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重症筋無力症 治療

ここでは重症筋無力症の「治療」を扱います。臨床像や検査、診断に関してはこちらをご参照ください。また重症筋無力症クリーゼに関してはこの記事では扱わずこちらをご参照ください。重症筋無力症の治療管理は本当に医師によって大きく異なるところですが、2022年よりガイドライン改訂も発表され、一部その内容も踏まえてまとめていきます。まだ完全ではないのですが、適宜updateしていきます。

治療の原則

・重症筋無力症は完全緩解は難しい疾患であり(背景:ここ50年間で死亡率は低下したが・寛解率に変化はない)、治療は生涯にわたることを意識し、QOL維持を最優先とする治療戦略をはじめの時点で患者さんと医療者で共有する必要があります(2014, 2022ガイドライン胸痛)。
・重症筋無力症の治療はかつては胸腺摘出術とステロイド大量投与が行われていましたが、ステロイドの長期使用に伴うQOL低下・副作用の問題もあり、完全寛解や早期MM5mgに関連しないためステロイドの漸増漸減は推奨しない(推奨2B 2022ガイドラインより)。漫然としたステロイド投与は厳に避けなければいけない
・治療目標はPSL5mg/日以下でQOLを維持する、MM-5mg((minimal manifestations with PSL<5mg)であり、早期のMM-5mgを目指すことを目標に免疫抑制剤の他剤を併用したり、早期に血漿交換療法や免疫グロブリン療法を併用するEFT(early fast-acting treatment strategy:早期速効性治療)を導入検討(推奨1C 2022ガイドラインより)。
*免疫療法開始から約5年間は達成が増加するが、以後ほとんど増加しないためなるべく早期の達成を目指す。

EFT(early fast-acting treatment strategy:早期即効性治療戦略)

・従来のステロイド漸増/大量投与とは異なり、発症早期から血漿交換もしくはIVIG+ステロイドパルス療法を併用することで病勢を早期に抑えてその後の長期的なステロイド投与量を少なく抑える治療方法です。イメージとしては火事をまず一気に消防車の放水で鎮火して、その後は消化器で火がまた拡大しないようにする方法です。
・従来治療に比して、EFTはMM5mgの早期達成率が高い(推奨1C ガイドライン2022より)
・病態早期の段階からカルシニューリン阻害薬を併用することが望ましい(推奨1C ガイドライン2022より)。

■EFTを検討した後ろ向き研究(日本での研究 “Japan MG registry study”からのデータ) Muscle Nerve 55: 794–801, 2017

・この重症筋無力症(全身型かつ免疫抑制治療を受けている)のコホートでは全体の36.1% (249/688人)でEFTが選択されています。MM5を6ヶ月以上達成がEFT群の方が達成率が高い。また曲線が時間が経過すると頭打ちになることが示唆されます。

免疫グロブリン静注療法・血漿交換療法

■免疫グロブリンと血漿交換のRCT Neurology ® 2011;76:2017–2023

中等度~重症の重症筋無力症(QMG score>10.5)で増悪傾向にある患者をIVIG群とPE群に分けて、14日後のQMG scoreの変化をprimary outcomeに設定して検討したRCTです。secondary outcomeにはその後のQMG scoreの変化と電気生理検査結果の推移を検討しています。

結論としてはprimary outcomeに関して両群で有意差は認めない結果でした。

対症療法

コリンエステラーゼ阻害薬

・神経終末から放出されるアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害することで、シナプス間隙のアセチルコリン濃度を上昇させることで効果を発揮する対症療法薬です。あくまで対症療法であり根本的な病態を治療している訳では無い点に注意が必要です。
・基本的に使用するのはピリドスチグミン(商品名:メスチノン)です。その他のコリンエステラーゼ阻害薬はジスチグミン(商品名:ウブレチド クリーゼリスク高い)、アンベノニウム(商品名:マイテラーゼ)、ネオスチグミン(商品名:ワゴスチグミン)があります。
・ピリドスチグミン(メスチノン)3錠/日まででコントロールできない場合は、錠数を増やすよりも免疫治療を加える(もしくは強化する)ことを検討した方が望ましいです(コリン作動性クリーゼのリスクもあるため:下図が症状)。
・重症筋無力症クリーゼ(myasthenic crisis)では通常コリンエステラーゼ阻害薬は中止します。重症筋無力症クリーゼとコリン作動性クリーゼの鑑別が難しい点と、重症筋無力症クリーゼとしてもコリン作用により気道分泌物が増加してしまうことで気道管理に影響が出うるためです(重症筋無力症クリーゼに関してはこちらをご参照ください)。

ステロイド・免疫抑制薬

ステロイド

・重症筋無力症の治療の要として重要です。ただ前述の通り漫然と高用量のステロイド投与が続いてしまうことは厳に避けなければなりません(ステロイド高用量投与期間とMM5は関連しない Muscle Nerve 2014;51:692)。前述の基本原則通りPSL5mg/日以下を目標としていきます。
*経口ステロイドresponderとpoor-responderが存在する(「長期的な経過」で減量が上手く人も上手くいかない人がいる)
・また2022ガイドラインで明記された通り従来行われていた漸増漸減は推奨しないとなっている点に注意です。
・治療早期の段階でMM5mgを達成するかどうかは頭打ちになってしまうため、EFTを導入してカルシニューリン阻害薬も併用し、ステロイドを初期から低用量にとどめる努力が求められます。
・ステロイドの問題はステロイド投与による初期増悪です。これを相殺する意味あいで上記血漿交換療法や免疫グロブリン療法と併用してステロイドパルス療法を使用します。

*ステロイドに併用する免疫抑制剤は日本と海外でややスタンスが異なり、日本ではカルシニューリン阻害薬(特にタクロリムス)がよく使用され、海外ではアザチオプリンがまず併用される傾向にあります(日本では重症筋無力症に対してシクロスポリン、タクロリムスは保険収載がありますが、アザチオプリンは保険収載がありません))。これも確固たる決まりはなく施設毎や医師ごとにかなり処方の傾向が異なるかもしれません。

免疫抑制薬

・ガイドライン:2014年と2022年で免疫抑制薬に関して大きな変化はありません

カルシニューリン阻害薬

早期の段階から導入することが重要(MM5mg達成においても重要)
・具体的にはシクロスポリン、タクロリムスが挙げられます。カルシニューリン阻害薬の具体的な副作用や使い方に関してはこちらをご参照ください。

アザチオプリン

・ステロイドと併用し、steroid-sparingの効果を期待します(RCT Neurology 1998;50:1778)。
・効果発現には非常に時間がかかるため、早期の効果発現には適していません。
・アザチオプリンの作用機序など詳しくはこちらをご参照ください。
・海外の文献ではステロイドとアザチオプリンの併用がステロイドとカルシニューリン阻害薬の併用よりも多く報告されています。
・海外では重症筋無力症治療に対して標準的に使用されますが、日本では保険収載がない点に注意が必要です。個人的にはコントロール不良の糖尿病や腎機能障害がある患者さんでカルシニューリン阻害薬が使用しづらい場合にアザチオプリンを使用する場合があります。

胸腺摘出術

1:胸腺腫合併例→胸腺摘出術推奨
2:胸腺腫非合併例
 *以下年齢ごとに検討
・EOMG:抗ACh受容体抗体陽性+胸腺過形成例 弱い推奨
・LOMG:1st lineではない(基本的に推奨しない)

・ガイドライン:上記2014, 2022年で変化なし

*参考:非胸腺腫合併MGに対する胸腺摘出術”MGTX study”(単盲検試験) NEJM 2016;375:511

・50歳以上では統計学的有意差はない

分子標的薬

難治性MGの定義:「複数の経口免疫治療薬による治療」または「経口免疫治療薬と繰り返す非経口即効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合である

補体標的薬

抗AChR抗体陽性+全身型MGでのeculizumab 今後記載追加していきます

FcRn阻害薬

FcRn阻害薬についてこちらのまとめをご参照ください

眼筋型MG治療

・ガイドライン:2014と2022で新規変更点なし
全身型への進展防止を目的とした早期からの免疫治療は推奨されない
・短期間はステロイドパルス療法が有用(実臨床でも使用されることが多い)

生活指導

1:安静度 安定している場合は日常生活・運動・就労に制限なし 過労は注意・体温上昇は増悪のため注意
2:増悪因子 別記参照
3:飲酒・喫煙 直接的な影響は不明
4:ワクチン接種 MG増悪リスクではなし・生ワクチンは免疫抑制薬やステロイド禁忌で注意
5:妊娠・出産 また別に記事を作れればと思います
6:歯科治療 通常処置には支障なし
7:社会制度 難病申請

参考文献
・MG/LEMS診療ガイドライン2022 監修:日本神経学会 *第63回日本神経学会学術大会での講演