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発作(Seizure)の臨床像

てんかんの臨床像を把握することは病歴聴取上極めて重要です。病歴聴取が不十分なまま脳波検査に突入しても迷宮入りしてしまうためまずは代表的な臨床像を知識として把握しておく必要があります。てんかんは「前提知識がないとそもそも何を問診すればよいか分からない」という事態に陥りがちなので重要です。これもまだ未完成なのですが適宜追記していきます。

発作(seizure)の3原則

①発作型が毎回同じ
②持続時間は1-2分と短い
③突然始まり、突然終わる

*上記は音成先生から教えていただいた内容です

発作型の分類 ILAE てんかん分類系統2017

てんかんの診断は以下の3段階で行います(成人ではてんかん症候群に該当するものはまれなので2段階目までになることが実際には多いです)。
1:発作型の分類
2:てんかん病型
3:てんかん症候群(これは該当しない場合もあります)

ここで最も重要(というかほとんど全て)なのは「1:発作型の分類」です。ここでは「病歴聴取」がなによりも重要です。かつては「部分発作」・「全般発作」と表現されていた言葉がILAE2017の分類から変化している点に注意が必要です。 Epilepsia, 58(4):512–521, 2017

FAS: focal aware seizure 焦点意識保持発作 *旧名:単純部分発作
FIAS: focal impaired awareness seizure 焦点意識減損発作 *旧名:複雑部分発作
FBTCS: Focal to bilateral tonic-clonic seizure 焦点起始両側強直間代発作 *二次性全般化  

GCTS: generalized tonic clonic seizureの臨床像

・ここでは全般起始発作の共通した臨床像に関してまとめます。GTCS(generalized tonic clonic seizure:全般強直間代発作)または焦点起始両側強直間代発作(FBTCS: focal to bilateral tonic clonic seizure)のいずれも共通するところです。

・まず四肢をつっぱる強直(tonic phase) が起こり、その後四肢の屈曲伸展を繰り返す間代(clonic phase)を呈する→
・これらの発作は通常2分以内に自然頓挫してくる→
・その後徐々に意識状態が改善してくる(注意:高齢者では意識障害が遷延しやすい*数時間から数日かかることもある)
・発作中は呼吸が断続的で不安定であることから呼吸性アシドーシスを呈し、筋肉の収縮活動により代謝性アシドーシス(乳酸貯留による)を呈する(混合性アシドーシス)。そのため発作後は代償的に大きな深い呼吸となり、意識障害が遷延することでの舌根沈下と相まって「いびき」を呈することが多い

*上記臨床像をきちんとイメージして問診することが重要である

前兆 (aura):非運動症状の焦点発作(focal seizure)

前兆=非運動症状の焦点発作(focal seizure)
・「前兆」というと片頭痛(migrane)のイメージで症状の前段階というイメージがあるかもしれませんが、てんかんの場合は「前兆それ自体が発作である」という理解が重要です。「前兆」という言葉はこのように誤解を招く場合があるため近年は「前兆という言葉をあまり使わない」ようにする流れにあります。
・これらの症状は非運動性で特に「恐怖や不安」などパニック障害・不安神経障害などと誤診されてしまう場合があり注意が必要です。

前兆(非運動症状の焦点発作)の臨床的意義
1:一過性意識消失(TLOC: transient loss of consciousness)の鑑別において「発作(seizure)」らしさを強く示唆する(通常「失神」では後述するような前兆は認めない)
2:全般性発作(generalized seizure)ではない(=焦点発作 focal seizureである)ことを意味する
(抗てんかん薬の選択においてとても重要)
3:焦点の解剖同定に有用

解剖部位と前兆の対応関係

側頭葉内側由来(扁桃体・海馬など)
・嗅覚:幻臭(ゴムの焼けるような臭い、魚の腐ったようなに臭い、ガスが漏れたような臭いなど)、味覚異常(不快な味を自覚する) *なぜか経験的にも不快と感じることが多い印象がある
・自律神経:突き上げるような心窩部違和感(epigastric rising sensation)、流涎、鳥肌、頻脈/徐脈
・記憶:既視感(de javu)、未視感(jamais vu)
・感情:恐怖・不安

側頭葉外側由来(新皮質)
・聴覚:耳鳴り 上側頭回
・平衡:めまい 中・上側頭回
・感覚:しびれ 島・弁蓋

後頭葉:幻視・視覚/視野障害

頭頂葉:しびれ

その他の側方徴候(lateralizing signs)を含めた焦点同定ヒント

舌咬傷(ipsilateral tongue biting):焦点と「同側」の舌側面を噛んでしまう 下図写真は自験例(患者さん許可済)

“figure 4 sign”:焦点の「反対側」上肢伸展

向反発作(versive seizure):焦点の「反対側」へ共同偏視+頸部回旋 *顔面はやや上を向いていることが多い

参考文献
・脳波判読オープンキャンパス誰でも学べる7STEP 著:音成秀一郎先生 監修:池田昭夫先生