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脳血管障害と不随意運動

脳血管障害は続発性のmovement disordersのうち22%を占め、また脳卒中側からみると脳卒中全体の1-4%にmovement disorders(パーキンソニズムやchorea, ballism, athetosis, dystonia, tremor, myoclonus, stereotypies, akathisia)を合併するとされています(Lancet Neurol 2013; 12: 597–608)。ここでは脳血管障害と不随意運動に関しての文献などをまとめます。

■2次性不随意運動103例まとめ European Journal of Neurology 2012, 19: 226–233

ここでは続発性の不随意運動の原因を検討しています。原因としては血管性22.3%、感染性20.4%、占拠性病変17.5%、低酸素15.5%、核黄疸2.9%、外傷14.6%、代謝性6.8%とされています。

このうち血管性に関してまとめます。
・内訳:動脈性脳卒中65%(梗塞80%、出血6.7%)、AVF13%、血管炎13%
・脳血管障害から運動障害までの期間:1か月未満 38.1%、2か月~1年 52.4%、1年以降 9.5%
・不随意運動:dystonia 56.6%、hemiballism 13.1%, dystonia plus 8.7%, parkinsonism 8.7%, tremor with dystonia 4.3%, mix 4.3%, chorea 4.3%, tremor 4.3%

■脳卒中後の運動障害56例まとめ J Neurol Neurosurg Psychiatry 2004;75:1568–1574.

Eugenio Espejo Hospital Stroke Registryの1500例中56例(3.7%)で脳卒中1年後までの間に不随意運動を呈したと報告されています。予後としては1年後に21.4%は完全に不随意運動が改善し、67.8%は部分的に改善し、7.1%は改善しなかったとされています。

不随意運動の中ではchoreaが最も多く35.7%に認め、choreaを呈した患者は有意にその他の不随意運動を呈した患者と比べて高齢であり、また不随意運動の発症が早いことがわかりました。

■脳血管障害と不随意運動に関するreview Eur Neurol 2012; 68: 59–64.

脳血管障害に伴う不随意運動は1.1-3.9%程度報告されており、成人ではchorea, limb shaking syndrome, hemiballismが多く、小児はdystoniaが多いとされています。不随意運動を呈する脳血管障害の病型としてはsmall vessel diseaseによるラクナ梗塞が最も多いとされています。

脳血管障害の急性期にきたす不随意運動としてはchorea, hemiballismが最も多く、limb shakingは内頚動脈の高度狭窄もしくは閉塞を認め、ミオクローヌスやasterixisはまれとされています。一方でdystoniaは脳血管障害から数か月遅れて出現する場合が多いとされています。

limb shaking TIAに関して

limb shaking TIAは背景に内頚動脈の高度狭窄や閉塞があり、短い(持続時間は5分未満とされいます)、jerkyで粗造な不随意運動を呈します。ベッドや椅子から起き上がる、頸部を伸展させる、咳嗽などの脳血流が低下する行為によって誘発されることがあるとされこの点が「てんかん発作」との鑑別点として極めて重要です(BMC Neurology 2006, 6:5)。車から出ようとするたびに手が勝手に動き鍵を落としてしまうことがあり当初はてんかん部分発作と診断されていた患者がその後limb shaking TIAと診断された衝撃的な症例報告もあります(Neurology 1999, 53:650)。神経を専門とする医師として必ず認識していないといけないと常々思っております(てんかん部分発作?と思ったらmust be ruled outな病態として想起する)。

■脳血管障害後のhemichorea J Neurol (2004) 251:725–729

27例の脳卒中(脳梗塞22例、脳出血5例)後のhemichorea(脳卒中全体の0.54%: 27/5009例)を検討した文献です。男性18例、女性9例、年齢は平均63±10歳(48-78歳)。脳卒中とhemichoreaの出現した時系列に関しては、85%(23人)の症例では脳卒中と同日にhemichoreaを認めており、3例は脳卒中の翌日、1例は5日後に発症した(つまり全例脳卒中発症から5日以内にhemichoreaを発症)。

障害部位は尾状核・被殻6例、皮質6例、視床と視床下核領域4例、視床下核4例、比較3例、尾状核2例、淡蒼球2例であり全例障害部位と反対側にhemichoreaを認めています。hemichoreaは視床下核が関与しているとされているが、この報告では線条体の障害報告が多く、線条体→淡蒼球外節(GPe)への繊維連絡が障害されることで、GPeの神経活動を賦活化し、また視床下核を抑制することが関与しているのではないか?と考察されています。

フォローアップは平均22か月行われ56%の症例でhemichoreaは消失したが(hemichoreaの持続期間は平均15±24日)、それ以外では持続した(平均18±23か月)がほとんどの症例で程度は軽減したとされています。

■脳梗塞皮質病変によるhemichorea Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases, Vol. 29, No. 10 (October), 2020: 105150

上記の報告にもある通り、皮質病変でhemichoreaを呈した症例報告もあり、ここでは4例の報告をまとめています。いずれも頭頂葉~島皮質部分に梗塞巣を認めています。

*参考:hemiballismの原因

今までは主に脳卒中側からの見てきましたが、不随意運動側から見てみると、hemiballismの原因としては今まで紹介してきた脳血管障害が最も多いとされています(特徴的なのは高血糖高浸透圧性舞踏病(1960年に報告されて以降hemiballismの原因として2番目に多く報告されており、アジア人に多く、血糖降下後数時間で消失することが多いが、20%は3か月以上症状が持続する、頭部MRI検査で被殻にT1WI高信号域を呈することが特徴:下図参照)とHIV感染症によるもの、その他:腫瘍、血管奇形、結核腫、脱髄性病変、結節性硬化症病変、SLE、APS、血管炎、薬剤、頭部外傷、インフルエンザA型感染症、低Ca血症、副甲状腺機能低下症 参照:Lancet Neurol 2003; 2: 661–68)。またhemiballismの責任病巣としては視床下核が最も有名ですが、視床下核以外の部位でもhemiballismが生じることが指摘されています。

hemiballismの原因一覧を掲載します(参考:Current Treatment Options in Neurology 2005, 7:203–210)。

*参考:視床下核のMRI画像での位置関係