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高CK血症へのアプローチ

高CK血症で紹介受診になることはままあると思います。ここではそのアプローチに関して検討します。

鑑別

・物理的圧迫:昏睡状態での長期臥床、事故での外傷
・筋肉の過剰使用:痙攣、過度な運動、アルコール離脱症候群
・熱性:悪性症候群、悪性高熱症、熱中症
電解質/代謝低K血症、低P血症、低Ca血症、低Na血症、甲状腺機能低下症/亢進症、副甲状腺機能低下症
筋/神経疾患炎症性筋疾患筋強直性ジストロフィー筋ジストロフィー(特に成人発症の場合はFSHD、女性でもDMD/BMDのキャリアは注意)、糖原病(特にポンぺ病)、ミトコンドリア病、末梢神経障害(SBMAなど)、運動ニューロン疾患、有棘赤血球舞踏病
・感染症:ウイルス(インフルエンザ、コクサッキーウイルス、EBV、HIVなど)、細菌感染症(レジオネラ、A群溶連菌、黄色ブドウ球菌)
・中毒:一酸化炭素中毒、シアン化物中毒、アルコール、蛇咬傷、違法薬物
薬剤性:スタチン(±フィブラート製剤)、コルヒチン、抗精神病薬が3大原因
*その他の薬剤:プロポフォール、ダプトマイシン、抗うつ薬、IFN、リチウム、キノロン、など
*スタチンは特にフィブラート製剤や他剤(シクロスポリン、ワーファリン、アミオダロン、アゾール系抗真菌薬、カルシウム受容体拮抗薬など)との相互作用で横紋筋融解症のリスクが上昇する。
マクロCK血症

*参考:入院患者の新規CK上昇の2大原因
1: 心筋梗塞:入院患者のCK上昇では必ず心電図・心筋逸脱酵素を確認する
2: 薬剤性:スタチン、コルヒチン、抗精神病薬が多いが、その他の薬剤も多く報告があり注意
*入院2-3日後の場合は入院直前の筋損傷エピソードから遅れてCKが上昇している可能性もあり注意が必要。

病歴・診察

以下に関しては別の記事「筋疾患へのアプローチ」で詳しく解説しているためこちらもご参照ください。

出生・発達歴:周産期異常はなかったか?発達は通常だったか?(floppy infantではないか?) 幼少期の運動能力
家族歴:ジストロフィン異常症は特にキャリアでも高CK血症を呈するため注意
薬剤歴:スタチンが圧倒的に原因として多い

筋力低下の有無(MMT)
筋萎縮:特徴的な分布がないかどうか?(例:深指屈筋+大腿四頭筋でIBM、左右非対称・顔面でFSHDなど)
筋把握痛:筋炎
Gowers徴候
percussion myotonia/grip myotonia:筋強直性ジストロフィー(顔貌もチェック必要)
顔貌
Beevor徴候:FSHDで特徴的
歩行形式:lordosis, waddling gait

その他の身体所見
皮膚所見:皮膚筋炎に特徴的な所見 mechanic’s hand(機械工の手:抗合成酵素症候群で特徴的), Gottron’s sign, Heliotrope erythema, V-sign, Shawl sign, nail fold capillary abnormalityなど

検査

採血検査
・生化学:LDH, AST/ALT, Na, K, Cl, 甲状腺機能
+α:筋炎関連抗体(下図参照:筋炎を疑う場合に検討)
・心筋逸脱酵素:トロポニン
・アイソザイム提出:特にマクロCK血症がないかどうか?
・乳酸・ピルビン酸:ミトコンドリア病を疑う場合

特殊な検査(必要に応じて検討):ポンぺ病スクリーニング(ろ紙法)・遺伝子検査

*参考:筋生検前に検討するべき遺伝子検査
・DMD/BMD:Dystrophin
・筋強直性ジストロフィー:DMPK CTG repeat異常
・FSHD:DUX遺伝子D4Z4 repeat短縮(サザンブロット法)
・眼咽頭型筋ジストロフィー:PABPN1遺伝子 GNC repeat伸長
・GNEミオパチー:GNE遺伝子変異

以下は必要に応じて検討

心エコー検査:心筋障害合併を疑う場合

骨格筋CT検査:筋萎縮の分布を調べるためのスクリーニングとしては優れている(傍脊柱筋や大腿の萎縮分布などは体表上からどうしても評価に限界があるためCT検査が有用)
骨格筋MRI検査:炎症所見の検出に優れる(生検部位の決定や針筋電図の施行部位などにも参考となる)

針筋電図検査こちらを参照・筋強直性ジストロフィーでは筋力低下前の状態からmyotonic dischargeを検出できる場合もあり有用

筋生検こちらを参照

無症候性(asymptomatic)高CK血症の場合どのようにアプローチするべきか?

このテーマは実臨床でよく遭遇するテーマですが、2010年にEFNSのガイドラインがありますのでまず紹介します( Eur J Neurol. 2010;17:767-773. )。ただあくまでも以下の推奨は大規模臨床試験がないためClassⅣ, level C recommendationになることはご留意ください。

1:高CK血症は>上限値の1.5倍で定義
2:筋疾患以外の原因を考慮(前述の鑑別と概ねかぶりますのでリストは省略します)
3:家族歴を聴取(神経筋疾患、高CK血症、悪性高熱症)
4:1回の検査だけではなく最低1か月あけて2回の採血で証明されるべき、また運動による上昇を避けるため採血前7日間は強い運動を避けてから採血する
5:上記確定した場合はNCSとEMGを実施するべき
6:筋生検は以下1つ以上該当する場合に実施するべき
1:CK値が上限値の3倍以上、2:針筋電図が筋原性変化、3:25歳未満 、4:運動誘発性疼痛や運動不耐、5:女性でCK値<3倍上限の場合は生検前にジストロフィーキャリアの可能性を考慮
7:男性でCK値<3倍上限値の場合は患者が真剣に神経筋疾患の懸念がある場合は生検考慮するが、そうでなければ神経内科でフォローアップ
8:生検後の免疫染色や遺伝子検査などするべき

CQ:針筋電図は全例必要か?

ただ個人的にはこうするとほぼ全例針筋電図を実施となってしまい、個人的にはこれはやりすぎなのではないか???とも思いますが皆様はご意見いかがでしょうか?筋力低下の無い状態での針筋電図は正直解釈がなかなか難しく、myotonic discharge検出目的なら意義はわかりますが、MUPや最大干渉からのmyopathic chageの指摘は正直MMTが下がってからでないと厳しいと個人的には思います。

CQ:筋生検は必要か?

・上記ENFSのガイドラインでは1:CK値が上限値の3倍以上、2:針筋電図が筋原性変化、3:25歳未満の上記いずれかに該当する場合に筋生検を実施するべきとされています。
・無症候性の高CK血症の筋生検に関しての報告では約25%で診断的であったとされています。
・筋生検をしても結局非特異的な結果しか得られない場合ももちろん多いので、具体的に何を考慮しているか?を予めきちんと決めることが重要で、そうでないと先に遺伝子検査をするべき疾患で筋生検をすると侵襲度がおかしいので注意が必要です。特に近年は遺伝子検査で診断できる範囲が拡大しているので注意するべきかと思います。

参考文献
・NEJM 2009;361:62-72
・CHEST 2013; 144( 3 ): 1058 – 1065
・Muscle Nerve 47: 805–815, 2013 無症候性に関してのreview
・Eur J Neurol. 2010;17:767-773. 前述のガイドライン