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前頭葉機能の評価

FAB(frontal assessment battery)

前頭葉の6つの機能を簡便に評価できる優れた方法です。原著はこちらです”Dubois B, Slachevsky A, Litvan I, Pillon B. The FAB: a Frontal Assessment Battery at bedside. Neurology. 2000 Dec 12;55(11):1621-6. doi: 10.1212/wnl.55.11.1621. PMID: 11113214.。日本語版は4種類これまであるようであり(老年精神医学雑誌 2018; 29:1167-1174の記載を参照)、それぞれ微妙な違いがあるため一度原著を確認するのがよいかと思います。

1:類似性の評価 概念化 Similarities (conceptualization)

「これから言う2つのものはどこが似ているか教えてください。」
練習「まずは練習してみますね「電車」と「バス」」
*正答の場合:「はい結構です。次の質問も同じように答えてください」
*誤答または戸惑った場合:「電車とバスはどちらも乗り物ですね。 次の質問も同じように答えてください 」
質問1:「バナナとオレンジ」 *原著は”banana/orange”、日本語版ではorangeを「みかん」とするものもあり
質問2:「テーブルとイス」
質問3:「チューリップとバラとキク」 *原著は最後が”daisy”、日本語版では「ひまわり」とするものもあり
(実施上の注意点)
・1つずつ正誤を答えるのではなく、「はい結構です」といって次の質問に進める。
・15秒程度何も反応がない場合は次の質問に進める。

■判定
3点:3つ正解
2点:2つ正解
1点:1つ正解
0点:正解なし

2:語の流暢性 知的柔軟性 Lexical fluency (mental flexibility)

「”か”から始まる言葉を出来るだけ沢山あげてください。ただし人の名前や地名などは答えてはいけません。」
(実施上の注意点)
・最初の5秒間で答えが出ない場合は「例えば”かえる”」などヒントを与える
・更に10秒間答えがなかったら「”か”から始まる言葉では何でも良いですよ」など刺激を与える
制限時間は60秒、それまでに10語言えたら終了する

■判定
3点:10個
2点:6~9個
1点:3~5個
0点:3個未満

*原著は”S”から始まる言葉としている。ここも日本語版により「さ」や「か」、「あ」とするものと違いがある。
“Say as many words as you can beginning with the letter ‘S,’ any words except surnames or proper nouns.”

3:運動系列 運動プログラミング Motor series (programming)

「これから私がすることをよく見ておいてください」→Luria系統動作(拳-刀-掌”fist-edge-palm”)を左手で3回繰り返す *Luria’s fist-edge-palm test
「それでは私と一緒に同じようにやってみてください」
「次は1人でお願いします」
(実施上の注意点)
・被検者が右利きの場合は検者は左手で行う(お互いが鏡面になるように)
・内容を言葉に出してはいけない(つまり「グー」「ぱー」など動作を言語化しない)。

■判定
3点:一人で正しい系列を6回以上可能
2点:一人で正しい系列を3回連続で可能
1点:検者と一緒に3回連続で可能
0点:検者と一緒で3回連続不可能

*補足:Luria’s fist-edge-palm testの”fist”の手の向きが地面に対して平行か?垂直か?により難易度が変わる Cortex. 2023 Dec;169:191-202. PMID: 37944207.
・とても重要な論文をコメントで頂き紹介させていただきます(本当にありがとうございます)。
・Luria’s fist-edge-palm testの”fist”で手の向きが地面に対して平行(上図で紹介した通り・猫の手のようなイメージ)が元々Luriaが1962年に報告した方法です。
・ここで“fist”の手の向きが地面に対して垂直(じゃんけんで「ぐー」を出すのと同じイメージ)の方が平行よりも簡単になってしまうということが検証されています。
・このように少しの違いで検査感度が大きく変わってしまうため注意が必要です。

4:葛藤指示 干渉刺激に対する敏感さ Conflicting instructions (sensitivity to interference)

「私が1回たたいたら、2回たたいてください」
→練習1:「1ー1-1」
「私が2回たたいたら、1回たたいてください」
→練習2:「2-2-2」
「次は1回たたいたり、2回たたりするのでやってみましょう」
→本番:「1-1-2-1-2-2-2-1-1-2」

■判定
3点:間違えなし
2点:1,2回の違いで可能
1点:3回以上の間違い
0点:検者と同じように4回連続してたたく

*手を叩く(拍手)または机をたたくいずれでも良い。原著は”tap”とのみ記載がある。

5:GO/NO-GO 抑制コントロール Go–No Go (inhibitory control)

「今度はやり方が変わります。私が1回たたいたら、1回たたいてください」
→練習「1-1-1」
「今後は私が2回たたいたら、たたかないでください」
→練習「2-2-2」
「次は1回たたいたり、2回たたいたりするのでやってみましょう」
→本番「1-1-2-1-2-2-2-1-1-2」

■判定
3点:間違えなし
2点:1,2回の間違いで可能
1点:3回以上の間違い
0点:検者と同じように4回連続してたたく

6:把握行動 環境に対する被影響性 Prehension behavior (environmental autonomy)

指示1「手のひらを上にして、両手を膝の上にのせてください」
指示2「私の手を握らないでください」
検者が行うこと:検者が自分の手を被検者の手に合わせて1-2秒観察する。もし握ってしまった場合は「私の手を握らないでください」と言って同じ動作を繰り返す(再教示)。

■判定
3点:手を握らない場合
2点:戸惑って何をすればよいか尋ねてきた場合
1点:最初に握ってしまった場合(再教示では握らない)
0点:再教示でも握ってしまった場合

上記6項目それぞれ3点満点で18点満点で評価する。Youtubeに分かりやすい動画が掲載されていたため、こちらもご参照ください(英語の点ご了承ください)。

*注意点
・側頭葉の機能障害でもFABの点数は低下することが知られており(Brain 2013: 136; 2966–2978)、「FABの点数低い≠前頭葉機能障害」と必要十分な関係ではなく、あくまでも参考のスクリーニングという位置づけになります。

その他の前頭葉機能神経心理検査

TMT(trail making test)

Part A:用紙に書かれている数字を順番に線で結んでいく
Part B:数字とひらがなを交互に順番に線で結んでいく
評価項目:所要時間と誤反応数

WCST(Wisconsin Card Sorting Test)

色、形、数の3つの分類基準に基づいてカードを並び替えるテスト

modified Stroop test

文字を読まずに書かれている色を答える


BADS: behavioural assessment of the dysexecutive syndrome