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甲状腺機能亢進症/中毒症

  • 2021年5月21日
  • 2024年11月9日
  • 内分泌

甲状腺ホルモンの生理

・実際に生理的な活性を持つのはT3であるが、産生される主体はT4であり組織でT4がT3に変換される。
・血液中ではT3,T4はその多くがTBG(thyroid binding protein)と結合しているが、血中で遊離しているFT4, FT3を測定する。

分類:甲状腺機能亢進症/中毒症、甲状腺機能低下症はTSHで判断する。
・甲状腺機能亢進性/中毒症:TSH低下+FT4上昇
・甲状腺機能低下症:TSH上昇+FT4低下
・潜在性甲状腺機能亢進性/中毒症:TSH低下+FT4正常
・潜在性甲状腺機能低下症:TSH上昇+FT4正常


甲状腺機能亢進症/中毒症

原因
Basedow病 *原因として多く、治療法も異なるため重要
破壊性甲状腺炎 *Basedow病の次に原因として多い
 A:亜急性甲状腺炎
 B:無痛性甲状腺炎
:一過性に甲状腺破壊により血中の甲状腺ホルモン濃度が上昇する病態(背景に橋本病がある場合が多い)。頚部痛や発熱などの炎症所見は伴わない。
Plummer病(機能性結節)
その他
妊娠性:hCGによるTSH受容体刺激(一過性、妊娠8-13週)
・薬剤性:リチウム、IFNα、アミオダロン、免疫チェックポイント阻害薬
・TSH産生下垂体腫瘍

臨床像
・高齢者では典型的な症状を呈さず、心房細動から指摘される場合などがあるため閾値を低く疑う必要がある。
*甲状腺機能亢進症/中毒症を疑う状況
・食欲の保たれた原因不明の体重減少
・振戦
・慢性下痢
・新規の心房細動/頻脈
・ALP単独上昇

*亜急性甲状腺炎の臨床像
・「発熱+頚部痛」で疑うべき疾患
・一側の頸部痛で発症し、対側へ移動する場合があり特徴的(creeping thyroiditis)
・前頸部、側頸部から耳部にかけて痛みを訴える場合もある
・触診で初めてわかる軽度の圧痛の場合もある*必ず甲状腺を触診
・頸部の屈曲や伸展で疼痛が増悪する場合がある
・嚥下時痛を訴える場合もある

*参考:体重減少(意図しない)の鑑別
・慢性炎症性疾患:結核・HIV感染症・血管炎・リウマチ性疾患・感染性心内膜炎
・悪性腫瘍
・内分泌:甲状腺機能亢進症・糖尿病(内因性インスリン欠乏)・副腎不全
・消化管疾患:悪性腫瘍・慢性膵炎・炎症性腸疾患など
・エネルギー消費亢進:COPD・筋萎縮症側索硬化症
*体重減少の定義:6-12ヶ月で5%以上の体重減少
(体重減少を訴える患者で実際に体重減少を認めたのは約半数と報告されており、必ず客観的指標「体重」「服やベルトのサイズ」を確認する Ann Intern Med. 1981;95(5):568.)

検査
1:抗TSH受容体抗体TRAb(第3世代)
:Basedow病に関して感度97.4%、特異度99.2%(Autoimmun Rev. 2012 Dec;12(2):107-13.)
2:甲状腺エコー:Basedow病ではびまん性腫大+血流増加
→上記でBasedow病の診断がつかない場合核医学検査を検討する。
3:甲状腺シンチ 99mTcシンチ *妊婦、授乳婦は禁忌
・びまん性集積:Basedow病
・局所性集積:Pummer病
・集積低下:甲状腺炎(亜急性甲状腺炎・無痛性甲状腺炎)
*123Iシンチは2日間に検査がまたがり、ヨード制限もあり患者負担が多い。

治療
動悸・振戦に対しての対症療法(どの原因にも共通):β遮断薬
(処方例)プロプラノロール(インデラル)10mg 3錠分3

破壊性甲状腺炎の治療
A:亜急性甲状腺炎の治療
・基本的には対症療法のNSAIDs(もしくは副腎皮質ステロイド)

B:無痛性甲状腺炎の治療
・自然に寛解するため、原則治療は行わない(Basedow病と間違えないことが重要)
・甲状腺中毒症の期間は2-8週間、その後の一過性甲状腺機能低下症もほとんどは4-10週間で回復する。

Basedow病の治療
A:抗甲状腺薬(±ヨード剤) *最も選択されることが多い
B:放射性ヨウ素治療(131I経口投与)
C:手術(甲状腺亜全摘術)

抗甲状腺薬
・MMI(メチマゾール 商品名:メルカゾール):第1選択
・PTU(プロピオチルウラシル 商品名:チウラジール、プロパジール):母乳移行性なし→妊婦ではこちらを採用(MMIは催奇形性ある)
(処方例)
FT4≧7ng/dLの場合:メルカゾール30mg/日 メルカゾール5mg 6錠分2(朝4錠-昼2錠)
FT4<7ng/dLの場合:メルカゾール15mg/日 メルカゾール5mg 3錠分1
*筆者は副作用懸念のため原則メルカゾール15mg/日で治療をしていた。
*作用機序はMMI、PTU両者TPOを阻害する作用と、PTUはT4→T3の変換を抑制する作用を持つ(下図参照)。

±無機ヨウ素製剤
・甲状腺ホルモン分泌抑制効果があり、症状が強い場合急性期に併用する場合がある
・効果発現が早く3日以内に臨床症状が改善するが、効果は一過的であり1周間以上の使用で効果が消失する場合があり注意(エスケープ現象)
ヨウ化カリウム 商品名:ヨウ化カリウム
製剤:50mg/丸
(処方例)ヨウ化カリウム50mg 1丸分1

治療メルクマール/フォロー
・甲状腺機能はFT4→FT3→TSHの順に改善する
・FT4正常範囲内(治療開始から約4-12週後):減薬考慮
・TSH正常範囲内(FT4正常化から数ヶ月後):減薬(基本的に1錠ごとに行う)
フォロー:最初2か月は2週間ごと、2か月以降は1か月ごと、2か月ごとと伸ばしていく
*1-2年の経過で抗甲状腺薬は中止可能な場合もあるが慎重な判断が必要

抗甲状腺薬の副作用
・抗甲状腺薬は副作用が非常に多く、MMIは用量依存性、PTUは用量非依存性に副作用を呈する
無顆粒球症(0.1-0.5%):最重症の合併症で注意が必要(必ず薬剤開始前に風邪症状でもすぐに医療機関を受診するように説明)
*投与開始前に必ずベースラインの好中球数を確認しておく
*開始後90日以内が多い、好中球絶対数<1000/μLの場合は薬剤を中止
・皮疹/蕁麻疹 (4-6%)
・肝障害:必ず採血検査でフォロー(免疫性肝炎0.1-0.2%)
まれなもの
・ANCA関連血管炎:PTUの方がMMIより頻度多い
・インスリン自己免疫症候群:低血糖

参考文献:nejm 2005;352:905、甲状腺疾患診療パーフェクトガイド 改訂第3版 編集・著:浜田昇 診断と治療社