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脊髄髄膜瘤による仰臥位失神

「仰臥位」になるときだけ再現性をもって頭痛と失神を生じ、「側臥位」では生じない症例がありました。最初全くわからず悩んだのですが、調べると色々わかってきました。

まとめ

髄膜瘤(meningocele):硬膜欠損により硬膜外にCSFが貯留する病態
→先天性に椎弓欠損により生じる髄膜瘤 meningocele (硬膜に覆われる)と、椎体切除術後(月~年単位後、頻度0.007%-2%)、外傷後などに二次性に生じる偽性髄膜瘤 pseudomeningocele (軟部組織に覆われる)がある

仰臥位失神が生じる病態:仰臥位により髄膜瘤内のCSFが圧迫されくも膜下腔に流れ込む→頭蓋内圧が上昇→脳血流量が低下し失神に至る

Take home message:仰臥位で繰り返す頭痛,失神(側臥位では生じない)では髄膜瘤を疑う

症例報告

“Giant lumbar postoperative pseudomeningocele inducing positional syncope” BMJ Case Rep 2024;17:e259235.

症例報告:70歳代男性、4年前に腰椎椎間板ヘルニアに対してL4-5椎弓切除術術後
主訴:繰り返す仰臥位での意識消失 2年前に始まり頻度が増加
腰椎部に巨大な術後の偽性髄膜瘤があり MRI仰臥位は失神するため撮像できず、横向きで撮像
術後の偽性髄膜瘤:頻度0.068-2%と報告 腰椎領域の方が多い CSF圧がcaudal thecal sacで高いことや、純粋に腰椎領域の手術が多い 多くが無症候性で自然に吸収されるが、一部は神経症状を呈する(術後月~年単位後に生じることがある)

“Meningocele-induced Positional Syncope and Retinal Hemorrhage” AJNR 2003;24:838-839.

症例報告:78歳女性 20歳時に腰背部転倒歴あり、腰部の腫瘤増大あり
腰部の腫瘤部を圧迫すると、耳鳴りと視野がぼやけて、星が見える感じがある
仰臥位または坐位での圧迫により失神を経験するようになる(頭痛を伴う) 側臥位や立位では生じない→患者は自然と側臥位で寝て、座るときは特殊な枕を使用して同部位を圧迫しないようにしていた
その後頸動脈検査のため仰臥位にされてしまい、そこで意識消失、意識回復後に左眼網膜出血あり
*手術はされていない

teaching point: 頭蓋内圧亢進の原因が頭蓋内ではない可能性がある

Neurologia 2021;36:625-656.

症例報告:64歳女性 術後偽性の髄膜瘤 仰臥位と立位で頭痛(その後意識消失)を伴う 前駆症状はなく、頸部や上肢の腕の運動は関係なく、自律神経症状随伴なし 1分以内に意識は改善 当初は2週間に1回の頻度が、1週間に3回へ増加 髄膜瘤部の皮膚を圧迫すると頭痛が再現される
術後これらの症状は消失し再燃なし

“Giant Lumbar Pseudomeningocele Compression Mimicking Stroke and Seizure” Neurology: Clinical Practice October 2021 vol. 11 no. 5 e763-e765

症例報告:81歳女性 腰椎手術歴あり 突然発症の失語と不穏にて受診 TIAを当初考慮 しかしその後2回不随意運動がありてんかんの可能性を考慮されて抗発作薬投与 その後2年間で頻度が増加し受診
看護師が仰臥位で生じるが側臥位や立位では消失することを指摘

仰臥位または物理的な偽性髄膜瘤の圧迫により症状再現があり

Practical implications:仰臥位での頭蓋内圧亢進を疑う場合は、偽性髄膜瘤の物理的圧迫を考慮すべきである “when they occur in supine position, transient intracranial hypertension shoud be considered”

“Compression of a giant pseudomeningocele causing transient anoxic seizures — a case report” Acta Neurochirurgica 2018; 160:479 – 485.

症例報告:26歳女性 2か月前に腰椎術後 腰部に腫瘤があり、同部位を圧迫すると頭痛が出現あり 坐位または仰臥位で失神することが数回あり(かなり巨大な髄膜瘤あり 論文中に写真あり) 脳波所見を検索
術後症状は寛解し再燃なし

巨大な髄膜瘤(≧8cm)の症例報告まとめ

“Pseudomeningocele induced transient loss of consciousness in Marfan syndrome” Intern Med J. 2010 Mar;40(3):228-30.

症例報告:31歳女性マルファン症候群で各種合併症あり 仰臥位になるときや背部に圧迫が加わるときに頭痛とめまいがあり、仰臥位になったときに3回意識消失あり(自律神経症状やauraといった前駆症状なし) ペースメーカー元々挿入あるものの不整脈など指摘なし 腰背部に腫瘤あり 術後寛解

“Positional headache and syncope associated with a pseudomeningocele.” Arch Neurology 1980; 37:
736–7. 文献取得できず

PS 雨で桜がだいぶ散り始めています 2024/4/9