Sjogren症候群に伴う末梢神経障害は神経内科医にとって治療に難渋することも多く、長くつきあっていく疾患でもあります。ここでは末梢神経障害のみをまとめます。
病型
具体的な取りうる末梢神経障害のパターンに関して、92例のシェーグレン症候群による末梢神経障害をまとめた論文(Brain 2005;128:2518)から引用させていただきます。
■疫学
・76例女性、16例男性 平均59.7才
・93%はシェーグレン症候群の診断前に神経所見が先行している
(乾燥症状や抗体が出現する前に神経所見だけが出現している場合がある)なぜだかは解明されていないどこ分類でもその傾向があるが、特にsensory ataxic neuropathyにて認める→通常のシェーグレン症候群の診断基準では十分にひろいきれない
■検査
・抗体SSA20-100%, SSB0-50%いずれも陽性は13例のみ
・生検結果:axon loss具体的な病態は解明されきていない
■分類 下記はいずれもoverlappingする →ある症状が主体から他の症状が加わる形体になる下記グループごとでの乾燥症状の差はなし
1:感覚性ニューロパチー
・感覚失調性ニューロパチー Sensory ataxic neuropathy 36例(39%)
Sjogren症候群で最も多い病型です。深部感覚障害による失調が特徴で、神経伝導速度検査ではSNAPは導出できない場合も多いです。後根神経節障害を反映した”neuronopathy”が病態とされています(”neuronopathy”:後根神経節障害に関してはこちらをご参照ください)。
・有痛性ニューロパチー Painful sensory neuropathy without sensory ataxia 18例(20%)
四肢遠位の痛みを伴う異常感覚が主体のニューロパチー。深部感覚は保たれ、筋力低下は認めない。四肢だけではなく、体幹や顔面に感覚障害が及ぶ場合もあります。small fiber neuropathyに関してはこちらもご参照ください。
2:多発単神経障害 Multiple mononeuropathy 11例(12%)
血管炎が病態の主体とされており、末梢神経の障害は軸索障害のパターンとなります。障害部位にびりびりとした異常感覚を伴うことがおおいとされています。
3:脳神経障害
・多発脳神経麻痺 Multiple cranial neuropathy 5例(5%)
・三叉神経障害 Trigeminal neuropathy 15例(16%)
三叉神経の複数領域や両側性に障害される場合もあります。他のニューロパチーに先行して出現する場合もあれば、他のニューロパチーに付随する形で顕在化する場合もあります。
4:自律神経性ニューロパチー Autonomic neuropathy 3例(3%)
自律神経障害は通常mildであるが、全面に出る症例も3例あります。Adie瞳孔、下痢、発汗障害、起立性低血圧などが挙げられます。自律神経障害一般に関してはこちらをご参照ください。
5:多発根神経炎 Radiculoneuropathy 4例(4%) polyradiculopathy一般に関してはこちらをご参照ください。
以下にグループごとの疫学、臨床上の特徴をまとめます。
治療に関してこの報告では、多発単神経炎や多発脳神経障害に関しては副腎皮質ステロイド、有痛性ニューロパチー、多発根神経炎に対してはIVIGの治療反応が期待できるとされています。個人的な経験ではSjogren症候群にともなう末梢神経障害はかなり治療抵抗性で難渋することが多い印象があります。
診断
上記の文献でも93%はシェーグレン症候群の診断前に神経所見が先行している(乾燥症状や抗体が出現する前に神経所見だけが出現している場合がある)点が特徴的です。Sjogren症候群の診断基準はSicca症状に重きをおいているため、シェーグレン症候群にともなう末梢神経障害の早期では診断基準を満たさないことが診断を難しくしています(重要)。
また54人のシェーグレン神経障害を前向きに検討し全例口唇生検実施をした研究では、20人口唇生検陽性となりました。この研究の結果では以下の点が示唆されました(Muscle Nerve 2003;28:553)。
・Sicca症状と口唇生検が陽性になるかどうかは関係ない
・口唇生検陽性の中で自己抗体SS-A/B陽性はたったの30%程度
このことからはSicca症状がないからといって、またSS-A/Bが陰性だからといって口唇生検をしない訳ではないということがわかります(口唇生検で陽性になるかどうかはSicca症状や自己抗体からはわからないということ)。
これらを総合すると、Sjogren症候群にともなう末梢神経障害は神経症状がSicca症状に先行することが多く、一般的なSjogren症候群の診断基準は満たさないため、Sicca症状がなかったり自己抗体が陰性であったとしても積極的に口唇生検で診断しにいくアプローチが求められると思います。末梢神経障害から発症するSjogren症候群の診断基準が明確に定められているわけではないため、この点に注意が必要と思います。
治療
基本的に免疫治療に対してかなり抵抗性で難渋することが多い印象があります。Sjogren症候群に伴う末梢神経障害に対する治療の前向きのランダム化比較試験はまだ報告されていません。
■IVIG
IVIgがSjogren neuronopathyにおいて効果があった症例報告をまとめています(Neurology 2003;60:503免疫治療が基本的には効果がない場合が多いneuronal lossが既に起こってしまっていることを反映しているか?)。具体的にはIVIG 0.4g 5daysで治療し、2週間おきに実施、評価項目・臨床症状 立位・ICARS・振動覚・gum test・髄液・電気生理検査をみています。過去にステロイドや血液浄化療法にて改善しなかった患者が改善している点では一部には効果がありそうです。
また有痛性ニューロパチーに対してIVIG療法によって疼痛改善効果があったとする報告もあります(Journal of the Neurological Sciences 2009;279:57-61)。
■血漿交換
4例中2例では全く効果がなく、2例は効果ありと報告されています(Eur Neurol 2001;45:270)。効果があった2人は発症から数日で治療導入されており、そのくらい早期の介入でないと基本的に効果乏しいだろうと記載されています。