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Neuronopathy 後根神経節障害

病態・臨床像

ここでは一般的な”neuropathy”(ニューロパチー)ではなく、”neuronopathy”(ニューロノパチー)を扱います(私は医者になって初めてこの言葉を読んだ時誤表記かな?と思ってしまいましたが、誤表記ではありません)。”sensory neuronopathy”, “sensory ganglinopathy”とも表現されます。”neuronopathy”は後根神経節(DRG: dorsal root ganglion)が選択的に障害される病態で特徴としては以下のものが挙げられます(下図はhttps://www.statpearls.com/ArticleLibrary/viewarticle/20672より引用させていただきました)。

Dorsal root ganglion, brainstem, spinal cord, sympathetic ganglion, ventral root, spinal nerve, ventral ramus, dorsal ramus, skin muscle cartiliage, grey ramus, gracile nucleus, cuneate nucleus

解剖のおさらいですが、感覚の中でも深部感覚の経路は「末梢神経→後根神経節(Dorsal root ganglion;DRG)→神経根後根→脊髄後索→延髄(薄束核・楔状束核)→(対側)→内側毛帯→視床→大脳皮質」となっており、後根神経節は感覚神経の1次ニューロンの細胞体です。

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以下で臨床像の特徴をまとめます。
・後根神経節は感覚神経の神経節であり、同部位が障害されると感覚神経のみが選択的に障害され、運動神経は障害されない。また後根神経節は感覚神経の親玉であるため、同部位が障害されると感覚神経の障害は強く、基本神経線維が再生することはない。
・large fiberの障害が主体であることが多いが、small fiberの障害もありうる(small fiber neuropathyに関してはこちらをご参照ください。
・感覚障害の分布はnon-length dependentである(length dependentではない)。分布が左右非対称顔面、体幹といった近位部に障害が強いことも多いです。この点はpolyneuropathyでは通常左右対称で下肢遠位から発症することと対照的。
・神経学的所見ではlarge fiberの障害を反映して、深部感覚障害、深部腱反射消失、Romberg徴候陽性を認め、筋力低下は認めない。深部感覚失調が目立つことがある(深部感覚失調に関してはこちらをご参照ください)。
・神経伝導速度ではSNAP ampが著名に低下し(ほぼ導出できない場合が多い)、それに比してCMAPは全く障害されていない(通常のneuropathyではSNAP ampが導出できない程度になることはよほど障害が強くないとまれであるし、CMAPにも影響がでることが多い)。

臨床上は深部感覚失調が主体のニューロパチーや、運動障害を伴わないnon-length dependentのニューロパチーを疑う場合にneuronopathyを疑います。また電気生理検査では神経伝導検査でSNAP ampが著名に低下しているにも関わらずCMAP ampが保たれていない場合もneuronopathyを想起する契機になります。一見神経支配に沿わない分布のようにみえるため、心因性と間違われてしまう場合もあるため注意が必要です。

鑑別疾患

傍腫瘍症候群シェーグレン症候群が2大原因として重要で、加えて化学療法(プラチナ製剤)、ビタミンB6過剰が有名です(その他の細かい鑑別に関しては下記参照)。後根神経節は血管内皮細胞が有窓性になっておりBNB(blood nerve barrier)が脆弱であるため、自己免疫機序での障害を受けやすいことが想定されています。

このように後根神経節が障害されていると解剖病巣が同定できれば、鑑別はかなり絞り込むことができるので有用です(詳細に検索しても半数程度は原因不明とされています)。後根神経節の生検は日常臨床ではなかなか行われることはないため、臨床所見と電気生理検査の結果をあわせて判断します。

■傍腫瘍症候群
・発症:亜急性(日~数週間単位) *この亜急性の経過は病歴上とても重要です
・経過:進行性
・分布:左右非対称、多巣性  多発単神経炎と間違える場合もある上肢が先に障害される場合が多い(下肢よりも障害程度が強い場合もある)
神経症状が腫瘍に先行することが多い 数か月~数年 平均:4.5か月
・抗Hu抗体 Sn:82%, Sp:99%   (原因腫瘍はSCLCが最も多い)、抗CRMP5抗体、抗amphiphysin抗体
・検査髄液蛋白上昇、 IgG index上昇、OCB+

■Sjogren’s syndrome
・Sjogren neuropathyのうち15-20%を占める・末梢神経、中枢神経いずれも、両方でも障害しうる(Sjogren症候群による末梢神経障害はこちらをご参照ください)。
neuronopathyはSjogren症候群の診断に先行する(Sicca症状はneuronopathy症状発症時に50%未満にしか認めない点に注意)
・分布:発症時は片側性が多く(文献の記載をそのまま引用すると:often unilateral, strikingky asymmetric)、上肢優位の障害が特徴的(体幹、顔面、下肢を腹部こともある)
*当初分布はasymmetricであるが、徐々にsymmetricalになりえる
・発症様式:突然~緩徐、進行性
・治療:奏功しない場合が多い
・典型的なSjogren症候群と異なりSicca症状はないことも多く、抗SSA,B抗体も陰性のことが多いため、積極的なlip biopsyが診断に重要 Muscle Nerve 2003;28:553

■Cisplatin, carboplatin
・DRG細胞内に蓄積してしまうことで神経毒性を発揮するとされている
・治療法なし

■Vitamin B6
・過剰摂取200mg/日程度の摂取で起こしてしまうことが報告されている(neurology 1985;35:1466・NEJM 1983;309:445)

検査

neuronopathyを疑った場合は以下の検査項目を検討します(すべてを全例で行うわけではありません)。

・血液検査:ANA, SS-A,B抗体、HIV検査、ビタミンB6
・傍腫瘍性神経症候群の抗体:抗Hu抗体、抗CRMP5抗体
・髄液検査:IgG index, OCBなど
・シルマーテスト、ローズベンガルテスト、唾液腺生検(lip biopsy)
・神経伝導速度:neuronopathyの病巣診断において必須
・Blink reflex:三叉神経障害の評価に有用
・神経生検:neuronopathyの診断においてはあまり原因特定において有用ではない場合が多いです。後根神経節の障害では感覚神経の再生ができない点は特徴として挙げられます。
・脊髄MRI検査:後根神経節からの感覚線維の変性を反映して後索にT2WI高信号を認める場合があります(あくまでも補助的な役割)。
・PET/CT検査:悪性腫瘍検索において検討

治療

各種の免疫治療には治療抵抗性の場合が多いです。これは一度後根神経節の細胞体が障害されてしまうと、感覚神経の再生が困難であることを反映している可能性が考えられます。以下に一部効果があったとする報告を掲載します。

■シェーグレン症候群のneuronopathyに対してIVIGの効果があった5例報告 Neurology 2003;60:503

IVIGを0.4g 5日間2週間おきに実施し、評価項目としては立位・ICARS・振動覚・gum test・髄液・電気生理検査などを検討しています。ここでは5例の患者において過去にステロイドや血液浄化療法にて改善しなかった患者がIVIG投与により評価項目の改善を認めたと報告しています。

参考文献

・N Engl J Med 2020;383:1657-62. NEJMにこんな神経内科の比較的マイナーな疾患が掲載されることにびっくりしました。
・Muscle Nerve 2004;30:255:neuronopathyに関してのreviewとして臨床上の特徴がよくまとめられており勉強になります。