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GPA(granulomatosis with polyangitis) 多発血管炎性肉芽腫症

去年から新しい病院に移動になりGPAを診療する頻度が上がりました(それまでは恥ずかしながらほとんどなかったのですが・・・)。ANCA関連血管炎でNeurologyにとっても重要な病態なので勉強した内容をまとめます(EGPAに関してのまとめはこちらをご参照ください)。以下はこちらの文献( RadioGraphics 2021; 41:1973–1991 )が非常によくまとまっていたのでそちらを参照にしております。

臓器ごとの障害される臨床像の特徴

・いわゆる”ELK” Ear→Lung→Kidneyの順に障害が進展していくことが多いとされていますが、実際には臨床像が非常に多彩です。

上気道

鼻/副鼻腔病変:最も多く障害される。鼻出血の有無はよく確認する(鼻中隔前部のKiesselbach plexusは最も障害されやすい部位)、進行すると鼻中隔穿孔鞍鼻へ移行する(10-25%)。慢性副鼻腔炎は50%に生じる。
・MRIで画像的に通常の副鼻腔炎と鑑別は困難
・CT検査で粘膜肥厚 87%、骨破壊病変 59%に認める *前頭洞に多い
生検する際に鼻粘膜をターゲットとする場合が多い(侵襲性の点から)
・鞍鼻(saddle nose)の鑑別:GPA、再発性多発軟骨炎、梅毒、らい病、遺伝性変性性軟骨症

中耳炎:通常の感染による急性中耳炎と異なり改善しない難治性中耳炎の鑑別として重要、感音性難聴(蝸牛への血流障害が機序として想定)を経過で呈する(肥厚性硬膜炎を合併すると頭痛も呈する)。中耳は40-70%で障害される(eustachian tubeを肉芽腫が閉塞することが病態)。両側性の場合も60%認める。
・前庭障害や顔面神経麻痺を合併する場合もある。
・耳病変の関与は20-25%で、「鼻病変→耳病変」の順に障害を呈することがほとんど(almost alwaysと記載されている)。
・側頭骨CT検査で骨病変を認める。
・MRIで顔面神経の乳突部や鼓膜部の肥厚や造影効果を認める場合がある。
・耳病変からの生検は検体量が少なく診断確定できない場合も多い。

参考:OMAAV(otitis media with ANCA associated vasculitis)

・日本から提唱された概念で、実際には頭頚部に限局したAAVのvariationという認識で、完全に独立した疾患概念なのかどうかは不明(文献もほとんどが日本からのものである)。
顔面神経麻痺肥厚性硬膜炎合併に注意。
*以下国内297例の検討 Auris Nasus Larynx. 2021 Feb;48(1):2-14.
・年齢中央値67歳(13-90歳 Q25-Q75)、女性71%
・ANCA 単独MPO+ 56%, 単独PR3+ 23%, 両方陽性 MPO+/PR3+ 5%, 両方陰性 MPO-/PR3- 17%
・病理診断 32% *中耳の病理証明は1例のみ(中耳や乳突蜂巣の病理は非特異的な炎症、壊死の所見)
・初発症状:難聴 99%, 耳漏 45%, 耳痛 34%, 耳鳴 50%, めまい 25%, 頭痛 24%
・初期障害(カッコ内は経過を通じて):両側難聴 63%(74%), 顔面神経麻痺 18%(32%), 肥厚性硬膜炎15%(24%), 鼻 32%(38%), 咽頭喉頭 6%(8%), 肺 27%(38%), 腎臓 18%(26%), その他血管炎関連 33%(41%)
・治療内容:ステロイド+免疫抑制剤 51%
・予後:再発 43%, 死亡 3%

診断基準
A)臨床経過(以下の2項目のうち,1項目以上が該当)
1.抗菌薬または鼓膜換気チューブが奏効しない中耳炎
2.進行する骨導閾値の上昇
B)所見(以下4項目のうち,1項目以上が該当)
1.既に ANCA 関連血管炎と診断されている.
2.血清 PR3―ANCA または血清 MPO―ANCA が陽性.
3.生検組織で血管炎として矛盾のない所見(①②のいずれか)がみられる.
① 巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎,② 小・細動脈の壊死性血管炎
4.参考となる所見,合併症または続発症(①~⑤のうち,1項目以上が該当)
① 耳以外の上気道病変,強膜炎,肺病変,腎病変,② 顔面神経麻痺,③ 肥厚性硬膜炎,④ 多発性単神経炎,⑤ 副腎皮
質ステロイド(プレドニゾロン換算で 0.5~1mg/kg)の投与で症状・所見が改善し,中止すると再燃する.
C)鑑別疾患(下記の疾患が否定される)
① 結核性中耳炎,② コレステリン肉芽腫,③ 好酸球性中耳炎,④ 腫瘍性疾患(癌,炎症性線維芽細胞腫など),⑤ 真珠腫性中耳炎,⑥ 悪性外耳道炎,頭蓋底骨髄炎,⑦ ANCA 関連血管炎以外の自己免疫疾患による中耳炎および内耳炎

咽頭喉頭病変:気道病変は15-55%に認める。若年者に多く、他病変を認める場合が多い。進行期に声門下狭窄を9-16%に認める(嗄声、呼吸困難など)。

口腔内病変:まれ、歯肉増殖など 唾液腺、顎下腺はGPAではあまり障害されない。耳下腺障害はよく障害され、片側性、両側性いずれもある。

肺病変

・90%以上で肺病変を認める

腎病変:糸球体腎炎

・25-75%に認める
・急性進行性糸球体腎炎
・治療介入があったとしてもANCA関連血管炎の20-30%は5年以内にESRDに移行する

神経

GPAの22-54%で神経病変を合併する

中枢神経合併症こちらを参照ください 特に多発脳神経障害では鑑別に挙げる疾患です

肥厚性硬膜炎:GPAが原因として最も多く、肥厚性硬膜炎が初発症状になることもあるため注意が必要です。こちらを参照ください。頭痛は通常の鎮痛薬に抵抗性であることが多いです。

末梢神経:血管炎性ニューロパチー(こちら参照)が病態で末梢神経障害は67%に認めるとされます(特に発症最初の2年の期間、高齢男性、その他臓器の障害併発)。ANCA関連血管炎では特にEGPAで血管炎ニューロパチーが多いです

*下垂体病変:1%未満 先行する障害ではなく、経過で認めることがある(他臓器障害を合併している)。若年、女性に多い傾向がある。血管炎よりも肉芽腫の病態が主体。

・経過で45%、初発症状として16%で認める
眼窩内腫瘤性病変(orbital pseudotumor):眼窩内にprimaryに腫瘤性病変を呈する場合がある。片側性が86%。しばしば副鼻腔病変や骨破壊を伴う。症状は眼窩部痛(severe)、眼球突出(2%)、複視(眼球運動障害)、視神経圧迫による視力障害なし
上強膜炎:最も多い 16-38%
・ぶどう膜炎、強膜炎、眼瞼潰瘍、結膜炎、角膜潰瘍などを認める場合もある。
・視神経周囲炎が視神経炎よりも頻度が高い。
・涙腺の障害(通常片側性)を合併することが多い。

その他

・palpable purpura:10-50% 下腿部

検査

・抗体検査:PR3-ANCA/C-ANCA 活動期 90%, 潜在期 60%陽性
*MPO-ANCAが陽性になることもある20-30%

造影MRI検査:肥厚性硬膜炎を疑う場合(膜病変の検出には単純ではなく造影のMRI検査が必要です)
*生検の陽性率:TBLB 12%, open lung biopsy >80%, 腎臓 90%, 鼻副鼻腔 10-20%(鼻副鼻腔は陽性率低いが低侵襲なので耳鼻科に実施依頼すること多い)

治療

急性期(寛解導入):ステロイド+リツキシマブ or シクロフォスファミド

・ステロイド単独ではまず再燃するため、リツキシマブ併用が重要