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脊髄くも膜下出血 spinal subarachnoid hemorrhage

脊髄くも膜下出血は全くも膜下出血のうち1%未満と非常にまれな病態ですが、今まさに悩んでいます。血性髄液で頭蓋内クモ膜下出血がどうしても見つけられない場合(動脈瘤含めて)、鑑別に挙がる病態かと思います。

臨床像・原因

突然発症の背部痛が最も多いです。また通常CSFは流れているため血液を洗い流す”wash out”ため生理的に血腫(凝血塊)が形成されにくく、血液がくも膜下腔を通じて上下に広がる髄膜刺激徴候や頭痛、背部痛や下肢痛を呈する場合もあります(後述しますが疼痛が移動することも特徴的のようです)。意識障害を呈した症例などの報告もあり、去年の症例も不穏を呈していたことが強く印象にに残っています。

ただCSFの流れが障害されている場合などに血腫を形成する場合があり、血腫が拡大して脊髄圧迫をきたしす場合もあるため注意が必要です。

*脊髄の髄膜と出血・血腫位置の解剖学的関係まとめ

原因:外傷・医原性・血管奇形・動静脈婁・腫瘍・凝固異常・特発性など

■特発性脊髄くも膜下出血5例+既報例のまとめ Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 26, No. 12 (December), 2017: pp 2840–2848

本報告での経験5例+既報19例=24例 *LP後などの原因が明らかではない特発例に限定した報告
疼痛部位:頭痛9例, 頸部痛6例, 背部痛21例, 下肢痛3例, 移動性の疼痛16例, 髄膜刺激徴候13例
spinal CTで検出 3例(実施が9例)
hematoma合併例:11例
部位:Cervical3例,Thoracic16例, Lumbar8例・腹側10例, 背側10例
*spinal DSA異常所見なし
治療:本5例(保存3例、spinal drainage1例、手術1例)+既報19例(保存9例、手術10例)
予後:神経学的後遺症 本5例中1例のみ、既報19例中5例

簡単なまとめ:臨床的には移動性の疼痛が特徴で(脊髄に沿って出血がくも膜下腔を上下へ広がることによって生じると考えられる)、部位は胸髄領域が最多

■”spinal subarachnoid hematoma”の報告まとめ Acta Neurochir (Wien) (2005) 147: 741–750

この報告は”hemorrhage”ではなく、“hematoma”に特化している点に注意です。
全体:69例 男性36例、女性32例(1例は性別記載なし) 年齢52±19歳 *<18歳は3例のみ
原因:医原性31例、凝固障害9例、外傷11例、特発性12例、その他6例
診断:外科的または剖検91.3%、画像8.7%
治療:外科的82.6%、保存的17.4%死亡:25.7%

検査

脊髄血管造影検査:dAVFなどの血管奇形検索目的に必要 Goldstandard

脊髄MRI検査血腫の同定に有用(亜急性期はT1WI高信号)
*血腫が上下方向に拡がる+硬膜に接していない所見(血腫と硬膜との間にくも膜下腔を認める)が重要(そうでないと硬膜外血腫との鑑別が難しい)

参考:脊柱管内血腫の分類・画像上の特徴
1:硬膜外 両凸型・脊髄背側から硬膜を腹側へ圧排・2-3椎体間が多い・頸椎~上位胸椎に多い
2:硬膜下(くも膜下を含む)三日月型・脊髄腹側~傍正中に多い・広範囲胸椎~腰椎に多い *脊柱管内血腫の3%を占める(稀)
3:脊髄髄内

CT検査:急性期は高吸収の指摘が可能な場合もあるが感度は極めて低い

髄液検査:血性髄液

■意識障害・髄液糖低下を認めた脊髄くも膜下出血の症例報告 日老医誌 1998;35:924

84歳女性が約1週間の経過で意識障害をきたし受診。JCSⅡ-20, BT38.4度、HR70、項部硬直あり。髄液検査は血性、蛋白127mg/dL, 糖14mg/dL(血糖値122mg/dL)、細胞数220/μL(mono83%, poly 17%)、当初は細菌性髄膜炎や出血性脳炎疑い。頭部CT検査で両側側脳室に血液貯留あり。MRI第1腰椎付近の脊髄で血腫指摘。

*現在検討している症例も感染が指摘できないですが髄液糖が低下しています(去年の症例は低下はありませんでした)。くも膜下出血で髄液糖が低下することは既報で報告されており(70% 23/33例で髄液糖低下 Neurosurgery 1981;8:7-9 このテーマをpubmedで検索しても古い文献しかほぼありませんでした)、脊髄くも膜下出血でも同様で良いのかもしれません。くも膜下出血でなぜ糖が下がるのか?という機序が気になりますが分かりませんでした・・・。

治療

・血腫による圧迫神経学的所見:手術
・神経所見なし:保存的

*spinal drainageが有効であったとする症例報告もあるものの確立していない。

ご経験のある先生方是非色々とご教授いただけますと幸いです。