脳波検査の解釈を非専門医が習得する必要は全くありません。ただ、「いつ脳波検査を依頼するべきか?」は非専門医であったとしても十分に分かっていた方が望ましいと思います。今回はそういった基本的内容に関してまとめていきたいと思います。脳波検査の電極やアーチファクト、解釈などに関してはこちらをご参照ください。
脳波検査で分かること・分からないこと
・一般的に「検査について知っている」とは「その検査によって何がわかるか?逆に何は分からないか?(限界は何か?)を知っている」ことと思います。
・一言で脳波検査で「分かること」と「分からないこと」をまとめると、「1:脳の機能がわかる」「2:てんかんかわかる」「3:原因はわからない」となります。そのそも脳波検査を行うと何が分かるのか?を事前に分かっていないと必要な時にオーダーできず、不必要な時にオーダーできないという状況に陥ります。
1:脳の機能
・言い換えると「意識障害かどうか?またその程度はどうか?がわかる」となります。頭部MRI検査では器質的な変化を画像上捉えることができますが、当たり前ではありますがMRI検査で異常がなくとも機能的に異常があると臨床上意識障害を呈する場合が多々あります。この「脳の機能」を調べることが出来るのが脳波検査の強みです。
2:てんかん
・よく「てんかん性放電(epileptic discharges)」などと表現される脳波所見ですが、これは「てんかんの発作中(ictal)か?」「てんかんの発作間欠期(interictal)か?」の両者を分けて考える必要があります。ここで事前に確認しておくべき重要な点が患者さんが脳波検査を行うときに「意識障害なのか?」「意識障害ではないのか?」という点です。
A:意識障害の患者さんの場合 目的:NCSEかどうか? 脳波でみるポイント:発作中(ictal)脳波所見
・意識障害の患者さんで重要なのは患者さんを体表上診察しただけではわからないてんかん発作が重積していないかどうか?(=NCSE: non-convulsive status eplepticus 非けいれん性てんかん重積状態)を知ることが目的です。この場合はてんかん重積に準じた治療介入が必要になります。
・ここでは「発作中(ictal)」の脳波所見を探します。この点の細かい脳波所見に関してはNCSEのまとめ(こちら)をご参照ください。
・「原因不明の意識障害精査」といった状況で脳波検査を行います。
B:非意識障害の患者さんの場合 目的:てんかんかどうか? 脳波でみるポイント:発作間欠期(interictal)脳波所見
・非意識障害の患者さんでは上記のような発作中を知りたい訳ではなく、発作間欠期に異常脳波がないか?を調べることが目的です。
・”spike”や”sharp wave”という脳波所見は聞いたことがあると思います。これは単発で散在性に認めている場合は発作中の所見ではなく、発作間欠期の所見です。これらを認めると背景に「てんかん」がある可能性が高くなります。
・ただここで重要なのは発作間欠期脳波で必ずしもこれらの脳波所見を拾えるわけではないという点です(感度は50%未満)。このためてんかんの診断では「詳細な病歴」が最も重要です。
3:原因はわからない
・よく有名な所見で単純ヘルペス脳炎でのPDs(periodic discharges)が教科書に記載されていますが、当たり前ですが「PDs≠単純ヘルペス脳炎」です。両者は必要条件でも十分条件でもありません。脳波上でPDsを呈する疾患は単純ヘルペス脳炎意外にも沢山ありますし、逆に単純ヘルペス脳炎が必ずPDsを呈する訳ではありません。このように脳波検査で病気の原因を同定することは基本的に出来ないという理解が重要です。
これから先では具体的に「入院患者さん」「外来患者さん」のセッティングでどのような状況で脳波検査をオーダーするべきか?について具体的にまとめていきたいと思います。
入院患者さんの場合
入院状況1:原因不明の意識障害
・前述の通り意識障害の原因が「NCSEか?そうではないか?」は「てんかん重積として対応するか?必要ないか?」というマネージメントに大きな影響を与えるため重要です。
・私たちはついつい「検査結果が自分で解釈できない検査はオーダーしたくない」心理が働いてしまうものですが、「原因不明の意識障害」は脳波検査の良い適応であるという認識を持ちたいです。結果の判読は専門医にまかせてOKなので。
入院状況2:変動する意識障害
・「低活動性せん妄」と「てんかん発作(特にFIAS: focal impaired awareness seizure)」はどちらも「変動」することが特徴であり、臨床的な鑑別は困難を極めます。
・「高齢の入院患者さんに意識の変動を認める場合」は積極的に脳波検査の適応と考えてよいと思います。
入院状況3:てんかん重積後の患者さんが入院した場合
・「てんかん重積」でGTCS(generalized tonic clonic seizure)を呈して救急外来へ受診となった患者さんが、例えばベンゾジアゼピン系薬剤の静注によって発作が頓挫した状況を考えます。誘因が明らかで意識状態が完全に清明になり神経学的異常所見を呈していない場合は帰宅・後日外来フォローとなる場合もあるかもしれません。ただ誘因がわからない場合や、意識状態が清明に戻りきらない場合は内科入院となる場合も多いかと思います。このようなは実際にとても多いため考えます。
・このようなケースでは基本的に「全例脳波検査が必要」です。臨床的にけいれんが頓挫した後は持続脳波モニタリングとなる機会は少ないかもしれませんが、間欠脳波検査を入院後できるだけ早期に行うべきです。
・確かに高齢者はpostictalが非常に長く、意識障害の改善まで数日かかることもまれではありませんが、その間に実はNCSEが起きて意識障害が遷延している可能性も十分にあります。当たり前かもしれませんが前提知識として「CSE(convulsive status epilepticus)の後にNCSE(non-convulsive status epilepticus)は起こりやすい」です。このため「どーせpostictal stateでしょ」と安易に片づけてしまうことは危険です。
外来患者さんの場合
・外来患者さんは「意識障害ではなく」「発作中でもない」状態で検査を受けるため、入院患者さんの検査とそも目的・意義が大きくことなります。
外来状況1:初回発作の患者さんで「てんかん」かどうかの検索目的
・一般的に初回の非誘発性発作患者さんは全例脳波検査を行うことが推奨されています(こちらにまとめがありますのでご参照ください)。
・ただここでの問題点は「間欠期脳波検査は感度が十分ではない」という点です。発作性心房細動の患者さんで12誘導心電図では心房細動が指摘できないけれど、ホルター心電図では指摘できる場合があるのと同様に、間欠脳波検査は検査時間がせいぜい20-30分程度なのでどうしても異常所見を拾いきれない場合が多いです。このため「間欠期脳波検査陰性≠てんかん除外」という点に注意が必要です。「必ず病歴と合わせて解釈する必要がある」点を強調したいと思います。
外来状況2:てんかん患者さんのフォロー
・元々「てんかん」の診断がついている患者さんで脳波検査をフォローする場合があると思います(これは神経内科や精神科、脳神経外科の非専門医の先生方はあまり行わないかと思いますが・・・・)。ただこの場合に重要なのは「臨床的な発作頻度>>脳波での異常頻度」です。
・臨床的な発作頻度が十分にコントロールできている状態であれば、例え脳波検査上でspikeが残存していたとしても抗てんかん薬を増量する必要は通常ありません。
・てんかん患者さんの外来フォローアップでは「脳波を治療している訳ではなく、発作を治療している」という目的を明確に設定する必要があります。