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片頭痛 migraine

90%以上は40歳以前の発症であり、高齢発症はまれである(20~40歳代の女性で有病率高い・家族歴を80%に認める)。日本の片頭痛年間有病率は8.4%(前兆なし 5.8%, 前兆あり 2.6%)。概ねアジアでは5~10%, 欧米では10~15%。自然歴としては加齢に伴い多くの場合は改善傾向をしめしますが、一部は年間約3%で慢性片頭痛へ移行するため早期診断・治療介入がとても重要です。

臨床症状の経過

1.予兆(premonitory symptoms):数日~数時間前 肩こり、情緒不安定、眠気、あくび、空腹感(これは頭痛後にも認める場合がある)
*この時点の「肩こり」だけで筋緊張と誤診してしまわないように注意が必要(肩こり≠筋緊張型頭痛であり注意)

2.前兆(aura):5-60分程度持続(5分以上かけて進展する) 視覚(閃輝暗点が有名)、感覚、言語で多い(運動症状はまれ)
*前兆は認めない場合も多い・逆に頭痛に発展せずに前兆だけを認める場合もありこの場合はTIAやてんかんとの鑑別が問題となる
*前兆症状が60分以上持続することは他疾患を示唆する
*ICHD-3に関しては視覚症状、感覚症状、言語症状の3つが典型的前兆に該当(その他運動症状・脳幹症状・網膜症状)*片頭痛の運動症状は陰性症状のみで、陽性症状を呈することはない

3.頭痛:緩徐発症で、持続時間は4-72時間、部位は片側性が多いが両側性の場合もあり、「こめかみ」もしくは「眼の奥」と訴えることが多い。性状は拍動性(脈が打つような)である。日常動作で増悪し、日常動作に支障を生じる(仕事の能率やQOLに支障をきたすことがポイント)。
*群発頭痛では七転八倒することが多いが、対照的に片頭痛では「じっと静かに横になっている」場合が多い。
*頭痛が72時間以上持続することは他疾患を示唆する(片頭痛が慢性化すると72時間以上持続する場合もある)

*幻視(visual hallucination)に関して:こちらにまとめがあるのでご参照ください。

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■随伴症状
嘔気、嘔吐 *これは緊張型頭痛では認めることは稀であり鑑別点
・アロディニア(例:髪の毛を触っただけで痛い)
羞明、音過敏(一般的には完全に頭痛が進展してから生じる場合が多い)

■誘因
・環境:天候変化
・生活環境:睡眠不足、疲労、ストレス、ストレス後のリラックスしている時(どちらもあり)、食事を抜く、不定期なカフェイン摂取
・食べ物/飲み物:チョコレート・チーズ・ワインなど
・薬剤:経口避妊薬、ホルモン療法、点鼻血管収縮薬、SSRI
・ホルモン:月経

診断

■”POUND” 以下5項目中4項目以上該当すると片頭痛らしい
P:Pulsatile quality(拍動性)
O:One-day duration(持続時間4-72時間)
U:Unilateral location(片側性)
N:Nausea or vomiting(悪心/嘔吐)
D:Disabling intensity(日常生活に支障)
*引用:Cephalalgia. 1993;13(suppl 12):54-59.
*くも膜下出血でも上記を満たしてしまう場合もあり、必ず頭痛の”red flag”を除外した上で適応する。頭痛全般へのアプローチに関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。

*筋緊張型頭痛との鑑別点(カッコ内は陽性尤度比)
・嘔気(+19.2)、羞明(+5.8)、音過敏(+5.2)、日常生活で増悪(+3.7) 参考:Arch Intern Med 2000;160:2729

*群発頭痛との鑑別点
・片頭痛は寝ているときは発症しない、流涙や結膜充血は認めない
・片頭痛はじっとしており、群発頭痛はのたうち回る
・群発頭痛は基本的に必ず片側性(片頭痛は両側性の場合もある)

*ICHD-3での片頭痛の分類

発作治療薬

■トリプタン製剤 *頭痛早期の投与が重要・中等度以上やNSAIDs不応例は第1選択
(処方例)イミグラン50mg 1錠疼痛時内服 もしくはイミグラン皮下注射3mg 皮下注射、イミグラン点鼻薬1回20mg 鼻腔内投与

■NSAIDs どのタイミングで使用しても良い
(処方例)ロキソプロフェン60mg 1錠内服

■アセトアミノフェン *効果は弱いが副作用は少ない(妊婦さんでは第1選択)
(処方例)アセリオ1000mg 15分かけて点滴静注

■メトクロプラミド *疼痛に対しても効果あり(制吐作用だけでなく)
(処方例)プリンペラン10mg + 生理食塩水50mL 30分かけて点滴静注

*参考:Neurology 2014;82:976–983
*基本的に麻薬(オピオイド)は依存の問題があるため出来るだけ使用しない(参考:”Choosing Wisely” American Academy of Neurology “Don’t use opioid or butalbital treatment for migraine except as a last resort.”)
*エルゴタミンは副作用と禁忌事項が多く筆者は使用していない。

トリプタン製剤に関して

・機序:セロトニン受容体作動薬(5-HT1B受容体:血管収縮作用・5-HT1D受容体:抗炎症作用にそれぞれ関与)
・薬効の特徴として「頭痛早期に効果を発揮し、疼痛がピークに達してからは効果に乏しい」点が挙げられる。これは必ず患者さんによく説明する(多くの場合痛みがピークになってから内服する場合が多いため)。
*この効果がある期間の幅 windows of opportunity を意識することが重要。
・予防としては効果がない点に注意
・トリプタン製剤を投与して効果があるかどうかにより片頭痛を診断する「診断的治療」はそもそも出来ないため厳に慎むべき
<副作用>
・トリプタン感覚:熱感・チリチリ感・感覚異常・一過的な首や胸の締め付け感などを認める場合があり、これは頸部筋、食道平滑筋のセロトニン受容体の関与が推定されている。薬物投与数分以内~30分後に始まり、1時間程度続く場合がある。使用しているうちに慣れるため多くは問題なく、事前によく説明しておくことが重要である。
<投与禁忌>
血管狭窄病変:虚血性心疾患・脳梗塞・一過性脳虚血発作・SAH(1か月以内)・コントロール不良の高血圧
・他の薬剤併用:SSRI(セロトニン症候群のリスク),MAO-B阻害薬
・妊婦・授乳婦は原則禁忌
・その他:脳底片頭痛、家族性片麻痺性片頭痛

*特にRCVSはトリプタン製剤で誘発される場合もあるため注意が必要。

以下に一覧を記載します。

予防薬

■適応:月2回以上発作がある場合(または生活に支障をきたす頭痛が月3日以上ある場合)(月10回以上の場合は必ず必要)
・どの薬剤が最も優れているというgold standardは存在しないため、併存疾患や禁忌、効果、副作用などとの兼ね合いで薬剤を選択する
・目的は「発作を防ぐためではなくその頻度と強度を低下させるための治療である」ことを患者に良く説明する
最低2か月は使用して効果判定する(患者さんにはすぐに効果が出ないことを予めよく説明する)
「頭痛カレンダー・ダイアリー」をつけてもらい、客観的に評価する *頭痛ダイアリーは日本頭痛学会さんのホームページから無料でダウンロード可能です(こちらがリンクです)。必ずこれを患者さんにつけてもらい、客観的な情報を元に治療効果判定をしていきたいです。
・予防の効果判定は3か月で発作頻度または日数が50%以上減少で有効と判断する
・効果が得られない場合は、他剤の追加ではなく原則他剤への変更を行う

■薬剤
・Ca受容体拮抗薬
 ロメリジン 商品名:ミグシス(処方例)5mg 2~4錠分2 最大量:20mg/日
 ベラパミル 商品名:ワソラン(処方例)2錠分2~3錠分3
*本邦のみで採用されている・副作用が少ない点が最大の利点(妊娠は禁忌に該当するため注意)

・β遮断薬
 プロプラノロール 商品名:インデラル(処方例)10mg 3錠分3 最大量:60mg/日
*日本で保険適用を得ているβ遮断薬は「プロプラノロール」のみ
*妊娠中も使用可能な片頭痛予防薬剤として重要
*海外での使用最大量と比べると日本での使用量は極めて少ない点に注意。
プロプラノロールとリザトリプタン(トリプタン製剤)は併用禁忌に該当するため注意

・抗てんかん薬
 バルプロ酸  商品名:デパケン(処方例)400~600mg/日 分2-3
*てんかんで使用する量よりは通常少ない量で効果を発揮し、200mg/日から開始することも多い
*片頭痛発作予防のためのバルプロ酸血中濃度は21-50μg/mLが至適とされている(50μg/mL以上に上げても効果に乏しいとされている)
*抗てんかん薬の中で片頭痛予防に本邦で保険適用があるのはバルプロ酸のみ
 トピラマート 商品名:トピナ(処方例)50-200mg/日 分2
*RCTもあり海外では十分にエビデンス確立しているが本邦で保険適用なし。

・抗うつ薬
 アミトリプチン 商品名:トリプタノール(処方例)10-60mg/日 

新規予防薬:抗CGRPモノクローナル抗体

一般名:ガルカネズマブ 商品名:エムガルティ 月1回皮下注射
禁忌:本薬剤に対する過敏症(のみ) *中枢移行性なし
(処方例)初回240mg 皮下注射、以降は1か月おきに120mg皮下注射

作用機序:カルシトニン遺伝子関連ペプチド (calcitonin gene-related peptide: CGRP)シグナルに関する機序。CGRPは三叉神経から放出され、血管平滑筋に作用し血管拡張をする作用がある(三叉神経血管反射)。片頭痛患者さんの発作中は血中のCGRP濃度が放出/上昇していることが知られており、この経路をブロックすることで片頭痛の治療につなげられるのではないか(また三叉神経節と硬膜はBBBを欠いており薬剤が到達することが出来るのではないか?)、というコンセプトのもとに薬剤が開発され、日本では2021年1月認可を受けている。

妊娠中の片頭痛対応

一般的に妊娠中は片頭痛が軽減するとされている(逆に分娩後は1か月以内で半数以上の患者で再発する)。使用可能な薬剤が制限される。

■発作時の薬剤アセトアミノフェン第1選択 *トリプタン製剤は基本的に使用しない

■予防薬プロプラノロール *バルプロ酸は禁忌

出産後/授乳中に関して:トリプタンはスマトリプタンは使用後12時間、その他のトリプタンは使用後24時間は授乳しないようにする

*ちなみにエストロゲン含有の経口避妊薬は前兆のある片頭痛では原則禁忌とされています。

慢性片頭痛

片頭痛は発症当初は発作性のものであるが、発作が増加していくと慢性化する場合がある。筋緊張型頭痛の特徴を併存する場合もあり、また薬剤乱用頭痛(MOH:medication overuse headache)の要素を伴っている場合も多い。反復性片頭痛患者は年間約3%で慢性片頭痛へ移行するとされています。

■片頭痛慢性化のリスク因子:家族歴、頭痛の病状、併存疾患:肥満、睡眠時無呼吸症候群、いびき、精神疾患、顎関節症、その他:過剰な鎮痛薬の使用、カフェイン摂取、頭部外傷
*介入可能な点としては肥満・カフェイン摂取・睡眠(いびき・睡眠時無呼吸症候群)・ストレスなどの生活指導がとても重要です(薬剤介入だけではなく)

■診断基準
A:片頭痛様または緊張型頭痛様の頭痛が月に15日以上の頻度で3か月を超えて起こり、BとCを満たす。
B:「前兆のない片頭痛」の診断基準B-Dを満たすか、「前兆のある片頭痛」の診断基準BおよびCを満たす発作が、合わせて5回以上あった患者に起こる
C:3か月を超えて月8日以上で以下のいずれかを満たす
・「前兆のない片頭痛」の診断基準CとDを満たす
・「前兆のある片頭痛」の診断基準BとCを満たす
・発作時には片頭痛であったと患者が考えており、トリプタンあるいは麦角誘導体で改善する
D:他に最適なICHD-3の診断がない

MOH(medication overuse headache:薬物乱用性頭痛)

片頭痛、緊張型頭痛で注意が必要なので薬剤乱用性頭痛です。

■薬剤乱用性頭痛
A:以前から頭痛疾患を持つ患者において、頭痛は1か月に15日以上存在する
B:1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3か月を超えて定期的に乱用している
*10日以上(1か月)で「乱用」:エルゴタミン、トリプタン、オピオイド、複合鎮痛薬
*15日以上(1か月)で「乱用」:非オピオイド系鎮痛薬
C:他に最適なICHDー3の診断がない

■予後不良因子
片頭痛の罹病期間が長い・薬物摂取回数が多い・アルコール・喫煙・離脱後に片頭痛発作が多い
*再発率は約30%と高い・長期的な通院経過観察が必要

■治療
1:患者さんに説明 患者さんは薬物乱用性頭痛に関して知らないことが多い・まず概念を理解しづらいので十分な説明が重要
2:治療・予防に必要な薬剤投与と生活指導
3:原因となった乱用薬物を中止 できれば即時中止・漸減中止
4:薬物中止後の頭痛への対応 乱用薬物と別の薬剤を使用する

参考文献:
・N Engl J Med 2017;377:553-61.
・Am Fam Physician. 2018;97(4):243-251.
・頭痛の診療ガイドライン2021 監修:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 編集「頭痛の診療ガイドライン」作成委員会