(無気肺)は低酸素性血管収縮(hypoxic vasoconstriction)もしくは血管がゆがむことで血管抵抗が上昇します。また肺容量が多い場合は肺胞過伸展により間質の毛細血管を圧迫することで毛細血管抵抗が上昇します(下図参照)。

この関係を表現すると”U字カーブ”のグラフになります(下図参照)。

通常の呼吸では肺容量はFRC(functional residural capacity)周囲なので、肺血管抵抗は高くありません。しかし、人工呼吸管理で陽圧換気になると、肺胞過伸展による毛細血管圧迫で肺血管抵抗は高くなります。

もともと無気肺の場合は陽圧換気によってFRCに近づくことで血管抵抗はむしろ低下します。このように「もとの肺の状態」と「陽圧の程度」によって肺血管抵抗は変化します。無気肺の場合を除く多くの場合では陽圧換気によって肺血管抵抗は高くなります。

■右室系への影響まとめ

・前負荷:静脈灌流量 減少
・後負荷:肺血管抵抗 肺容量により変化(多くの場合上昇)

2:左室系への影響

■左室前負荷

左室前負荷は右室から駆出された血液量と同じです。今までの右室系のまとめから右心室拍出量は減量するため、左室前負荷も低下します。

■左室後負荷

左室は大動脈の圧に打ち勝つために心筋が収縮して圧を作ります。つまり左室収縮期圧が大動脈圧を上回るまで上昇しないといけません。ここに陽圧換気はどう関係しているのでしょうか?

通常の陰圧呼吸では、胸腔内圧が陰圧になるため左室の収縮と逆方向に力が働くことになります(下図左参照)。例えば大動脈圧が120mmHg、胸腔内圧が-20mmHgだとすると、左心室は120-(-20)=140mmHgの圧を作り出さないといけません。これに対して陽圧換気では、胸腔内圧が陽圧になるため、左室の収縮を後押しする方向に力が働きます(下図右参照)。 例えば大動脈圧が120mmHg、胸腔内圧が+20mmHgだとすると、左心室は120-(+20)=100mmHgの圧を作り出さば十分です。 このように陽圧換気は左室後負荷を軽減する方向に働きます。

■左室系への影響まとめ

・前負荷:減少
・後負荷:減少

3:病態との関係性

これまで右室系・左室系の循環動態に対する陽圧換気の影響を解説してきました。まとめると、右室系は前負荷減少・後負荷増加により右室拍出が減少する影響があり、左室系は前負荷・後負荷いずれも減少することで左心系の負担を軽減する効果があることが分かりました。以下病態ごとにこの影響を考えます。

■左心不全

左心不全では前負荷が軽減することで肺うっ血が改善し、後負荷が軽減することで心拍出量が改善する可能性があります。このため、左心不全ではむしろ病態に良い影響をもたらす可能性があります。

■右心不全

問題なのが右心不全です。先の通り右室前負荷減少と後負荷増加により右心心拍出量が減少することで、右心不全は悪化します。具体的には右室梗塞、肺塞栓症、慢性肺疾患が背景にある場合の肺高血圧症などが挙げられます。このような場合は先の通り輸液負荷で対応しすこしでも右室前負荷を増やすしかありません。

以上人工呼吸管理と循環動態の関係に関してまとめました。人工呼吸管理が必要な患者さんは多くの場合循環の問題もかかえています(敗血症性ショック、心不全など)。このため、人工呼吸管理の呼吸への影響だけでなく循環への影響にも習熟していることが管理の上で重要です。参考になれば幸いです。

参照
・Respir Care 2014;59(12):1937 人工呼吸管理と循環動態の神reviewです。「重症患者管理マニュアル」を読んでいてこの引用文献を知り読みましたが、グラフを交えながら非常にわかりやすく解説されており、これを読めばとりあえず全体像がつかめると思います。

“人工呼吸管理と循環動態” への5件の返信

    1. 記事をお読みいただき、またコメントいただき大変有り難うございます。
      大変励みになります。ありがとうございます。
      今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!

  1. 通常呼吸と人工呼吸での圧の関係がとても納得できました。また、左心不全が良い影響になる可能性には驚きです。
    質問ですが、抜管した後の体循環(尿量や血圧など)はどの様な変化を来すのでしょうか?

    1. 記事をお読みいただき、またコメント頂き大変有り難うございます。
      抜管後の体循環に関してご質問ありがとうございます!
      患者さんが左心不全でない状態を過程します。抜管後は陽圧換気が解除されるため、胸腔内圧が下がり→前負荷が上昇し、心拍出量が増加し通常は体循環の血圧は上昇します(抜管後、心臓の後負荷も上がりますが通常これよりも前負荷が上昇することでの血圧上昇の効果が大きいです)。
      またご疑問点などございましたらお教えいただけますと幸いです。

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