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失語へのアプローチ

失語の分類と理解が自分の中でなかなかうまくできていませんでしたが(書籍によって書いてある内容もまちまちですが)、色々な本を読んで最近色々自分の頭の中でこねくりまわしていると下図の様にまとめると一番最大公約数的な理解になるかなと思いました(これでもまだややこしいし不完全ですが・・・)。個人の見解で「理解しやすいための図」「臨床ですぐに診察と病態がつながりやすい図」という側面を重視している点をご了承ください。高次脳機能は専門の方から「違う」とご指摘いただくことが多い分野なので、いつも記事に書く時に少し慎重になるのですが今回は少し自分なりのまとめとしてみました。ご意見ございましたらコメントで頂けますとありがたいです。

言語の理解から表出の流れ

・言語の理解~表出に至る過程を下図にまとめました。
・この経路の入口は大きく3つです。「言語理解(語音の認知)」、「視覚認知(物品呼称)」、「復唱(理解を介さずにそのまま言葉を返す)」です。
・言語は記憶とも関係があり、言葉を記憶から思い起こす作業=「喚語」の経路も存在します。
・この経路の出口は大きく2つあり「言語流暢性」(言語での表出)または「行動」です。前者が失語では特に問題となり、これは後述します。
・この言語表出を行う自発性(これらの言語回路の「エンジン」のような役割)が障害されるのが「超皮質性運動失語(transcortical motor aphasia)」に該当します。このため、発話量が非常に少なくなる点が超皮質性運動失語の特徴です。

言語の流暢性とは何か?

・古典的失語分類でまず問題になるのが「流暢性(fluency)という言葉が何を意味しているかあいまいである」という点です。
・これを要素に分解すると「音韻性錯語」「失構音(発語失行:apraxia of speech)」「失文法」と3つに分類してみたいと思います(それぞれ対応する病巣がおおまかに決まっています)。
*以下は昔の方が印刷の新聞などで行っていた活字拾い(文選)に例えて考えます。個人的にはこの活字拾いが失語をイメージするときに一番しっくりきます。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 活字ひろい.jpg

1)音韻性錯語:活字を選び間違えてしまう *「伝導失語」が対応
・錯語:言い間違えのこと
→音韻性錯語(音の言い間違え)と語性錯語(単語レベルの言い間違え)に分類される
・音韻性錯語では何度も言い直して正しい言葉に近づこうとする「近接行為」を認める場合がある
・責任病巣:左上側頭回後部~縁上回~中心後回
(例)「えん”ぴ”つ」を「えん”ぺ”つ」と言ってしまう
*語性錯語は単語をそもそも間違えてしまうため例えば「えんぴつ」を「ぺんぎん」と言ってしまう間違い

2)失構音(発語失行):活字を並べて単語を作るときに、つなげかたがぐちゃぐちゃ
・ 構音のゆがみ(五十音どれにも該当しないような音)、音の連結障害、抑揚・アクセントの障害が一貫性なく出現する
・責任病巣:左中心前回中下部
(例)「ぺんぎん」→「ぺ・・・・んぎ・・ん」 *構音障害は間違い方に一貫性がある点が鑑別点。

3)失文法:単語はきちんと活字を並べることができているが、単語同士のまとまりの並べ方がばらばら
・責任病巣:左下前頭回(三角部、弁蓋部:Broca野)
(例) 「昨日カレーライスを食べました」→「カレーライス、食べる、昨日」

喚語障害:活字の元々ある場所が思い出せない(単語を想起できない) * 「失名辞失語」 が対応
・ 責任病巣:左下前頭回(三角部、弁蓋部:Broca野)~中前頭回、左角回、左下側頭回の後部~前方部
(例) 「あの、・・・あれ」といった表現が増加したり、考え込んでしまう
*物品呼称の際に何か道具を見せた場合は、その道具の用途は明確に話すことが出来る

*下図は 「原発性進行性失語の分類と診断」BRAIN and NERVE 72 (6):611-621,2020 を参考に管理人作成

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復唱の障害は何を意味しているか?

・復唱では言語理解や言語記憶を介する必要なく、言語流暢性(=赤い囲みで囲んだ部分)に問題がなければ可能となります。このため純粋な言語流暢性の評価(上図の赤い囲み部分)に非常に適したテストとなります。
・例えば「伝導失語(conduction aphasia)」は音韻性錯語を呈するため、復唱に支障が生じます。同様にBroca失語の範囲とWernicke失語の範囲も赤の囲み内を含むため復唱障害を呈します。
・この言語流暢性(=赤い囲みで囲んだ部分)を障害しない病態であれば、復唱障害は出現しません。このため「超皮質性失語」や「失名辞失語」では復唱障害を生じません

物品呼称が障害されている場合に考えること

・一般的に失語のチェックをする際に物品の呼称をテストします(「鍵」や「えんぴつ」など)。
・ここで注意が必要なのは視覚性失認を除外した上で初めて失語の評価が可能になるという点です(=視覚性失認の除外が必要条件)。視覚性失認に関してはこちらをご参照ください。

結局どのように失語疑いへアプローチするか?

もちろんしっかり評価することは重要なのですが、実臨床で困るのは「そんなベッドサイドで全部評価する時間ないよ」「救急車での対応で失語の評価をするのに、そんなにたくさん無理でしょ・・・」とあまりに評価項目が多いことにあるかと思います。そこで私なりに簡単に評価する失語評価に関してのアプローチを紹介します(私案)。

1:言語理解 (入口「聴理解」から出口「行動」で評価している:下図青色部分)
・簡単な口頭命令:「開閉眼の指示」
・yes/no question:「私は男ですか?女ですか?」「今の季節は冬ですか?夏ですか?」など
・2段階命令:「右手で左耳を触ってください」
*評価可能な項目:ここで言語理解を確認する *この時点で重度の言語理解障害を認める場合は以下の指示が入らないため評価が不十分になる可能性がある

2:復唱 (入口「復唱」から出口「言語表出」で評価している:下図緑色部分)
・単語:「しんぶんし」「れいぞうこ」など
・文章「みんなで力をあわせて綱を引きます」「新しい甘酒を5本のひょうたんに入れなさい」など
*評価可能な項目:ここで流暢性の各要素を確認する(ここで喚語障害や言語理解障害は評価できない)

3:自発話・物品呼称 (入口「視覚認知」から出口「言語表出」で評価している:下図赤色部分)
・自発話:病歴聴取で確認する
・物品呼称:「えんぴつ」「かぎ」 *視覚性失認の要素で間違える可能性がある
*評価可能な項目:喚語障害+ 流暢性の各要素を確認する (言語理解障害は評価できない)

4:書字・読字の評価
*救急対応では「書字・読字」をストレッチャーの状態ですぐに評価することは難しい場合も多いため、また別で紹介します。

これを先の図と対応させると下図のようになります。

私の苦手としている分野でもあり色々ご意見いただけるとありがたいです。

参考文献
・「高次脳機能障害の理解と診察」 編著:平山和美先生 中外医学社
・「原発性進行性失語の分類と診断」BRAIN and NERVE 72 (6):611-621,2020