Lewy小体を病理学的特徴とす病態をLBD(Lewy小体病)と表現します。DLBとPDDは同一疾患のスペクトラムとしてとらえることができるとガイドラインにも記載されており、臨床研究などでは便宜上パーキンソニズムが認知症に1年専攻する場合をPDD、認知症がパーキンソニズムに先行する場合をDLBとするとしています。
臨床像
Lewy body沈着の沈着部位により対応する神経症状を呈します(下図)。
・視床下部:Parkinsonism
・前帯状回:自律神経症状
・後頭葉:幻視
・辺縁系:認知機能
■認知機能障害 変動81% Neurology 2015;84:496
・障害されやすい領域:注意・追行機能・視覚認知
・初期は記憶障害が主体ではない(ADと違いとして重要)
・易疲労性があるため検査が長時間できない可能性を考慮
・日内変動 fluctuationがある
*MMSE:Δ3.4点/年で悪化するとされ、ADとほぼ同等 Alzheimers Res Ther 2014;6:53
■幻視 visual hallucinations 80%
・夕方~夜にかけて多い(寝室のドアや天井に人がいると表現することが多い)
・あたかも実際に体験したかのようにrealで繰り返し出現する(細かく色彩豊か)
例)多彩な視覚認知障害
「知らない子供が部屋に入り込んでくる」
「泥棒が入ってきた」*顔が見えないと表現することも多い
「妻の隣に知らない男が寝ている」「じっと見ていると逃げてしまう」ことも多い
*情動(恐怖、驚き)を伴わないことが多い(Alzheimerでは情動を伴う場合も多い)が、認知機能障害が進み現実との境界がわからなくなると日常生活に支障をきたすようになる。
*幻視の内容を覚えてる点がせん妄(delirium)と違う点である。
*幻視に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
妄想誤認症候群
・Capgras syndrome:見知った人物が他人に入れ替わると思い込む
・幻の同居人:家に架空の他人が住んでいると信じ込む
・TV誤認症候群:TV内の画像を現実と勘違いする
■Parkinsonism -50%
・全く認めない場合もあり必要条件ではなし(認知機能障害から平均2年後くらいから出現する場合が多い)
・bradykinesia/rigidity多い(tremor少ない)
・billatelary symmmetricになりやすい、症状もPDと比較すると程度が軽いことが多い
・薬剤反応性はPDと比較して悪い
*症候からPDとDLBを完全に区別することは出来ない
■睡眠障害 RBD レム睡眠行動異常症 76% Neurology 2011;77:875
・睡眠覚醒リズム(概日リズム)が障害される。日中寝てばかりいる、ついさっきまで起きていたのに急に全く応答がなくなる(失神と間違える場合がある)
・はっきりしているときとぼーっとしているときの差が極端 *繰り返す意識障害の鑑別にLBDを入れよう!
*繰り返す意識障害/認知症の鑑別(私案):尿毒症、高アンモニア血症(特に門脈大静脈シャント)、低血糖(特にインスリノーマ)、DLB、NCSE
・REM behavior disorder
■薬剤過敏性:重要な特徴(日常臨床で医療従事者が意識していないと容易に見逃す点である)
・major/minor tranquilizer、抗histamine薬など中枢神経に働きかける薬剤であれば何でもあり
*ADと診断されdonepezilを処方されると易怒性亢進し、ADのBPSDと解釈されてしまうため注意が必要
*抗精神病薬への重篤な副作用 54% *事前にどの患者に重篤な副作用が出るのかを予想する手段はない
下図はDLB患者の自然歴に関してまとめたもの。認知機能障害の数年前から便秘、嗅覚障害、うつ、RBDなどの非運動症状を認めていることがわかります。
診断基準
■支持的バイオマーカー
・側頭葉内側がCT・MRIで保たれている
・脳波で後頭葉の徐波活動
・SPECT/PETによる後頭葉の活性低下を伴う全般性の取り込み低下(cingulate island signも含む)
*”Cingulate island sign”:帯状回後部の血流代謝が相対的に保たれる(ADでは通常低下する)ことによって、帯状回後部が島が浮かんでいるように見える現象(下図)。
治療
根本的な治療方法は存在しない。LBDは薬剤過敏性の要素が大きく、薬剤で症状をコントロールすることが難渋する場合が多い。「この薬剤を使用する」というよりは「できるだけ薬剤を減らす」というアプローチが重要。
■認知機能障害に関して
・まず最も重要なのは認知機能へ悪影響を与える薬剤を中止すること(ベンゾジアゼピン系、抗コリン薬、抗精神病薬、三環系抗うつ薬など)。市販薬にも抗コリン作用を含む薬剤や第1世代抗ヒスタミン薬などが含まれているため市販薬も含めて確認する必要がある。
・コリンエステラーゼ阻害薬が使用される場合もあるが(ドネペジルが適応)、易怒性が上がったり副作用で難渋する場合もあり使用にはかなり注意が必要(一部著効するような患者もいることは事実)。
■パーキンソニズムに関して
・パーキンソン病と比べてL-DOPAによる運動症状の改善が悪い点と治療薬による精神症状副作用が問題点。
・使用する薬剤:L-DOPA 300mg/日まで *その他認知機能に影響が出やすい薬剤は避ける(特に抗コリン薬)、L-DOPAも用量が多くなると精神副作用が出やすいため注意が必要
・ドパミンアゴニストも認知機能・精神症状副作用が大きいため使用しない。
・近年ゾニサミドが日本でDLBに対して適応を得ている(私はまだ使用経験がありません)。
■自律神経障害に関して
・起立性低血圧に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
■レム睡眠行動異常に関して
・ラルメテオン、クロナゼパムなどを検討する。
■幻視に関して
・幻視により日常生活に支障を来さない程度であれば基本的に介入は不要である(つまり無理に幻視を消すために薬剤を使用する必要はない)。DLB初期の幻視は日常生活に支障をきたすことは少ない。
参考文献
・CONTINUUM (MINNEAP MINN) 2019;25(1, DEMENTIA):128 – 146.