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バルプロ酸 VPA

バルプロ酸は古くから使用されている抗てんかん薬で、それ以外にも精神疾患などでも使用することのある薬剤です。「古い抗てんかん薬」=「危ない薬」というイメージを持たれがちですが、バルプロ酸は決してそんなことはなく現代でも使用する機会の多い薬剤です(個人的にも新規に処方する機会が多くあります)。

バルプロ酸 商品名:デパケン、セレニカ 略記:VPA

■作用機序:GABA濃度増加など複数機序

■適応全般発作第1選択、焦点発作も第2選択
若年ミオクロニーてんかん、欠神発作などは特効薬の扱い(特発性全般てんかんは第1選択)
・片頭痛の予防薬としても使用する(こちらをご参照ください)
・躁うつ病の躁状態に対して適応があることからもわかるとおり、mood stabilizerとしても作用する(その他mood stabilizerとして作用するASM:ラモトリギン、カルバマゼピン)

■代謝:肝臓 CYP3A4(10%)、グルクロン酸抱合(40%)、β酸化(30%)
・半減期:9.5時間(徐放製剤は13時間)
・血中濃度:40-120μg/mL TDM3-5日後gradeA

製剤:錠剤、細粒、徐放製剤(R錠) *点滴製剤は日本で採用なし

■投与量
維持投与量:400-1200mg/日
通常は1日2-3回内服、徐放製剤は1日1-2回内服
(処方例:開始量)バルプロ酸徐放製剤(デパケンR) 200mg 2錠分2
*バルプロ酸は副作用がないことを確認して比較的早めに増量していくことが可能

■禁忌重篤な肝障害、妊娠中(催奇形性)、カルバペネム系抗菌薬併用
相互作用:多数あり フェニトインはVPAの血中濃度を下げる
*個人的には元々VPAを内服している患者さんがてんかん重積になった場合、第2段階の薬剤はレベチラセタムをホスフェニトインよりも優先して使用しています(VPAの血中濃度と相互作用があるのが嫌/面倒なため:あくまで個人の見解です)
*妊娠に関してVPA: 600mg/日までであれば大丈夫とする意見もあるようですが、個人的には避けています。てんかんと妊娠に関してはこちらをご参照ください。

■副作用
1.用量依存性:消化器症状、振戦薬剤性振戦の原因として多い)、眠気(鎮静作用)、肝逸脱酵素上昇、ホルモンへの影響→食欲亢進、体重増加、高プロラクチン血症、高アンモニア血漿(投与初期、大量投与、多剤併用で多い:こちらを参照)、血小板減少(投与量依存性)
2.用量非依存性:劇症肝炎・膵炎

参考資料:肝機能障害に関して大規模調査 NEUROLOGY 1996;46:465469
・リスク因子:2歳未満、多剤併用、発達遅滞、代謝疾患併存
*2歳未満のバルプロ酸を含む多剤併用での重篤な肝障害は1/600と非常に高頻度である点に注意
*成人例でのバルプロ酸による重篤な肝機能障害は極めて稀(下図年齢別参照)


*抗てんかん薬の中では皮疹の副作用が少ないことも特徴(抗てんかん薬と薬疹に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください)
*妊娠中は奇形リスクがあり通常使用を避ける(てんかんと妊娠に関してはこちらを参照)
*参考:体重と関係する抗てんかん薬 体重増加:GBP・VPA、体重減少:TPM
*参考 長期使用で骨粗しょう症のリスク:CBZ, PHT, VPA, PB

*血小板減少に関して
参考文献 Drugs R D. 2018 Mar;18(1):1-5. doi: 10.1007/s40268-017-0224-6. PMID: 29260458; PMCID: PMC5833908.
機序:不明(産生抑制か?抗体か?)
頻度:12-18%(150人以上の報告で)
リスク因子:女性・高齢・高用量投与(特に>1g/日)

参考文献
てんかん診療ガイドライン2018
Lancet Neurol 2016; 15: 210–18 バルプロ酸に関する包括的なreview articleで勉強になる