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頭痛へのアプローチ headache

ここでは特に救急外来で問題となる突然~急性経過の頭痛へのアプローチをまとめます(慢性頭痛に関しては詳しく取り上げていません)。私の個人的な見解も多く入っていますが、参考になりましたら幸いです。

アプローチのポイント

”SNOOPE”2次性頭痛を示唆するred flagを確認する。1つでも合致する場合は2次性頭痛の検索のためまず頭部CT検査を行う。
・神経学的巣症状/所見が有れば2次性頭痛を示唆するが、無いからといって2次性頭痛を除外することはできない(特に髄膜炎やくも膜下出血は神経学的巣症状を認めない場合が多い)。
・神経所見は万全と取るのではなく、特に脳神経所見・ホルネル徴候・小脳失調・髄膜刺激徴候を重点的に確認する。
免疫不全者と担癌患者の新規頭痛は原則全例腰椎穿刺(髄液検査)が必要(前者は真菌感染などの髄膜炎、後者はがん性髄膜炎のリスクが高いため)。
・必ず除外が必要な緊急疾患は「くも膜下出血」「細菌性髄膜炎」の2つ。
・脳静脈洞血栓症、内頚動脈/椎骨動脈解離、下垂体卒中、RCVSなどはまれではあるが緊急性の高い疾患。これらの疾患はいずれも頭部単純CT検査だけでは診断困難である。重要なのはこれらの疾患のリスク因子であり、リスク因子から疑う場合追加の画像検査(MRI、血管造影検査など)へ進む。

2次性頭痛のred flagを拾うためには”SNOOPE”が有用
“SNOOPE”
S:systemic symptoms:全身症状(発熱 ・体重減少・筋痛など)
S:systemic disease:悪性腫瘍・免疫不全・コントロール不良の糖尿病など
N:neurological symptoms:神経局在症状(意識障害を含む)
O:onset abrupt :突然発症の病歴
O:older:40歳以上の新規発症
P:pattern change:以前とは性状・持続・重症度などが異なる頭痛
E:exersion:運動中の発症
E:exacerbation:増悪傾向
・いずれか1つでも該当する場合は2次性頭痛の可能性を考慮する必要がある。

*上図が私なりの救急外来での頭痛へのアプローチ方法です。色々ご意見あるかもしれませんので是非コメントいただけますと幸いです。

鑑別疾患

1次性
・筋緊張性頭痛
・片頭痛
・群発頭痛
2次性
・感染症:髄膜炎(細菌性・ウイルス性・真菌性・自己免疫性・薬剤性)・脳炎・脳膿瘍・硬膜外膿瘍・副鼻腔炎・帯状疱疹など
・血管障害:くも膜下出血・脳静脈血栓症・内頸動脈/椎骨動脈解離・下垂体卒中・RCVSなど
・自己免疫性:巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)・肥厚性硬膜炎(ANCA関連血管炎・IgG4関連疾患)
・眼:急性緑内障発作
・薬剤:一酸化炭素中毒・カフェイン中毒・薬物乱用性頭痛・アルコール離脱
・内分泌:高カルシウム血症・褐色細胞腫
・腫瘍:脳腫瘍・転移性脳腫瘍・癌性髄膜炎
・精神:うつ病
・その他:低髄圧症候群・多血症

各論

くも膜下出血に関してはこちらをご参照ください。

細菌性髄膜炎に関してはこちらをご参照ください。

CVT(脳静脈洞血栓症)に関してはこちらをご参照ください。

RCVS(reversible cerebral vasoconstriction syndrome) 可逆性脳血管攣縮症候群

・若年女性(15-60歳に多い)の繰り返す雷鳴性頭痛の鑑別として重要。疼痛により不穏で暴れる場合もある。
誘因:妊娠、入浴・シャワー、α刺激薬剤(点鼻薬も)、SSRI/SNRI、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス)、エリスロポエチン、インターフェロンなど *片頭痛治療薬のトリプタン製剤も誘因となるため注意
検査:頭部MRA検査で急性期は末梢血管攣縮をきたし、求心性に攣縮血管が移行する (AJNR 2016;37:1594)。急性期の末梢血管攣縮は画像検査で十分に同定しきれない場合があり注意が必要。
合併症:円蓋部くも膜下出血(典型的な脳底部の分布ではなく円蓋部)、脳梗塞、PRESなどを合併する場合がある。
・診断のスコアリング:”RCVS2 score” (Neurology 2019;92:e639)。

椎骨動脈解離

原因:特発性も多い、頸部への鈍的外傷、物理的な頸部への負荷(カイロプラクティック、スポーツ)*若年性脳梗塞の原因として重要

症状:疼痛のみ、脳梗塞合併、くも膜下出血合併と大きく3つの病型がある。後頚部~後頭部痛を呈することが多い(疼痛は頸部の回旋で増悪しない点が筋骨格系と異なる)。多くの場合疼痛から神経所見出現までに時間差がある点がポイントで、疼痛から数日後に神経所見を伴うことが一般的(最長で14日)。神経所見は小脳障害、延髄外側症候群(Wallenberg症候群)が多い。

検査:血管造影検査もしくはMRA検査で”pearl and strings sign”や、亜急性期のMRIのT1強調像 thin sliceの撮像で高信号(壁在血腫を示唆する)を認めれば診断的。

頭痛は救急診療で重要な症候です。red flagの把握と体系的な自分の中でのアプローチをもっていないと軽症のくも膜下出血や稀だけれど重篤なCVTなどは容易に見逃してしまいます。頭痛へのアプローチは様々な書籍で紹介されており、今回のは私なりのアプローチですがもし参考になりましたら幸いです。