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GPA(granulomatosis with polyangiitis)と中枢神経合併症

・ANCA関連疾患のなかで中枢神経病変を呈する頻度はGPA>MPA>>EGPAとされています。
・GPA(granulomatosis with polyangiitis)の中枢神経障害は報告によりかなり幅がありますが7~11%と報告されており、肥厚性硬膜炎・下垂体病変・中枢神経血管炎が3大原因です。特にGPAに随伴する肥厚性硬膜炎を中心に文献をまとめます。肥厚性硬膜炎全般に関してはこちらをご参照ください。

GPAと中枢神経障害 Rheumatology 2015;54:424432

・GPAでのCNS病変合併35例の検討(後ろ向き研究・フランス)
・GPA診断時に中枢神経障害を同時に認めた症例は51%(18/35), 中枢神経障害が後から生じた症例は49%(17/35)
・CNS以外の障害なし 14%(5/35)
・中枢神経以外の障害内訳:ENT 80%, 肺病変 57%(結節 14, 肺胞出血 6), 末梢神経障害 49%(脳神経麻痺11 Ⅱ>Ⅵ>Ⅴ・Ⅶ>Ⅲ・Ⅷ・Ⅻ), 眼病変 31%
・CNS障害の内訳:肥厚性硬膜炎 57%, 虚血性病変 43%, 肥厚性硬膜炎20, 中枢神経虚血 15, 出血性 2, 下垂体病変 2
・ANCA陽性 89%
・髄液検査実施54%(19/35) 異常例は63%, 蛋白上昇>40mg/dL 47%, 細胞数上昇>10/μL 37%
・病理検査 2例のみ実施
・病態をG-CNS(granulomatous/ 肥厚性硬膜炎・下垂体病変・肉芽腫病変) n=20とV-CNS(vasculitic/ 虚血性または出血性) n=13に分類して臨床像を検討
 ・G-GNS:ANCA(MPO +), 頭痛 *MPO-ANCA陽性例は全例G-CNSを呈しV-CNSを呈した例はなし
 ・V-CNA:腎障害合併, 運動障害, 精神症状
・治療:ステロイドとシクロフォスファミドが主体で約1/3が再発または治療抵抗性でありリツキシマブ導入している

GPAと肥厚性硬膜炎

・GPAは眼窩内病変や副鼻腔病変により頭痛を呈することが多いですが, 髄膜の炎症により頭痛を引き起こす点にも注意が必要です(GPA患者で説明できない頭痛は必ず一度造影MRI検査で肥厚性硬膜炎を精査するべき)。頭痛はときおり重度で一日中持続し鎮痛薬に抵抗性の場合があります。
・髄膜の中では軟髄膜よりも硬膜に病変を呈することが多いとされています。また硬膜の中でも脊髄より頭蓋内硬膜の方が障害されます。古い報告ではGPAの6.7%に随伴するとされています(Arch Neurol 1963;8:145–55.)。
・GPAの肥厚性硬膜炎はGPAの後期合併症ではなく初発症状となることが多い(~60%)とされています(Curr Opin Rheumatol 2011; 23: 7-11.)。
頭痛が初発症状でその後脳神経障害・てんかん発作・脳症などを併発する経過をたどります。脳神経障害を呈すると特に視神経などは失明に繋がるリスクもあるため早期発見・介入が機能予後改善のために重要です。
・鑑別疾患:サルコイドーシス(肺病変も呈するため注意), 感染性の髄膜炎, Erdheim-Chester病, IgG4関連疾患(膵臓や外分泌腺など)

ANCA関連血管炎と肥厚性硬膜炎の関係 International Journal of Rheumatic Diseases 2017; 20: 489–496.

・39例のAAV(日本人・内訳MPA 61.5%, GPA 30.8%, EGPA 7.7%)のうち17.9%(7例)が肥厚性硬膜炎合併. 全例GPA(MPAとEGPAの症例はなし). 肥厚性硬膜炎非合併の32例のうちGPAは5例のみ. ANCA陽性は肥厚性硬膜炎の合併有無と関係なし.
・肥厚性硬膜炎がAAVの初発症状は全体の7.7%. 臨床的には頭痛, 脳神経障害.
・肥厚性硬膜炎合併7例の特徴:初発症状 42.9%(3/7), 生検部位(鼻3, 腎2, 舌1, 硬膜1), 皮膚病変 14.3%(1/7), ENT 85.7(6/7), 肺野病変 28.6%(2/7), 腎病変 28.6%(2/7), 神経症状: 頭痛42.9%(3/7), てんかん発作 14.3%(1/7), 脳神経障害 42.9%(3/7), 末梢神経障害 14.3%(1/7)

・病変分布:円蓋部 71.5%, 脳底部 57.1%, 小脳テント 42.9%
・髄液所見:蛋白上昇(>45 mg/dL) 全例 79.4 mg/dL, 細胞数上昇(>5/μL) 57.1% 9.4/μL
・治療経過:頭痛とてんかん発作は全例消失, MRI画像所見は6/7例で改善, 脳神経所見は1例難聴がdeafnessとして後遺症だがその他は全例改善

肥厚性硬膜炎が初発症状となった症例報告

■Journal of the Neurological Sciences 2014; 344: 208–209.
75歳男性 主訴:10か月経過の頭痛 神経所見:片側Ⅶ, Ⅻ障害
赤沈 114mm/h, PR3-ANCA 86 U/mL, 髄液細胞数45/μL, 蛋白175 mg/dL *その他所見なし(肺野に結節影) 画像:下図

■Pract Neurol 2013;13: 193–195.
27歳男性 主訴+現病歴:1か月経過の歌を歌いづらい(職業歌手), 発熱, 盗汗→6週間後複視, 嚥下障害, 嗄声により受診(頭痛や鼻出血, 鼻の症状はなし)
神経学的所見:左のⅥ, Ⅸ, Ⅹ障害 髄液:正常 MRI:左右非対称の硬膜造影病変, MRVでS状静脈洞の血栓 抗菌薬2週間治療後も状態悪化し左Ⅷ障害と両側Ⅻ障害を併発 c-ANCA陽性 *生検なし

参考文献
・Rheum Dis Clin N Am 2017;43:573–578.
・Reumatologia 2018; 56, 6: 399–405