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パーキンソン病 周術期管理

神経内科医の仕事(コンサルテーションでよくある依頼)としてパーキンソン病患者さんの周術期での薬剤調整があります。以下術前、術中、術後管理に分けて記載させていただきます。

項目解説
生じる合併症誤嚥性肺炎、尿路感染症、せん妄、低血圧
リスク因子麻酔方法・薬鎮静:プロポフォール脳定位手術は避ける 鎮痛:オピオイドは筋強剛悪化の可能性 筋弛緩:非脱分極性(脱分極性は悪性高熱リスク)
周術期管理 注意点手術前MAOB阻害薬は術前休薬必要(セロトニン症候群) 当日朝はそのまま内服
手術中パーキンソン病に適した麻酔方法は確立していない 体位変換による起立性低血圧注意
手術後できるだけ早期から元の内服を再開 制吐剤、抗精神病薬を避ける、起立性低血圧 誤嚥性肺炎注意(嚥下評価を必ず行う)、せん妄
内服困難LEDDを計算⇒静注用レボドパ製剤へ切り替え *貼付薬ロチゴチンは低用量であれば可能

周術期合併症

・誤嚥性肺炎、尿路感染症、せん妄、低血圧の頻度が多い

術前の管理

術前に中止するべき薬剤:MAOB阻害薬(セレギリン・ラサギリン)

・MAOB阻害薬とオピオイド薬の併用でセロトニン症候群を引き起こす可能性が示唆されています(セロトニン症候群に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください)。このため術前2周間前からの休薬が推奨されています。
・MAOB阻害薬はこのように他のセロトニン濃度を上昇させる薬剤と併用すると、セロトニン症候群のリスクが上昇するため併用薬にかなり縛りがあり、注意が必要です。

手術当日

当日朝分のパーキンソン病治療薬はそのまま内服する(手術前ぎりぎりまで内服は継続する)。

周術期麻酔管理

麻酔薬の影響をまとめると下記の通りです。実際には麻酔科の先生方に管理していただくことになりますが、情報として知っておくべきです。

・鎮静薬:プロポフォール(ジスキネジア増悪の可能性はあり・脳定位手術では避ける)、チオペンタール(安全)

・鎮痛薬:フェンタニル、レミフェンタニル(筋強剛を増悪させる可能性がある点に注意するが頻度は稀である)
*オピオイドがシナプス前からのドパミン放出が抑制されることにより生じるとされている

・吸入麻酔薬:イソフルラン、セボフルラン(安全)、ハロタン(不整脈誘発リスクがあり避ける)
・筋弛緩薬:非脱分極性ロクロニウム(パーキンソン病悪化の報告なし)*脱分極性は悪性高熱を生じる可能性あるため避ける

⇒パーキンソン病の手術麻酔において確立した方法はない(いずれもケースレポートやケースシリーズによるもの)

British Journal of Anaesthesia 2002; 89 (6): 904-16.

抗パーキンソン病治療薬

内服が困難な場合:元々の内服薬でのLEDD(levodopa equivalent daily dose:Levodopaに換算した1日投与量)を計算する。その値の半量~等量の静注ドパミンを1日数回に分けて投与する(「慣習的には」静注用は内服量の半分程度で良いとされています)。内服薬と静注レボドパへの切り替えの換算量・換算式に関する明確な報告はない。
*貼付薬(ロチゴチン)、皮下注射薬(アポモルフィン)も選択肢としてありますが、静注薬の方が確実に投与できるため私は静注薬を使用するようにしています。

使用する静注用レボドパ製剤 商品名:ドパストン 製剤:50mg/20ml, 25mg/10ml

例)LEDD=300mg/日の場合→静注ドパミン量=150mg/日なので
処方:ドパストン50mg+NS100ml 3時間かけて投与 1日3回投与(6,14,22時)
*24時間持続点滴をしても良いとされている(ドパミン濃度の乱高下を下げて一定に保つという意味では理にかなっている)

内服ができるようになったらすぐに元々の薬剤を再開する。

ロチゴチン管理に関して

・LED対応関係はわかっていない、確立した比はなく”x33″とするものや”x20-30″とするものなど様々。
・元々高用量のLEDの場合は、ロチゴチン単独での管理は困難である

臨床研究
・ロチゴチンへ切り替えた14例の報告(LEDとの換算はバラバラ、手術前日の19時に貼付、中央値12mg/24hr)では問題なく切り替え可能と報告 Transdermal rotigotine for the perioperative management of Parkinson’s disease “J Neural Transm (2010) 117:855–859”
・パーキンソン病で外科手術を受けた65例の術後合併症に関して検討した後ろ向き研究:術前ロチゴチン使用が独立した術後合併症のリスク因子に挙げられている Medicine 2023; 102:17

術後管理

制吐剤

メトクロプラミド(プリンペラン)、プロクロルペラジン(ノバミン)は中枢性ドパミン拮抗作用を持つため避ける
ドンペリドン(ナウゼリン)を使用し、内服が困難な場合は座薬を使用する。

せん妄

・抗精神病薬をできるだけ避け、使用する場合はクエチアピンを検討。
ドパミン受容体作動薬、アマンタジンは特にせん妄誘発リスクが高い。

誤嚥性肺炎

・嚥下障害が生じやすいため特に注意。嚥下機能評価を行う。

疼痛管理

・オピオイドは可能であれば避けて(パーキンソン病患者では便秘、鎮静作用、呼吸抑制などの副作用が生じやすいため。もちろん禁忌ではない。)、アセトアミノフェンやNSAIDsでの管理を優先する。

参考文献

・BRAIN and NERVE 67(2):205-211,2015 「パーキンソン病患者における外科手術への対応」下畑享良先生の記事:なかなかパーキンソン病の周術期管理に関する記事がないなか非常に勉強になる内容です。

Peri-operative management of patients with Parkinson’s disease Anaesthesia 2022, 77 (Suppl. 1), 123–133

British Journal of Anaesthesia 2002; 89 (6): 904-16. 少し古いがこの領域の代表的なreview文献(だいたいこれが引用されている、特に各麻酔薬の解説に関して詳しい)
“A Pragmatic Approach to the Perioperative Management of Parkinson’sDisease ” Can J Neurol Sci. 2021; 48: 299–307