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顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー FSHD: facioscapulohumeral dystrophy

遺伝形式

遺伝子:D4Z4 正常:10回以上の反復 FSDH1患者は反復回数が3~10回程度と少ない →DUX4(毒性のあるたんぱく質)による障害
遺伝形式:AD *約30%は親に4q35欠失は認めずde novoと考えられている(孤発例あり)

臨床像

■左右差のある筋萎縮
“Facioscapulohumeral muscular dystrophy can show marked side-to-side asymmetry of muscle involvement.”

■障害されやすい部位:顔面筋・前鋸筋(翼状肩甲)・腹直筋・傍脊柱筋
(病名から下肢や体幹は障害されないと勘違いされないように注意)
・ある時期からat randomに一部の骨格筋が萎縮し始めることがある
・進行の程度はさまざま
“When present in combination, the following key signs are highly suggestive of facioscapulohumeral muscular dystrophy: weakness on forced eye closure, transverse smile, pectoral wasting, scapular winging, poly-hill sign, Beevor sign, and ankle weakness that occurs before hip girdle weakness.”

顔面筋:笑うときに口角が上がらずに横笑い(horizontal smile)になる、閉眼不良による兎眼、口唇が前にでて良く見えることも特徴 lip pursing
*眼瞼下垂や咬筋萎縮を生じにくい点が筋強直性ジストロフィーや先天性ミオパチーと異なる点

翼状肩甲(scapula alata, scapular winging):前鋸筋の萎縮による・肩を外転または屈曲して診察
上腕近位の萎縮:前腕筋は比較的保たれることでの”Popeye arms”が有名だが、上腕二頭筋断裂により生じる”Popeye徴候”との混同も問題となり用語の使い方に注意。
*園生先生の教科書(「MMT・針筋電図ガイドブック」)には上肢挙上障害の主因は前鋸筋や僧帽筋の筋力低下による肩甲固定不良であると記載されています。

*参考:前鋸筋(Serratus Anterior) 長胸神経(C5-7)支配 *腕神経叢との関係はこちらをご参照ください
・MMTの方法:肩関節を90度屈曲・肘関節最大屈曲位「肘を前に突き出してください」(よく肘伸展位でMMTを検査する方法が行われていますが、この場合上腕三頭筋の筋力が保たれていることが前提になるためこのようにした方が望ましいと記載されています)
→肩甲骨内側縁が浮き上がる場合に筋力低下と判断する
・障害される疾患:肩甲上腕型筋ジストロフィー神経痛性筋萎縮症
参考:links.lww.com/CONT/A207

脊柱起立筋:腰を反らすようになることが多い(腰椎前弯 lordosis) *逆に側彎は生じにくい

腹直筋:腹直筋は上方の方が残りやすく、Beevor徴候陽性となることで有名(こちらに詳しく記載があります)
参考:links.lww.com/CONT/A208

“Restrictive respiratory involvement is found more frequently in patients who are severely affected by facioscapulohumeral muscular dystrophy, and cardiac involvement, when present, is typically not structural but most commonly manifests as asymptomatic supraventricular arrhythmias.”

*通常認めないもの
・眼瞼下垂 外眼筋障害
・舌障害 嚥下障害
・拘縮
・心筋障害

■筋外症状

・網膜血管障害(Coats病)
・難聴

“While extramuscular manifestations such as retinal vascular changes and hearing loss can be found in one-fourth to one-half of patients with facioscapulohumeral muscular dystrophy, only a minority of patients, typically with a small number of residual D4Z4 units (1 unit to 3 units), ever have symptomatic involvement.”

■予後

・50歳以上の約20%は車いすが必要となる
・筋ジストロフィーの中では比較的経過は保たれる

検査

骨格筋CT検査:萎縮筋の分布に関してはこちらのホームページがとても有用なのでご参照ください。上腕を下げて撮像。https://neuromuscular.wustl.edu/pathol/diagrams/musclemri.htm

筋生検:他疾患の除外目的で、本疾患に特異的な所見はなし

遺伝子検査:確定診断

鑑別診断:LGMD(type2A, calpain 3A欠損), ミトコンドリア, 封入体筋炎, ポンぺ病、IMNM

治療:現在のところ病態修飾薬は確立したものなし

参考文献
・筋疾患診療ハンドブック 中外医学社
・Continuum (Minneap Minn) 2016;22(6):1916–1931. おそらくreviewとしては最も優れている。keypointsを本文中にそのまま引用させていただいております。