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AHLE: acute hemorrhagic leukoencephalitis

ADEMの最重症型の亜型としてAHLEは報告されており(ADEM全体の約2%を占める Neurology. 2002;59(8):1224-1231.), 1941年にHurstが報告したことに端を発します。感染症やワクチン接種後数日から週単位後に発症することから自己免疫機序が想定されています。急性進行性の白質脳症に出血を伴い, 病理学的には血管周囲の炎症細胞浸潤と小血管壊死, 脱髄が特徴とされています。ADEM自体は小児での報告が多いですが, AHLEは成人例の方が小児例よりも報告が多いです。

確立した診断基準は現状はありません。このためunderrecognizedであり急性進行性の原因不明脳炎では本病態の可能性を考慮する必要があります。
MRI所見では癒合する白質病変に顕著な浮腫を伴い、病変内に微小出血を呈します。この出血性病変がADEMとの画像上一番の鑑別点になります。大脳が主体で小脳や脳幹、脊髄は障害頻度が下がります。

治療としては確立したものはないが(ADEMも前向き研究は存在しない)、免疫治療(ステロイドパルス療法、血漿交換療法、免疫グロブリン)の他に頭蓋内圧上昇に対する管理が重要になります。免疫治療への反応性は不良で頭蓋内圧上昇脳浮腫により極めて予後不良な病態です。
血漿交換に関しての文献:TRANSFUSION 2007;47:981-986. TPEが効果あった症例報告と既報(literature review)5例のうち過去の2報告で効果あり(いずれもTPE後すぐに効果あり)

■AHLEに関するsystematic review Front. Neurol. 11:899. doi: 10.3389/fneur.2020.00899

43例のAHLE検討(2000年以降の報告、18歳以上、英語文献)
年齢38歳 男性67%, 女性33%
感染症との関連 35% Staphylococcus epidermidis, EBV, Influenza H1N1, Coxackie B6, CMV, HHV-6, HSV, VZV, Mumps, Mycoplasma pneumoniae, Plasmodium vivax, Mycobacterium tuberculosis *上気道感染症状があるが原因微生物見同定は19%
背景の自己免疫疾患 12% RA, IBD, PSC, MS, PN
頭部画像検査(実施されたのは91%)
髄液検査(実施されたのは72%) 蛋白上昇87%, 細胞数上昇 65%(mono50%, poly 40%), RBC39%
病理検査実施は58%(生検 26%, 剖検 35%, 両者実施は1例)
治療(報告は79%):糖質コルチコイド 97%, 血漿交換療法 26%, 経静脈免疫グロブリン 12% 1例シクロフォスファミドとリツキシマブ使用例の報告あり ほとんどの報告で免疫治療と臨床的な改善は確立しておらず
死亡率 46.5%, 後遺症39.5%, 寛解 14%

臨床的な特徴
1:先行する感染症 50%以上
2:成人男性に多い
3:急激な症状進行から昏睡や死亡に至る場合が多い

■AHLEに関するreview article Journal of Neuroimmunology 2021; 361: 577751

8例報告(成人6例、小児2例)
MOG抗体測定1例(陰性) AQP4抗体測定3例(全て陰性)
生検3例実施
治療 ステロイドパルス療法反応性全例なし 血漿交換またはIVIgを平均発症から14日後から導入シクロフォスファミドやリツキシマブ使用例なし 1例脳外科的除圧術実施
予後 生存2例のみ(重度後遺症)

■インフルエンザワクチン後のAHEL症例報告(初回報告) Acta Neurol Belg 2018;118:127–129

・特記既往のない70歳男性がインフルエンザワクチン接種3日後から急性経過の頭痛、意識障害にて受診し、左半身麻痺と発熱、見当識障害あり。髄液検査は細胞数199/μL 多形核球 71%, 糖正常、蛋白174mg/dL。AHELの診断となり免疫治療(ステロイドパルス+血漿交換)開始も改善せず他界(病理解剖なし)。 *因果関係の証明に関して: Vaccine 2011; 29:8302–8308.
*日本からの報告ではADEMは1000万件に1例(インフルエンザワクチン接種後) Vaccine 2007;25:570–576.
*インフルエンザワクチン後ADEMの15例まとめ(1982年以降)小児がほとんどでワクチン接種から3週間以内の発症 Vaccine 2011; 29:8182–8185.