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振戦 tremor

振戦(tremor)は主動筋・拮抗筋が交互に収縮を繰り返す相反性(reciprocity)と律動性がポイントです。日常臨床ではよく遭遇するテーマなのでここで勉強した内容をまとめます。

分類

■姿勢状況による分類

静止時振戦 resting tremor (代表)パーキンソン病
姿勢時振戦 postural tremor (代表)本態性振戦、甲状腺機能亢進症
動作時振戦 action tremor (代表)本態性振戦、Lance-Adams症候群、脊髄小脳変性症(特にDRPLA)

■周波数による分類

・周波数はだいたい4-8Hzであり鑑別にとても役立つかというと難しい場合も多い(Muscle Nerve 2001;24:716)。
・起立性振戦は周波数が速い点と、Holmes振戦や口蓋ミオクロニーは周波数が遅い点は特徴的である。

■診察方法

1:安静時:膝の上などにおいてもらい震えを確認する
2:姿勢時:両前腕を前方挙上して維持する
3:finger nose test:通常の小脳失調で診察する”finger nose test”を行い確認
4:決闘者徴候:左右の人差し指を1cmくらい離れる距離に近づけて、振戦が増悪するかどうかを診察する
5:計算負荷

*家族歴:てんかんの家族歴には特に注意(BAFME)
*薬剤の確認:薬剤性の原因
*アルコール歴聴取

鑑別診断

本態性振戦
Parkinson病:安静時+4-6Hz・pill-rolling tremor・re-emergent tremor(姿勢を取って時間が経過してから出現する振戦、比較的特異的とされる) 増悪因子:計算(精神的負荷)・緊張・歩行
・Holmes振戦:動作時>安静時、遅い周波数(中脳・赤核の障害)
起立性振戦(orthostatic tremor):14-16Hzと非常に速い振戦を下腿に認め、細かいため視認することが難しく下腿屈側に聴診器を当てるとヘリコプターの様な音が聴取できる場合がある。患者さんは振戦そのものよりも立位を維持するのを不安定に感じ、並んで待つ状況などを避けるようになる。
・末梢神経障害:NF155陽性CIDP(若年・深部感覚障害・髄液蛋白上昇・治療抵抗性)
・小脳失調
・内分泌疾患:甲状腺機能亢進症、Wilson病(40才以下の患者に不随意運動を認める場合はWilson病を疑う)
薬剤/中毒アルコール離脱
・変性疾患:FXTAS(振戦発症が多い→失調)、SBMA(振戦発症が多い→筋力低下)
・てんかん:BAFME(良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん)
・特異な状況:起立性振戦(orthostatic tremor)、1次性書字性振戦(primary writing tremor)

外来患者さんで最も多いのはパーキンソン病本態性振戦で、両者の違いを下図にまとめます。しかし、tremor onsetのパーキンソン病は初期には本態性振戦と区別が困難な場合もあり、フォローアップする過程でその他の錐体外路症状が顕在化してこないかの確認が必要です。変性疾患のなかでは振戦発症することがあるFXTASとSBMAに注意が必要です。

入院中患者さんでは薬剤性中毒、アルコール離脱に注意します。

*薬剤性振戦の原因
抗不整脈薬:アミオダロン、メキシレチン、プロカインアミド
抗うつ薬:アミトリプチン、リチウム
抗てんかん薬:バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン
交感神経刺激/気管支拡張薬:SABA、テオフィリン
化学療法:シスプラチン、タクリパキセル、ドキソルビシン、メトトレキサート、シタラビン
ホルモン:甲状腺ホルモン補充
腸管:メトクロプラミド、H2RA(シメチジン)
免疫:タクロリムス、シクロスポリン、IFN-α
抗精神病薬:ハロペリドール、レセルピン

検査

表面筋電図:振戦と客観的に評価するためには必要となる検査です。主動筋と拮抗筋に電極を付けて、両者が同時に収縮せず、交互に収縮する相反性(reciprocity)を証明することが最も有用な方法(対照的に同時に収縮することを同期性:synchronousと表現する)。

*下図はパーキンソン病で特徴的なre-emergent tremor

脳波検査:BAFMEなど鑑別に挙げる場合に検討

頭部MRI検査:DRPLAでは脳幹・小脳の萎縮など

DAT scanなど核医学検査:パーキンソン症候群を疑う場合に検討(必須ではない)

採血検査:甲状腺機能(全例ルーチンで測定して良い)・CK・肝逸脱酵素・セルロプラスミン