いわゆる「しびれ」(異常感覚)に対してスパッと効果のある薬剤はなかなか無いのが現状ですが、実際にはその中でも試行錯誤しながら対症療法を進めていきます(患者さんのQOLへの影響は大きいくunmet need)。ただいずれの薬剤も副作用(特に中枢神経作用によるふらつき、めまい、眠気)があり、高齢者では転倒のリスクになってしまったりと本末転倒な結果を招きかねないため慎重に使用する必要があります。
薬物各論
プレガバリン
商品名:リリカ
作用機序:Ca2+チャネルα2δリガンド
製剤:25mg, 75mg, 150mg/OD錠・カプセル
半減期:5.8時間
・投与量 開始量:25-150mg/日
・最大投与量:600mg/日(添付文章上) *実際には300mg/日程度までにとどめる場合が多い
*腎機能による投与量調節
・CCr=30-60mL/分:初期投与量25mg 3錠分3、または75mg 1錠分1 最高投与量300mg/日
・CCr=15-30mL/分:初期投与量25mg 1錠分1、25mg 2錠分2、または50mg 1錠分1、最高投与量150mg/日
・CCr<15mL/分:初期投与量25mg 1錠分1 (最高投与量75mg/日)
(処方例:高齢者開始量)プレガバリン25-75mg 1錠分1眠前
*高齢者でいきなり添付文章通り150mg/日を投与すると多すぎてふらつきが目立ち転倒リスクが高くなるため、高齢者では必ず少量から開始、漸増する。
副作用:ふらつき(めまい)、傾眠
禁忌:なし
おそらくリリカは最も頻用されている「しびれ」の対症療法薬と思います。いきなり高用量から開始してふらふらにさせてしまうといけないので(リリカは海外では「抗てんかん薬」として使用されていることからもわかるとおり)、かならず特に高齢者では少な目の量から漸増するアプローチが重要です。
*リリカが高齢者で150mg/日とかから開始となりふらふらしてしまい受診というケースをかなり経験します。
ミロガバリン
商品名:タリージェ® *日本のみで承認されている薬剤
Pain 2019;160:1175–1185. ミロガバリンとプラセボのRCT
(2024年9月執筆時点でプレガバリンとミロガバリンの効果を比較した前向き研究はなし)
禁忌:なし
投与量:腎機能により調整必要
CCr (ml/min) | 60-90 | 30-60 | <30 or 透析 |
投与量(/日) | 10-30mg | 5-15mg | 2.5-7.5mg |
初期 | 5mg 1日1回 | 2.5mg 1日2回 | 2.5mg 1日1回 |
プレガバリンとミロガバリンの比較
ミロガバリン | プレガバリン | |
商品名 | タリージェ® | リリカ® |
投与回数 | 1日2回 | 1日2回 |
初期投与量/日* | 5mg/日 | 150mg/日 |
最高量/日* | 30mg/日 | 600mg/日 |
高齢者の初期量(私見) | 2.5mg/日 1日1回 | 25-75mg/日 1日1回 |
ガバペンチン
商品名:ガバペン
機序:Ca2+チャネルα2δリガンド 製剤:200mg, 300mg, 400mg/錠
半減期:6-7時間
投与量:開始量100-300mg/日
(処方例:開始量)ガバペン200mg 0.5-1錠分1夕食後 その後徐々に増量
*神経障害性疼痛に対して日本では保険適応がない点に注意(元々抗てんかん薬の適応)
副作用:傾眠、めまい、複視など *薬剤相互作用はほとんどなし
デュロキセチン
商品名:サインバルタ
作用機序:SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
製剤:20mg, 30mg/カプセル 代謝:CYP2D6
投与量 開始量:20mg/日 維持量:40-60mg/日 最大投与量:60mg/日
投与回数:1日1回投与
(処方例:開始)デュロキセチン20mg 1カプセル分1
副作用:消化器症状、セロトニン症候群など
禁忌:高度肝機能障害・腎機能障害(CCr<30mL/分)、コントロール不良の閉塞隅角緑内障、MAO阻害薬(併用禁忌)
個人的にはリリカは全然効果がなかったけれどサインバルタは効きましたという患者さんに数人出会っています。併用薬剤や禁忌、セロトニン症候群などに注意すれば比較的安全に使用することが出来る薬剤と思います。
三環系抗うつ薬
一般名:アミトリプチリン 商品名:トリプタノール
投与量 開始量:10mg/日 最大量:150mg/日
投与回数:1日1回投与 処方例:開始 アミトリプチリン10mg 1日1回
副作用:抗コリン作用,傾眠,血圧低下など
禁忌:閉塞隅角緑内障,尿閉,心筋梗塞後,MAO阻害薬(併用禁忌)
私見:ガイドライン上は第1選択薬のうちの1つに挙げられるが,高齢者は抗コリン作用の観点から使いづらい印象
その他
・NSAIDs, アセトアミノフェン、SSRI:効果に乏しく推奨されない
・Na受容体阻害薬:効果ある例あり
・非薬物療法のニューロモデュレーションが今後重要になってくるだろう
ガイドライン・アルゴリズム
日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版
フランス 神経障害性疼痛に対する薬物・非薬物療法
Rev Neurol (Paris). 2020 May;176(5):325-352.
•1st line: SNRI,ガバペンチン,TCA
•2nd line: プレガバリン,トラマドール,抗うつ薬とガバペンチノイドの併用,高濃度カプサイシンパッチ,ボツリヌス毒素A
•3rd line: 高周波数rTMS, 脊髄刺激,強オピオイド(その他の選択肢がない場合)
治療効果判定
1:ゴールを設定する
・残念ながら神経障害性疼痛「ゼロ」を目指すという目標は現実的ではありません。それくらい神経障害性疼痛に対しての薬剤対症療法の効果は限定的です。また薬剤を増やせば増やすほど副作用も多くでるので注意が必要です。
・このため「患者さんと実際に相談して現実的なゴールを設定する」ということを薬剤開始前に行うのが良いです。もちろん患者さんごとによって希望が異なるので個々に違いはありますが、私がよく患者さんと相談して「痛みで夜眠れない・起きてしまうという事態を避ける」というゴールを決めることが多いです。
2:治療効果判定のメルクマール
・これは自覚症状しかありません。「より痛い」「前より痛くない」という主観的な症状やVASでももちろん良いのですが、個人的には先ほどと同様「神経障害性疼痛による具体的な日常生活への支障が解消されたか?増えたか?」といった具体的な内容でフォローするのが良いと思います。例えば「痛みによって元々眠れないのが眠りやすくなった」、「散歩でしびれが強くて諦めてしまっていたのが前よりも長く歩けるようになった」などです。これも患者さんの生活習慣を把握しないと決められないのでよく話し合う必要があります。
3:薬剤変更・中止に関して
・繰り返しになりますが神経障害性疼痛に対しての薬剤効果はかなり限定的であり、「全然効きませんでした」という場合もままあります。
・単剤で副作用が許容されるか注意しながら漸増していき、「副作用で支障がでる」または「ある程度の量で効果不十分」(最大量まで使用しない場合も個人的にはままあります・アセトアミノフェンなどと違い神経障害性疼痛はdose dependentに効かない場合もままある経験が強くこれはあくまでも個人的な方法です)と判断した場合は切り替えを検討します。
・効果がない場合は潔く中止も検討するべきです。入院患者さんで「このリリカ®は一体何のために処方されているのだろう?」という処方箋をたびたび目撃します。
参考文献
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版(日本ペインクリニック学会)
Curr Opin Neurol 2021, 33:000–000