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Chorea(舞踏運動)

臨床像

・”chorea”はギリシャ語で「踊り」を意味する言葉に由来します。特徴としては「動きがランダムであること」が重要です(不規則で予想が出来ない)。動きの速度が速いとミオクローヌスに見えることがありますが、choreaはランダムであることが鑑別と点として重要です。
parakinesia: “chorea”を日常の動きの中に取り入れてあたかもchoreaを隠すかのような動き(カモフラージュ)をします。
(例)上肢のchoreaを呈する場合そのまま髪をとかすような動きをすることで、通常動作の中にchoreaの動作がまぎれてしまうようになる。
motor inpersistence(運動持続障害)持続的な運動を維持できない 例:挺舌(数秒で口の中へ戻ってしまう)、手を握る動作を維持できない(検者の指を握ってもらうとwaxing-and-waning grip strength(milkmaid’s grip)を感じる)。
“Ballism”:choreaとの厳密な区別は難しいがより四肢の近位を巻き込むことが特徴。診断や治療へのアプローチは”chorea”と同様に扱う。
・choreaの程度が軽度のものはただそわそわしているだけに見えて見逃してしまう場合があるため、下肢をきちんと診察台からおろして、靴下を脱いだ状態で観察することが重要です。

参考 dystonia:基本的には肢位(posture)であり、持続する・またパターン化した動作であり予想可能である
(1) patterned
(2) task specificity(動作特異性)
(3) sensory trick
(4) co-contraction(共収縮):主動筋と拮抗筋が同時に収縮する
(5) overflow phenomenon
(6) morning benefit

鑑別

障害部位による鑑別

1:前頭部領域(forehead) Huntington病
*前頭部はtardice dyskinesiaでは通常障害を免れるため有用な鑑別点となる

2:口腔顔面領域(orobuccolingual) Tardive chorea, 肝疾患, 有棘赤血球舞踏病こちら)、Lesch-Nyhan症候群、NBIA(PKAN, neuroferritinopathy, Lubag病)、Wilson病
*MSAによるLevodopa-induced dyskinesiaはorobuccolingual regionに認めやすい(パーキンソン病は四肢に認めやすいのに対して)

3:片側(hemichorea) 頭蓋内疾患(対側視床下核>基底核・放線冠)・NKHG(非ケトン性高血糖性舞踏病 こちらを参照)・Polycythemia vera・その他
*全身疾患でもhemichoreaを呈する場合があるため(例えばSydenham chorea)画像所見で原因が特定できない場合は全身疾患も考慮するべき

成人発症からの鑑別

・成人発症でハンチントン病の遺伝子検査が陰性であった場合のフローチャートは下記の通りになっています(Neurol Clin Pract 2016;6:150–156)。
・小児はSydenham choreaが原因として最多。
・成人の遺伝性ではハンチントン病が最多であり、海外ではC9orf72, SCA17が続く。
*ハンチントン病は小児発症の場合はchoreaではなく、パーキンソニズムやジストニア、発作を呈する点に注意。
・人種:HDL2はアフリカ系にしか認めない

鑑別一覧

1:遺伝性 一般的にinsidious onset/symmetricな場合が多い

ハンチントン病(成人発症の原因として最多):こちらをご参照ください
Wilson病こちらを参照
有棘赤血球舞踏病こちらを参照
DRPLA:choreoathetosisは20歳以降の成人発症(失調・パーキンソニズム・認知症)で多い(小児期はてんかん・ミオクローヌスが主体)*脊髄小脳変性症に関してこちらのまとめも参照
NBIA:Neuroferritinopathy, 無セルロプラスミン血症に多い(PKANは純粋なdystoniaを呈しchoreaは呈さない場合が多い)*NBIAに関してはこちらもご参照ください

2:後天性 一般的にacute onset/assymmetricな場合が多い

自己免疫疾患/傍腫瘍性:血管炎(APS,SLE)、Behcet病、Sjogren症候群 肺小細胞癌CRMP5, 自己免疫性NMDA, LGI1, Hu, CASPR2, 抗IgLON5
血管障害:脳梗塞、脳出血、もやもや病(脳血管障害と不随意運動に関してはこちらのまとめもご参照ください)
内分泌代謝/電解質異常糖尿病性舞踏病こちら参照)、VitB1,12欠乏、Na,Ca中毒:CO,Mg,水銀、トルエン、タリウム
感染症:Sydenham chorea(リウマチ熱小児の原因として最多)、髄膜炎、脳炎、HIV
薬剤:下記参照(Levodopaが原因として最多)
その他:妊娠(chorea gravidarum:ある病気というよりも元々のchoreaが妊娠中に増悪する病態*必ずハンチントン病、SLE、APS、甲状腺機能亢進症などの背景疾患を検索するべき)、真性多血症(PV)、senile chorea(高齢者原因不明)

検査

血液検査:血液像(有棘赤血球がないかどうか?)・生化学(肝逸脱酵素・腎機能・電解質 Ca, Mg, 血糖値, HbA1c)
内分泌関係:甲状腺機能・フェリチン・セルロプラスミン
自己抗体:抗核抗体、LA、抗リン脂質抗体
*腫瘍を認めない舞踏運動に関連した自己抗体:leucine-rich glioma-inactivated 1 (LGI1), NMDA, IgLON5, contactin-associatedprotein 2 (CASPR), GAD65, CRMP-5/CV2
*傍腫瘍性舞踏運動に関連した自己抗体
Hu, Yo, LGI1, NMDA, IgLON5,CASPR, GAD65, CRMP-5/CV2, striational muscle

遺伝子検査:ハンチントン病

頭部MRI:注目するべきポイントは以下の通り
・T1WI尾状核「高」信号:糖尿病性舞踏病に特異的な所見(こちら参照)
・DWI(ADC map):視床下核・基底核周囲の虚血はないかどうか?
・T2*WI, T2WI:NBIAに特徴的な画像所見はないかどうか?
尾状核萎縮ハンチントン病や有棘赤血球舞踏病などで認める所見(ハンチントン病に特異的な所見ではない点に注意)

治療

1:日常生活に支障をきたしているかどうか?
2:根本的な治療法は? (例)高血糖性舞踏病の血糖管理、多血症の瀉血、APSでの免疫治療など
3:対症療法の選択をどうするか? 薬剤・DBS・リハビリ

対症療法:薬剤に関して

・presynaptic dopamine depletors:テトラベナジン、レセルピン

・postsynaptic dopamine receptor blocker:抗精神病薬
・ハロペリドール
・オランザピン、リスペリドン、クエチアピン

参考文献

・Neurol Clin Pract 2016;6:150–156 
・Curr Neurol Neurosci Rep (2015) 15: 1 choreaの鑑別と治療のまとめ
・CONTINUUM (MINNEAP MINN) 2019;25(4, MOVEMENT DISORDERS):1001 – 1035.