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血管炎性ニューロパチー

病態・臨床症状

・血管炎性ニューロパチーは末梢神経系の栄養血管(小動脈~細動脈)に炎症が生じ(末梢神経の終動脈が障害され容易に虚血に陥る)、虚血により軸索障害をきたす病態”ischemic peripheral neuropathy”です(中枢神経での脳梗塞、心臓での心筋梗塞と対応します)。解剖的に末梢神経の栄養血管は神経周膜を斜めに貫いており、神経周膜の内圧が上昇するとチェックバルブ式に血管が狭窄します。血管炎での虚血により神経に浮腫が生じると神経束内に浮腫を生じ、栄養血管狭窄と虚血を生じるという悪循環に陥ります。
・亜急性~急性の経過で進行し、数日で歩行不能となってしまう場合もあります。治療が遅れると軸索障害が進行してしまい不可逆的になるため、末梢神経障害の中ではギラン・バレー症候群と並んで血管炎性ニューロパチーは最も緊急性が高い疾患です。分布はnon-length-dependentで多発単神経障害をきたすことが特徴的です。

・多発単神経障害の状態で受診した場合は診断はそこまで難しくないですが、問題は全ての多発単神経障害は病初期は単神経障害から発症するという点です。逆に申し上げると、「急性経過の単神経障害で最も注意するべき原因疾患は血管炎」です。例えば下垂足(foot drop)のみで受診し総腓骨神経麻痺が疑われる場合、同神経障害で最も多い原因は物理的圧迫です。しかし、物理的圧迫の病歴が明確でない場合は原因不明の総腓骨神経麻痺としてやはり血管炎の可能性も考慮するべきです。血管炎の初発症状が末梢神経障害となる場合もあるため注意が必要です。

・臨床的には教科書にも記載がありますが、疼痛が非常に目立つことが血管炎性ニューロパチーの臨床的な特徴として挙げられると思います。個人的には本当にじっとしていられず麻薬が必要なほど強い疼痛を呈した例もあり、軸索が虚血によりバツんと切れてしまった様なイメージを持っております。
・またLancet Neurologyのreviewでは”Patients often first note the
sudden development of proximal deep aching pain in the limb followed by burning cutaneous pain and focal weakness in the territory of a single nerve. “、”Infarction of nerve usually occurs proximally, for example, in the mid-sciatic nerve”と記載があり、近位から障害されることがあることもわかります。

・血管炎性ニューロパチーで障害されやすい神経は以下の様に報告されています。長さが長い末梢神経の方が虚血に陥るリスクがランダム的に高いので、両下肢の神経障害を呈することが多いです(長い末梢神経が障害されやすい)。

原因

・血管炎性ニューロパチーの原因となる血管炎の特徴、臓器障害、ニューロパチーの合併頻度に関してまとめたものを掲載します。実臨床では個人的にはEGPAによるニューロパチーを最も多く経験します。
・EGPA 60-70%に血管炎性ニューロパチーを認めます(約90%とする報告もありほぼ必発です)
・GPA 15-25%に血管炎性ニューロパチーを認め、男性、高齢、腎障害、病変分布が広い、ANCA価が高いことなどが関係しているとされています
・結節性多発動脈炎 75%程度に認めるとされます

*ニューロパチーが初発症状となる症例の検討 Neurol 2013;260(4):1061-1070.
25%(22/89例)でニューロパチーが新規診断血管炎(EGPA, GPA, MPA, PN)で認める
・原因疾患としてはEGPA(内60% 12/20例)とPN(内50% 3/6例)が多く、GPA(内13% 6/47例)、MPA(内6% 1/16例)は少ない結果
・障害分布:多発単神経障害 59%(n=13), ポリニューロパチー 41%(n=9)
・障害末梢神経(多発単神経障害における):腓骨神経 69%>腓腹神経 62%>後脛骨神経 54%>正中神経 38%>尺骨神経 31%>橈骨神経 23%>坐骨神経 8%

検査

■全身検査
・血球像(好酸球は?)
・ESR, CRP, ANCA, IgG,A,M,IgE、ANA, SSA, SSB, 補体, RF, クリオグロブリン, HIV, HBV, HCV
・尿検査:赤血球円柱や白血球など糸球体腎炎を示唆する所見があるかどうか?腎生検をするか?
・胸部+副鼻腔画像検査:肺病変の検索、喘息・副鼻腔炎の既往?
・皮膚所見:皮膚生検可能な部位はあるか?
・髄液検査

■神経伝導検査
・non-length dependentに多発単の分布で、軸索障害を認めることが重要です(多発単の分布でも脱髄性の場合はMADSAMの可能性も)。診断だけではなく、神経伝導検査はフォローアップにおいても重要な検査です。神経伝導検査の一般に関してはこちらをご参照ください。
pseudo conduction block(偽伝導ブロック):伝導ブロック様の所見が発症数日前後のMCSにおいて認める場合があります。これは血管炎による虚血障害の初期は、虚血部位より遠位ではWaller変性がまだ完成していないため遠位部刺激でCMAP振幅は正常ですが、近位部(虚血変性部位)では低振幅になることによります。通常数日~14日以内にWaller変性は遠位まで完成するためこの所見は消失することから、真の伝導ブロックと鑑別することが可能です(このため神経伝導検査のフォローアップが重要)。

Waller変性が完成すると下図のようになります。


・SNAPは虚血発症後7-10日で消失します(治療後もSNAPは消失したまま経過することが多いです、CMAPは軸索障害後の神経再支配により徐々に振幅が回復していくのに比べて)。

神経生検
・神経生検の具体的なやり方に関してはこちらをご参照ください。
・まずHE染色でepineuriumの血管で血管炎の所見があるかどうかは検体採取後すぐに調べることが出来ます。”nerve large arteriole vasculitis”ではepineurium, perineuriumの血管(75-300μm)に血管炎の所見を認めるとされます。血管壁全層にわたる炎症細胞浸潤、フィブリノイド沈着、内弾性板の破壊・断裂などが重要な所見です。

・血管炎性ニューロパチーでは血管の支配領域が障害されるため、神経束間や1つの神経束内でも部位によって障害の程度が異なることが特徴です。(下図の左と右の神経束では大径有髄線維の密度が異なる)。

治療

・ステロイド1mg/kgを1-2ヶ月導入してから、減量していきます。初期にはステロイドパルス療法を3-5日併用することも多いです。
・治療導入にはシクロフォスファミドを併用する場合もあります。その他IVIG、血漿交換療法、リツキシマブなども候補として挙げられます。
・維持の免疫抑制剤にはアザチオプリンやメトトレキサートを使用する場合があります。

ANCA関連血管炎の治療は原疾患によらずEUVASカテゴリーに準じて治療アルゴリズムは下記のものが提唱されています(Rheumatology 2007;46:1615–1616)。これらは末梢神経を治療対象としたものではありません。
*EUVASカテゴリー
限局型(localised):上気道病変以外に全身性の病変や症状を伴わない
早期全身型(early systemic):臓器機能または生命に危機を及ぼす病変のない、すべての病変
全身型(generalized):腎または他の臓器機能に危険を及ぼす病変で、Cre<5.6 mg/dL
重症型(severe):腎または他の臓器の機能不全をきたし、Cre>5.6 mg/dL
難治性(refractory):副腎皮質ホルモンやシクロフォスファミドに反応せずに進行性

治療に関しては今後up dateしていきます。

参考文献
・Lancet Neurol 2014;13:67-82 血管炎性ニューロパチーの最も包括的なreviewでまず読むべき文献と思います。
・J Clin Neuromusc Dis 2007;9:265–276 こちらも血管炎性ニューロパチーへのアプローチをまとめたわかりやすいreviewです。
・BRAIN and NERVE 68 (3):205-211,2016「末梢神経の血管炎」