高次脳機能の評価は詳細に行うとなるととても時間がかかります。これらの詳しい検査はSTさんや神経心理士さんに実際には行っていただくことになりますが、急性期病院のベッドサイドでスクリーニング的に評価できることもとても重要と思います。ここで高次脳機能の細かい分類にこだわりすぎると話がなかなか先に進まないところがあるので、私が行っている分類・スクリーニングを紹介させていただきます。もちろんこれが完璧な方法ではないですが少しずつブラッシュアップできればと思っています。
分類・総論
私は以下の通り大きく5つに分類してアプローチしています。
1)注意・遂行機能
2)言語:失語
3)記憶:健忘
4)行為:失行
5)視覚:視覚性失認
・高次脳機能の何が難しいかというと「このことをいうためには何が必要条件なのか?」という必要条件・十分条件の関係が理解しづらいことに起因します。つまり、「この患者さんは観念運動失行です」と表現したとしても「いや、そもそもそこの患者さん患者からの指示をきちんと言葉として理解できているの?(=言語理解に問題はないの?失語はないの?)」というつっこみがきてしまうことになります。
・全体を通して必要条件になるのは「覚醒」と「注意」が保たれているという点になります。次に評価上重要になるのが「言語機能」です(多くの評価を「言語」を通じて評価するため・もちろん言語理解を介する必要がない項目も存在しますが)。必要条件と十分条件を言葉で書くと極めてややこしくなるため、やはり図示することが最も理解につながりやすいかと思います。まだまただ不確定なところもおおいですが私なりに以下のようにまとめてみました。
各論
注意・遂行機能障害
・多くの高次脳機能評価上必要条件となるのが「覚醒」と「注意」です。特に注意障害が強いと30分を超えるようなbatteryはとても耐えることができません。
言語の認知障害:失語
・失語の詳細に関してはこちらをご参照ください。
・前述の通り非常に多くの高次脳機能を評価する上で必要条件となります。
記憶の障害:健忘
・こちらのまとめをご参照ください。
・記憶は言語だけでなく「視覚」との関連がとても深い点が重要です。
行為の障害:失行
・こちらのまとめをご参照ください。
・失行は必要条件が多いため注意が必要です。つまり、失行を評価するには当たり前ですが必ず「指示」が必要となるため、この「指示」が理解できているかどうか?が重要となります。
・このため口頭指示の場合は言語理解が必要条件となります。
視空間認知障害:視覚性失認・半側空間無視・視覚性運動失調
・こちらのまとめをご参照ください。
・これも失語に次いで高次脳機能を評価する上で必要条件となる場合が多いです。
診察方法の実例
・以下に私が普段ベッドサイドでスクリーニング的に行う高次脳機能の評価に関して紹介させていただきます。もちろんMoCA-Jも比較的短時間で評価できる優れたツールがありますが唯一の難点が「評価用紙を毎回印刷してベッドサイドまでもっていく必要がある」という点です(毎回印刷すればいいだけの話かもしれませんがなかなか時間がないですよね・・・)。Trail making testもとても優れた評価方法ですが、これもいかんせん評価用紙がないと評価できません。私はめんどくさがり屋なので「なるべく評価用紙を使わなくても評価できる」点を重視しおおざっぱに評価しています(色々異論があるところもあるかもしれませんが・・・)。
1:注意・遂行機能障害
A:時間があるとき→FABを実施する *こちら参照
B:時間がないとき→簡易検査(MOCA-JやHDS-Rの「注意」の項目)
・数唱課題:逆唱「6-8-2」・「3-5-2-9」
・”あ”の時に手を叩いてもらう 「き・い・あ・う・し・す・あ・あ・く・け・こ・い・あ・き・あ・け・え・あ・あ・あ・く・あ・し・せ・き・あ・あ・い」 *2回以上間違えは得点なし
・“Serial 7”:”100″から”7″を順番に引き算してもらう= 93, 86, 79, 72, 65
2:言語(失語)
2.1: 言語理解
・簡単な口頭命令:「開閉眼の指示」
・yes/no question:「私は男ですか?女ですか?」「今の季節は冬ですか?夏ですか?」「部屋に電気はついていますか?いませんか?」など
・2段階命令:「私を指差してからご自身を指差して下さい」
2.2: 復唱
・単語:「しんぶんし」「れいぞうこ」など
・文章「みんなで力をあわせて綱を引きます」「新しい甘酒を5本のひょうたんに入れなさい」など
2.3: 自発話・物品呼称
・自発話:病歴聴取で確認する
・物品呼称:「えんぴつ」・「かぎ」・「とけい」など
*上記より言語理解・喚語障害・音韻性錯語・発語失行(失構音)などに関して評価
2.4: 書字・読字の評価(時間的余裕があれば行う→MMSEの項目でOK)
3:記憶(健忘)
・前向性健忘:MMSEの遅延再生「さくら・ねこ・電車」で評価 *または:「うめ・いぬ・自動車」
・逆行性健忘:生活歴の問診から確認
4:行為(失行)
・観念運動失行:「くしを持って髪をとかすまねをしてください」「歯ブラシを持って歯を磨くまねをしてください」「兵隊さんの敬礼のまねをしてください」
5:視空間認知
・5角形図形模写または立方体透視図模写課題
・CDT(clock drawing test):文字盤・長針/短針で「10時10分」を表記してもらう
*視空間認知の評価はどうしても「紙」が必要であるが、評価用紙でなくとも白紙を用意すれば十分である