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bihemispheric PICA

先日両側PICA領域の小脳梗塞で、片側のPICAが両側小脳を還流している血管解剖の症例がありました。bihemispheric PICAと呼ばれ調べた内容を簡単にまとめます(血管造影検査を日常的にされている先生方にとっては当たり前の内容かもしれません)。

解剖

・椎骨動脈から分岐→延髄周囲を走行→小脳扁桃と第四脳室屋根後半部の間を通過→小脳半球と小脳虫部→vermian branch(medial branch), tonsillohemispheric branch(lateral branch)に分かれて小脳半球に分布
・PICAは発生学的に最も後に形成されるため血管の破格が多い(分岐部の位置、低形成、AICA-PICA complexなど)
・片側のPICAが低形成/無形成の場合(約16%)
 ①同側AICA or SCAが発達してPICA領域を還流する
 ②AICAとPICAが共通幹(common trunk)を形成
 ③bihemispheric PICAが対側のPICA領域も還流する

・どのくらいの頻度であるのか?:3.6%(既報では0.1%とされていたが)

The bihemispheric posterior interior cerebellar artery: anatomic variations and clinical relevance in 11 cases. J Neurointerv Surg. 2013 Nov;5(6):601-4. doi: 10.1136/neurintsurg-2012-010527. Epub 2012 Nov 20. PMID: 23172540.
血管造影検査を後ろ向きに検討して11例(3.6%)に認めた(文献上最も大規模な検討)

両側性小脳梗塞に関して

Cerebrovasc Dis 2008;26:541–548

小脳梗塞の31%が両側性梗塞(n=50/162) *既報は12% Stroke1993; 24: 1697–1701.
病型:アテローム血栓性 54%, 心原性 28%, 不明 14%
血管支配:PICA領域が最多(梗塞部位は小脳下部の内側が最も多い)

両側性PICA領域の小脳梗塞12例報告 NEUROLOGY 2000;55:582–584

両側PICA領域の小脳梗塞が生じる可能性としては以下5つが挙げられるが、②が関与している可能性が高い
①閉塞した脳底動脈から生じる両方のPICA
② 片側から生じるPICAが両方のmedial PICA領域へ分枝を供給している
③ 大きなPICA梗塞による圧力効果
④ 最も周辺の枝に低灌流を伴う血行動態機構
⑤ 同時塞栓性機序

臨床上のメッセージ

両側小脳梗塞ではPICAの破格であるbihemispheric PICAによる梗塞の可能性を考慮する

参考文献
・後下小脳動脈 true bihemispheric variant 閉塞による両側小脳梗塞の 1 例  脳卒中 J-STAGE 早期公開 2020 年 11 月 10 日