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TTP: thrombotic thrombocytopenic purpura 血栓性血小板減少性紫斑病

先日医師人生で初めてTTPの症例コンサルテーションを受けました。TTPは学生時代に習ったイメージよりもはるかに実臨床での頻度が低く、ずっと「いつか出会うのかな?」と漠然に思っていました。私の師匠はよく「昔はチクロピジンでのTTPが多かったからそれでTTPを勉強していたけれど、チクロピジンがほぼ使われなくなってTTPはほとんど診なくなった」とおっしゃっていた記憶があります。やはり希少疾患であることは間違いなさそうです。以下に勉強した内容をまとめます。経験豊富な先生いらっしゃいましたら是非コメントいただければ幸いです。

TMA(thrombotic microangiopathy):血栓性微小血管障害

病態:なんらかの原因により血小板が活性化し、その結果微小血管内に血小板血栓を形成し(血小板を消費)、その血栓により物理的な溶血性貧血や臓器障害(特に腎臓と中枢神経)をきたす病態。

原因血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、溶血性尿毒症症候群(HUS)、aHUS(atypical HUS)が代表的な原因

検査:貧血(溶血性貧血による)、血小板減少、また溶血に伴うLDH上昇、間接ビリルビン上昇、血液像での破砕赤血球が特徴(下図参照)。凝固は通常障害されない。


*DICとの鑑別点:TMAでは通常凝固障害は起こらないが、DICでは凝固障害を伴う点が最も重要な鑑別点。
*基本的な採血結果(血算+生化学)から疑うことが必要な病態であり、血小板減少や溶血性貧血を認めた場合は必ず本疾患を疑う必要がある(決して特殊な検査をしないと診断できない疾患ではない)。
TMAでは血小板輸血が禁忌のため注意が必要(この点に関してはまた後でも解説します)。

下図は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2020「血液凝固異常症等に関する研究」班 TTPグループより引用。

TTP: thrombotic thrombocytopenic purpura 血栓性血小板減少性紫斑病

病態
・TMAの病態であるが、その原因がADAMTS13活性の減少(<10%)による。VWF(von Willebrand factor)が血管内皮細胞で産生され、当初は大きな分子量であり血中ですぐにADAMTS13により切断されるが、これがADAMTS13活性が低下していると切断されず血小板との結合により血小板血栓を形成してしまうことが病態。
・後天性TTPではADAMTS13に対する自己抗体(インヒビターとして測定可能)が産生されることが原因となる。

臨床像
・古典的5徴(血小板減少・溶血性貧血・腎機能障害・発熱・神経症状)が有名であるが、実際にこれらが全てそろうことはまれであり、いずれかを認めないからといって除外することはできない(また治療介入のための早期診断という観点からもこれらが全て揃う前の段階で診断する必要がある)。
・初発症状としては嘔気、下痢、腹痛といった消化器症状を呈する場合もあり、胃腸炎と誤診されてしまう場合もあると報告されている。
・中枢神経症状は報告上では多彩で、意識障害、昏睡、性格変化、認知機能障害、痙攣などさまざまな報告がある。

・臓器ごとの症状出現頻度は以下の様にまとめられています。

・ADAMTS13がすぐ測定できない場合に臨床像と血液検査結果からADAMTS13欠損があるかどうかを予測するスコアリングがあり紹介する。

治療

1:血漿交換療法
・唯一臨床試験で確立した治療法(血漿交換療法が導入される前の時代はTTPの致死率は約90%であった)。
・目的:ADAMST13の補充(FFP置換による)とインヒビターの除去
*このため置換液は必ずFFPを使用する(アルブミン製剤ではなく)
・方法:循環血漿量の1-1.5倍量での血漿交換療法を血小板数が15万/μL以上になる(+2日)まで連日実施する
*多くの文献に「ADAMTS13の結果を待たずに臨床的に疑う場合は血漿交換療法を開始するべき」と記載があります。希少疾患なのでなかなか自信を持ってTTPを疑い血漿交換療法に踏み切るのには勇気が要りそうですが、唯一予後を改善することが証明されている治療なのですぐに相談した方が良いかもしれません。

2:ステロイド治療
・症例報告やExpert opinionからステロイドの使用が推奨されている(インヒビター産生抑制の効果を期待して)。
・ステロイドパルス療法を行う場合もあれば、ステロイドをプレドニン1mg/kg/日で開始し原料していく方法もある。

3:リツキシマブ
・難治例で使用を検討する薬剤で、B細胞を抑制することでインヒビター産生を抑制する効果があります。
・日本の「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2020」では「血漿交換を 5 回以上行っても血小板数が 5 万/μL 以上に回復しない場合、もしくは 15 万/μL 以上に回復しても再度血小板数が 5 万/μL 未満に低下した場合には、血漿交換に加えてリツキシマブ投与を考慮する(推奨度 1B)」と記載があります。

その他
抗血小板薬に関して:TTPの病態は血小板血栓による臓器障害なので、抗血小板薬を使用するべきという意見もありここで調べた内容をまとめます。
・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2020:推奨度2Bで「血小板数が5万/μL以上に回復した場合にアスピリン投与が行われる場合があるが、TTPの再発予防に対する効果は明らかではない」
・J Thromb Haemost. 2020;18:2503–2512のGPS(good practice statement):”We did not systematically search and review the evidence on antiplatelet agents for TTP patients. Antiplatelet agents have been used in nonpregnant patients with TTP, particularly in the setting of macrothrombotic complications (eg, ischemic stroke and myocardial infarction). Otherwise, antiplatelets are not generally recommended in TTP; their role in preventing relapse is not supported in the literature, and they may be harmful in the acute phase of TTP when the platelet count is low (eg, <50 × 10 9 /L). Inputs from cardiologists, neurologists, and/or other vascular medicine specialists are usually sought if antiplatelet agents are considered in the treatment of TTP-related complications.”と記載があります。
・唯一抗血小板薬併用に関して行われた前向き研究が”Haematologica. 1997 Jul-Aug;82(4):429-35.”で、TTP患者72人を抗血小板薬併用群(アスピリンとジピリダモール)と非併用群で急性期15日後の治療効果をoutcomeとして比較したのランダム化比較試験が行われており、両群で有意差は認めませんでした(出血合併症も有意差なし)。これ以降調べた限りでは前向き研究はなく、現時点ではなかなか抗血小板薬を使用するべきかどうか言い難いと思います(希少疾患なのでn数を増やした臨床試験が大変なので、今後大規模臨床試験はなかなか厳しいかもしれない)。

血小板輸血は本当に禁忌なのか?

血小板輸血は血小板血栓の形成を助長してしまい禁忌とされていますが血小板輸血による予後悪化の因果関係は十分に証明されていません。

■TTP患者を血小板輸血が実施された群と非実施群に分けて解析した後ろ向き研究 TRANSFUSION 2009;49:873-887.

54例の”Oklahoma TTP-HUS Registry”でのTTP患者を輸血実施された群61%(33人)と非実施群39%(n=21人)で比較しましたが、死亡や神経学的後遺症などに関して両群間で有意差はありませんでした(下図各項目ごとの結果)。

参考文献
・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2020  「血液凝固異常症等に関する研究」班 TTPグループ
・N Engl J Med 2006;354:1927-35. TTPに関するreview、少し古いがまとまっていて読みやすい。
・Intensive Care Med (2019) 45:1518–1539:めちゃくわしくまとまった特に集中治療を要するTTPに関してのまとめ。
・J Thromb Haemost. 2020;18:2503–2512.:”Good practice statements (GPS) for the clinical care of patients with thrombotic thrombocytopenic purpura”