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腱反射が保たれるギラン・バレー症候群

特に日本からよく報告されています。「そもそもなぜ腱反射が起こるのか?」、「軸索障害や脱髄なにが特に障害するのか?」など考えることが広がり、面白いテーマです。

ただ「腱反射が保たれているギラン・バレー症候群もあるから!」という一点張りでは戦えません。やはり総合的な臨床経過・神経所見・電気生理所見などを合わせて初めて病態の評価が可能となります。つまり「腱反射が保たれているギラン・バレー症候群もある」というどこかでちらっと読んだ知識だけでは戦うことができないと思います。

■千葉大学さんの54例症例の検討報告 J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999;67:180–184

時期との対応関係
初回評価時(発症から14日以内)の腱反射(発症から3-14日:平均7.9日):反射消失 44例, 反射低下 8例, 正常 1例, 亢進 1例
・3~4週後の腱反射:反射亢進 7例(=13%) *Babinski徴候出現例はなし

病型での分類
・病型:AMAN 23, AIDP 18, AMSAN 2, 分類不能 11
・経過での反射亢進例:7例(病型内訳 AMAN=6, AIDP=1)


・急性期(1-2週)低下例:AMAN65%, AIDP 100%*AIDPでは1例もなし
・早期改善期(4-6週)正常(または活発):AMAN 34%, AIDP 12% *AIDP患者の88%は発症から3か月後も反射消失が持続

抗ガングリオシドとの関係
・全体での抗GM1抗体陽性例 28例(=52%)
・経過での反射亢進例:全例(7/7例) 抗GM1抗体陽性

機序の考察(可能性)
・腱反射誘発で脊髄の神経核を活性化させるためには十分に多くの感覚神経が必要であるが、一方で腱反射が保たれるためには運動単位が一部保たれていれば機能する(つまり腱反射は運動神経よりも感覚神経により依存する)→運動障害の方が保たれやすい可能性
・また腱反射ではこのimpulseがsynchronizedしていることが重要であるため、脱髄で刺激がdesynchronizedする場合に障害されやすい→軸索障害の方が保たれやすい可能性
・脊髄内で抑制的に働く介在ニューロン(interneuron)または上位運動ニューロンの障害?

■腱反射亢進のギランバレー症候群 systematic-literature review J Neurol Neurosurg Psychiatry 2020;91:278–284.

45例(literature review)
地域:日本 33例(73.3%), アメリカ 3例, インド 3例, イタリア 2例, トルコ 2例, スイス 1例, スロベニア 1例
年齢:12-70歳 中央34歳
先行感染:下痢腸炎 56%, 上気道炎 22.2%, なし 20.0%
神経学的所見:外眼筋麻痺 17.8%, 顔面麻痺 15.6%, 球麻痺 4.4%, 四肢筋力低下 80.0%, 上肢または下肢に限局している 3/36例 8.3%, 感覚障害 26.7%, 失調 17.8%
腱反射亢進:全身(generalized) 90.7%, 早期から認める 86.7%
電気生理病型:AMAN 56%, AMSAN 4.4%, AIDP 4.4%, 分類不能 13.3%, 正常 22.2%
髄液検査:蛋白上昇 72.0% 18/25例, 細胞数上昇 0%
抗ガングリオシド抗体:陽性89.7% 35/39例
MRI検査:陰性100% 19/19例
予後:3か月後解除なし歩行可能 57.1%(16/28例), 6か月後解除なし歩行可能 92.9%(26/28例)

まとめ
・反射亢進は下痢の先行感染、病型AMAN、抗ガングリオシド抗体陽性と関連
・反射亢進は全身に及び(generalizes)、早期から認めることが多い
・神経伝導検査が診断に有用である
・介在ニューロンや錐体路の障害などの機序が想定
・腱反射亢進だけでGBSを除外してはいけない

*実際の動画が”supplemental video”として https://jnnp.bmj.com/content/91/3/278#DC1 に載っています。