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末梢神経障害 neuropathy

解剖学的分布による分類

■単神経障害:絞扼性(手根管症候群・肘部管症候群・撓骨神経麻痺)・多発単神経障害の初期
■多発単神経障害:血管炎
■多発神経障害(ポリニューロパチー):代謝障害(糖尿病・ビタミン欠乏など)、脱髄など様々

・単神経障害の場合はcommon compression siteとして説明可能か?という点が重要です。例えば急性経過の下垂足で受診した患者さんが圧迫の病歴がなくても「きっと圧迫性の腓骨神経麻痺」として良いでしょうか?血管炎性ニューロパチーの初期症状として腓骨神経麻痺による下垂足を呈する場合はよくあります。このように多発単神経障害の最初は当たり前ですが単神経障害なので、病巣はどこか?機序は何か?というステップを踏む神経診断の基本に忠実に従うことが重要と思います(パターン認識は危険)。

*運動神経が障害されず、感覚神経だけが選択的に障害されている場合は後根神経節の障害neuronopathy:ニューロノパチー *タイプミスではないです)を考慮します。こちらにまとめがあるのでご参照ください

障害部位は長さ依存性か長さ非依存性か?

■長さ依存性の障害(遠位から障害される: length-dependent):代謝障害(糖尿病、ビタミンB1欠乏など)
■長さ非依存性の障害(近位も遠位も障害される:non-length-dependent):自己免疫機序(ギラン・バレー症候群、CIDPなど)

・個人的にはこの点は極めて重要と感じております。神経が栄養不足に陥ると栄養を供給する細胞体から最も遠い場所からダメージを受けます(遠いところから順番に荷物を届けられなくなる)。例えば糖尿病性やビタミン不足などの代謝性が原因の場合はこのようなパターンで障害されます。よく学生の時に末梢神経障害では「遠位」、筋疾患は「近位」が障害されると習ったかもしれませんがそれはこのパターンを反映しています。
・しかし、末梢神経障害でも近位が障害される場合があります。これは栄養不足ではなく多くは自己免疫機序で抗体が神経を攻撃するパターンです。なのでCIDPでは近位筋と遠位筋が同時に障害されるパターンが多く、近位筋が先に障害を受ける場合もあります。近位筋障害の場合はつい筋疾患を想定してしまいますが、深部腱反射が低下している、感覚障害も伴うなど筋疾患としての矛盾点がある場合は末梢神経を病巣として想起する必要があります。
・また逆に糖尿病の患者さんが手がしびれて受診した場合にそれは糖尿病性ニューロパチーなのでしょうか?糖尿病性ニューロパチーは通常長さ依存性の障害になるため、必ず足から障害されます。このため手のしびれを呈した場合は手根管症候群や頚椎症性神経根症など別の原因を考慮する必要があります。このように長さ依存性かどうか?という視点は診断に常に有用な示唆を与えてくれるため必ず考慮するべきです。

障害されている繊維の種類 運動・感覚(大径線維/小径線維)

・これは大径線維の障害は筋力・深部腱反射・感覚低下・神経伝導検査などで他覚的に神経障害を評価できますが、小径線維は他覚的評価が難しいということを意味しています。つまり、むずかしいところですが他覚的所見がないからといって末梢神経障害は除外出来ないということになります。
*参考:小径線維の障害(SFN: small fiber neuropathy):疼痛(特に灼熱感や針で刺す様な疼痛)・自律神経障害が主体(筋力低下はなく、深部腱反射も低下せず、神経伝導検査では異常を指摘できないため他覚的な異常所見を捉えにくい) こちらにまとめがあるのでご参照ください。

障害の病態:軸索障害・脱髄

■軸索障害:血管炎・代謝(糖尿病性・アルコール・ビタミンB1/12欠乏)・薬剤/中毒・浸潤(サルコイドーシス/アミロイドーシス)など
■脱髄:ギラン・バレー症候群・CIDP・異常蛋白血症関連(POEMS症候群)・圧迫など

臨床所見だけで軸索障害か?脱髄か?の鑑別は困難(長期経過でMMT1なのに筋萎縮がない場合などは軸索障害では矛盾するため脱髄を疑うといった臨床的な視点は存在するが)で神経伝導検査での評価が必要です(神経伝導検査に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)。
・ほとんどが軸索障害で、脱髄疾患は鑑別が限られる点がポイント(特に後天性脱髄疾患に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)

検査

1.血液検査
・血算(血液像も)・生化学(Cre含む)・HbA1c・ビタミンB1/B12,葉酸(±銅)・甲状腺機能
・感染症関連:HBV, HCV, HIV, HTLV-1、サイトメガロウイルス
・異常蛋白血症関連:免疫電気泳動(免疫固定法)・免疫グロブリン(IgG, IgM, IgA)・κ/λ比・VEGF
・血管炎関連:CRP・赤沈・抗核抗体・抗SS-A/B抗体・PR3/MPO-ANCA・クリオグロブリン・ACE
・脱髄関連:抗ガングリオシド抗体・抗MAG/SGPG抗体
・傍腫瘍性神経症候群:抗Hu抗体・抗Yo抗体
・遺伝子検査:PMP22遺伝子・CMT関連・TTR(家族性アミロイドポリニューロパチー)
2.尿検査:尿沈渣(糸球体腎炎→血管炎を示唆する所見)・尿免疫電気泳動
3.画像検査:末梢神経障害と鑑別となる頸髄病変や腰髄病変などの検索目的 or 神経根の肥厚評価(造影MRIもしくはneurography) *神経根の造影効果に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
4.髄液検査
5.神経伝導検査:脱髄、軸索障害、分布の評価 こちら
*神経生検:こちらにまとめがあるのでご参照ください。

上記検査をすべて毎回提出する訳ではありません。

見逃してはいけない末梢神経障害

・2大緊急疾患は「血管炎性ニューロパチー」「ギランバレー症候群」です。つまりどちらも早期の治療介入が機能予後に大きな影響を与えるということです。血管炎性ニューロパチーに関してはこちら、ギランバレー症候群に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。