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SBMA: spinal and bulbar muscular atrophy 球脊髄性筋萎縮症

病態

・遺伝形式:XR X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子CAG repeat異常(38以上、通常は11-36、*47前後が多い(最大62))により変異AR(androgen receptor)が下位運動ニューロン核内に集積していくことが病態です(別名:Kennedy Alter Sung syndrome)。
・リピート数は病態を反映し、ポリグルタミン病のためanticipation(表現促進現象)があるが(世代を経るごとに発症が若年化する)、SBMAでは軽度です。
下位運動ニューロン障害が主体ですが、近位筋力低下、球麻痺を呈する点が特徴的です。

臨床像

発症:30-60才ごろのことが多いです(遺伝性疾患ですが、adult-onsetの病気である認識が重要です)。発症年齢とCAG repeatは相関関係があることが指摘されています。

■初発症状
下肢近位筋力低下 70.5%:階段昇降、座位からの起立、長時間の歩行困難
・上肢 31%
・球症状 11.4%
・顔面筋力低下 2.4%
*発症前から手の震えを自覚する場合があり、tremorの鑑別として重要です(tremorに関してはこちらもご参照ください)。筋肉の「つること」が目立つ場合もあります。
*fasciculation:安静時にあまり目立たないが収縮させると誘発される“contraction fasciculation”があります。
*この他にアンドロゲン不全症状として女性化乳房・体毛の減少・睾丸萎縮などを認めることが特徴です。
喉頭痙攣:誤嚥などをきっかけにして短時間の吸気困難を生じる発作を認める場合もあります。

■臨床経過

・下記の通り筋力低下を呈する前に手指振戦から発症する場合があり注意が必要です。基本的には緩徐な発症様式で、進行様式も緩徐です。

・予後には嚥下障害による誤嚥性肺炎、呼吸筋力低下による呼吸不全の関与が影響を与えます。

検査

CK上昇:ほぼ全例で認め特徴的な所見です(臨床症状出現前から認める場合がある)。先の報告では中央値CK=863.5±762.5 IU/L(n=182)と報告されています。

遺伝子検査:確定診断 *外注検査(BML)で調べられます

心電図:Brugada型心電図異常に関して報告あり Neurology. 2014;82(20):1813-1821.

髄液検査:通常実施しない

電気生理検査

■針筋電図検査
・高度の運動単位数減少を伴う神経再支配を反映して、MUPはhigh ampになることと、durationが延長することが特徴です。安静時自発電位はほとんど認めません。これは神経再支配が生じるよりも脱神経が進行するALSとは根本的に病態が異なることを表しています。
・SBMAのFib/PSWの出現頻度はALSに比べて著しく低く、むしろFasしか確認できないことが多いです。FasはALSほどのcomplexityはありません。

■神経伝導検査
自覚的、また他覚的な感覚障害がなくともSNAP ampが低下することが特徴として挙げられます(神経診察では振動覚の低下を認める場合があります)。個人的にはALS疑いの患者さんに神経伝導検査を行う意義の内の一つとして、このSNAP amp低下があるかどうか?を検索することが挙げられると思います(それ以外にもMMN除外の目的なども挙げられますが)。SNAP amp低下の原因としては後根神経節の障害が病態として指摘されています(下図参照 Brain 2008;131:229-239)。

文献:ALSとSBMAのSNAPによる区別(Muscle Nerve 45: 169–174, 2012)
・他覚的な感覚障害はないが、SNAPが低下していることは今までも多く指摘されている。多くのstudyが感覚神経もALSにおいて障害されることが指摘されているが、運動神経に比較して障害は少ないとされており、ALSとcontrolでSNAPampには有意差ない。
・今回の研究では発症時期とSNAPamp低下の相関関係はなかった→SBMAでは当初からSNAPamp低下があるのかもしれないことが示唆された。

・SNAP ampはbaseline to peakで測定median:13.8μV,Ulnar:10.7μL,Sural 9.9μVがSBMAとALSのcut offとして記載されています。

■ALSとの鑑別

文献:当初ALSと診断された患者のうち2%が遺伝子検査の結果SBMAであったことから、SBMAはunderdiagnosedの可能性がある。(Neurology 1997;49:568)
1:家族歴がなくても否定にはならない
2:女性化乳房がなくてもSBMAの除外にはならない
→家族歴がはっきりしなくでも男性の非典型的なALS患者で上位運動ニューロン徴候を欠く場合はSBMAの遺伝子検査をするべきと考える。

治療

LHRHアナログ:リュープロレリン leuprorelin

作用機序:LH-RH agonist→下垂体に作用して性ホルモンの産生を低下させる
一般名:leuprorelin 商品名:リュープリンSR®11.25mg 皮下注射用
投与法:12週間に1回皮下注射
元々の適応:前立腺がん、閉経前乳癌

注意点
初回投与:一過的な骨疼痛増悪・脊髄圧迫、尿路閉塞症状・うつ・一過的なSBMA症状悪化

副作用:ほてり 15.8%、便秘、体重増加 12.5%、関節痛 10.4%、肝逸脱酵素上昇、糖尿病悪化、血栓塞栓症、下垂体卒中、心不全、うつ状態