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化学療法に伴う神経合併症

Neurologyのコンサルタントとして重要な知識です。中枢神経合併症に関してはまた後日まとめさせていただきます。

末梢神経障害:Chemotherapy-induced peripheral neuropathy (CIPN)

頻度:30-70%(人によって程度は様々である) *化学療法に伴う神経合併症として最も多い
検討するポイント:化学療法の種類・投与方法・積算投与量・治療期間・出現する時期・障害する神経の種類
*メトトレキサートは髄注以外で神経障害を起こすことはまれ・ボルテゾミブは皮下注射で神経障害軽減
*通常化学療法開始最初の2か月でCIPN出現し、化学療法が持続する間に進行、その後治療完了後に安定する(プラチナ製剤は”coasting”(投与中止後に増悪する現象)がある点に注意)
*化学療法終了後数週後などにCIPNを発症することは変である
病型:最も多いのは “painful/ length-dependent, predominantly sensory, symmetric peripheral neuropathy”
・運動障害や自律神経障害(便秘・腹痛・起立性低血圧・失神)はアルカロイド系で出現する場合がある
増悪リスク因子:高齢・すでに末梢神経障害が存在する・併存疾患(糖尿病やアルコール依存など J Neurol Sci 2015;349:124–128.)・ビタミン欠乏・内分泌異常・神経障害性の薬剤併用や化学療法薬の代謝を阻害する薬剤・背景の遺伝性末梢神経障害(CMTなど)・遺伝素因

種類による違い

プラチナ製剤(シスプラチン cisplatin・オキサリプラチン oxaliplatin・カルボプラチン)
・特徴:後根神経節障害(neuronopathy)が特徴的で(こちら)、BNB(blood-nerve barrier)の透過性と関連
・”coasting” phenomenonが特徴的(プラチナ製剤で治療を終了後数か月経過してから症状が増悪する現象 )
・プラチナ製剤は投与量依存的に聴覚障害(難聴・耳鳴り)を20-40%に起こす(不可逆的)
・シスプラチン:(神経)大径線維・感覚, (病理)後根神経節・ミトコンドリア障害, (症状)感覚障害・腱反射消失
・オキサリプラチン:(神経)大径線維・感覚・急性/慢性, (病理)後根神経節・Naチャネル障害, (症状)口腔咽頭のaloodyniaと感覚障害(infusion reaction) *オキサリプラチンは急性経過の神経障害性疼痛(手・顔に強い・寒冷刺激で強い疼痛をきたす・通常2-3サイクル目で起こり薬剤投与から2-4日間持続する)

タキサン類(パクリタキセル paclitaxel・ドセタキセル decetaxel):(神経)大径小径線維・感覚運動神経, (病理)後根神経節・神経終末・軸索輸送・ミトコンドリア障害・微小管障害, (症状)感覚低下・疼痛・筋肉痛・関節痛
*acute pain syndrome 関節痛、筋肉痛が開始1-2日、また3-5日間持続する 10-30%に認める
*リスク:パクリタキセル>ドセタキセル>cabazitazel

ビンカアルカロイド類 Vinca alkaloid(ビンクリスチン vincristine・ビンブラスチン vinblastine):(神経)小径線維・感覚運動神経・自律神経 *長さ依存性の感覚神経障害±運動障害, (病理)後根神経節・神経終末・微小管障害, (症状)感覚低下・麻痺・脳神経障害・自律神経障害
*coasting phenomenonを認める場合もある
*CMT type1Aでは禁忌

プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ):(神経)小径線維・感覚・軸索障害 *疼痛性(sharp and burning→薬剤中止の原因となる)・長さ依存性・小径線維感覚神経障害(軸索障害), (病理)ミトコンドリア・DNA・微小管障害, (症状)感覚低下・疼痛 *皮下注射により重症度を軽減できる(Lancet Oncol 2011;12:431–440.)
*皮下注射の方が静注よりも起こりづらい・その他のプロテアソーム阻害薬(carfilzomib, ixazomib)の方が末梢神経障害起こりづらい

抗血管新生薬(サリドマイド、レナリドミド):(神経)小径大径線維・感覚運動神経, (病理)後根神経節・血管新生障害・軸索障害, (症状)遠位の疼痛・筋肉痛 *レナリドミドはサリドマイドよりも毒性が少ない

*シクロフォスファミドやメトトレキサートでは基本起こらない

鑑別

・傍腫瘍症候群としての末梢神経障害:化学療法中に起こることはまれである
・腫瘍の末梢神経への直接浸潤:neurolymphomatosis, leukemiaなど
・paraprotein関連の末梢神経障害(こちら

治療

特異的な治療法や疾患修飾薬なし薬の減量中止しかない(ここは現病との関係や他の有用な治療optionがあるかどうかも重要であるため腫瘍の主治医とよく検討が必要)
・化学療法開始前の確立した予防方法も存在しない(Cochrane Database Syst Rev 2014;3:CD005228.)
・中止により症状の進行がとまり、数か月かけて徐々に改善する
・多くの場合可逆的であるが、改善は不完全の場合もある
・”coasting” phenomenon:プラチナ製剤で治療を終了後数か月経過してから症状が増悪する現象

・対症療法としてはデュロキセチン(SNRI 商品名:サインバルタ)を使用することがある(JAMA 2013;309:1359–1367.・神経障害性疼痛に関してはこちらも参照)

参考文献
・CONTINUUM (MINNEAP MINN)2020;26(6, NEURO-ONCOLOGY):1646 – 1672.
・ANN NEUROL 2017;81:772–781 CIPNに関する素晴らしいまとめ・必読review