自己免疫機序(非感染性)の脱髄を中枢神経に多巣性に呈する病態です。小児に多く、単相性の経過をたどる疾患として認識されていました。ただ特異的バイオマーカーはなく現状は除外診断が主体です。問題点は小児例が多いためそこでの議論をそのまま成人に適応できるかという点があります。
疫学
・発症年齢:5-8歳が多い 男性>女性(MSは女性に多いが) ・0.3-0.6/10万人年
・誘因:感染症 75%>>ワクチン接種 -5%
・先行感染との間隔:7-14日程度
*ワクチン関連の場合はより長いこともある
*感染の場合いつまで間隔としてよいかの期間は明確に決まっていない
誘因:上気道症状 27%, 非特異的感染 15%, 病原体特定 8%, 消化管感染 5%, 肺炎 3%, 眼鼻歯感染 2%, 尿路感染 1%, ワクチン4% 参考:Neurology 2016;86:2085
臨床像
・発症し2-5日以内に急激に進行する経過で、小児例は15-25%はICU管理となる。
・神経所見としては錐体路障害、失調、片麻痺、視神経炎やその他脳神経障害、てんかん発作、脊髄障害、言語障害などを呈する。
・てんかん発作と発熱は他の脱髄性疾患よりもADEMで多いと報告されている。
・末梢神経障害を合併することも報告されているが、その場合はミトコンドリア疾患、Krabbe病、CMTを考慮する。
*重症型:AHLE(こちら参照)
小児と成人の違い Neurology 2016;86:2085
検査
画像所見
・FLAIR像高信号病変
・両側性・左右非対称・辺縁不明瞭病変・大きささまざま(1つは1cmを超えることが多い)
・部位:皮質下白質が主体 deep/juxtacortical white matter>periventricular white matter
・皮質直下白質(MSは脳室周囲白質が多い)*両側・左右非対称性が多い
・視床~基底核(MSではまれ)*左右対称性が多い
・脳幹
・脊髄:1/3程度
*脳梁は保たれることが多い
・mass effect:ほとんどなし
・急性期には拡散制限を示す場合がある(多くはT2 shine through)
・画像所見は臨床所見におくれてくるため、画像のフォローアップが重要(初回MRI検査陰性で除外することはできない)
・Gd造影効果<30%:非特異的な所見
・画像上の鑑別:多発性硬化症(最終的に9.5-27%はMSの診断に)・視神経脊髄炎・血管炎・PRES・ベーチェット病・Fabry病
・MSとの鑑別点
ADEM | MS |
深部灰白質病変・皮質病変 | 脳室周囲病変 |
両側性びまん性病変 | 脳梁に垂直放射性病変 |
辺縁不整 | Ovoid lesion |
大きな病変 | 脳梁病変 |
単一の辺縁明瞭病変 | |
T1 Black hole |
・脊髄病変 11-28%:単独障害はまれ・脳病変を随伴する 胸髄領域が多い
髄液所見
・特異的所見はなし 通常細胞数や蛋白ともに著増することはない
・細胞数正常 42-72%:細胞数上昇の場合も軽度が多い
・蛋白上昇 23-62%(小児例)
・OCBは通常陰性
診断
・診断特異的なバイオマーカーは存在しない。
1:多巣性の中枢神経病態(炎症性脱髄の病態)
2:脳症(意識状態や行動の変容・全身状態で説明できない)
3:頭部MRI検査で脱髄病変
4:発症後3か月以上の経過で新規の臨床的・画像的病変なし
・MSとの鑑別:小児ADEMの特徴→より若年・全身症状(発熱・嘔吐・髄膜刺激徴候・頭痛)をMSよりも伴う OCB陽性はADEMでは非典型
red flags
・持続性の頭痛や髄膜刺激徴候
・脳卒中のような経過:CNS血管炎・APS・MELAS
・繰り返すてんかん発作:脳炎
・ジストニア・パーキンソニズム:脳炎
・精神症状:SLE・自己免疫性脳炎
・進行性経過:遺伝代謝性・gliomatosis cerebri・神経サルコイドーシス
・精神発達遅滞またはその他の神経障害:遺伝代謝性疾患
・髄液所見:細胞数>50または蛋白>100 mg/dL
・画像所見:びまん性の左右対称性病変・虚血(ADCマップ低値)・側頭葉内側病変
治療
・免疫治療であるが、前向き研究は現状存在しないためexpert opinionと観察研究から
・ステロイドパルス療法5日間→その後プレドニゾロン1mg/kg/日で後療法 4-6週間かけてtaperしていく
*3週間以内は再燃の危険あり
・免疫グロブリン療法:2g/kgを2-5日間で投与 Neurology 2000;54:1370
・血漿交換療法
参考文献
・Arch Neurol 2005;62:1673
・Neurology ® 2016;87 (Suppl 2):S38–S45