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カンジダ肺炎は存在するのか?

喀痰からのカンジダ検出は基本colonizationと教科書には書いてありますが、ではいつカンジダ肺炎と判断するのか?先日朝の回診でこの点が議論になったので、今まで勉強したことがなかったためまとめます。特にMed Princ Pract 2022;31:98–102という論文によくまとまっていたためこの内容を中心に記載します。カンジダ感染症全般についてはこちらをご参照ください。

喀痰のCandidaは結局colonizationなのか?

まず原則として喀痰から検出されるCandidaは基本colonizationであるとされます。
・Mandellの”Respiratory Tract Candidiasis”の項には”….. Candida from the sputum only rarely have Candida pneumonia ……”と記載があります。
・BAL検体や喀痰検体からCandida検出はICU患者や挿管, 気管切開患者で多い
→”This almost always reflects colonization of the airways and not infection.” IDSA 2016 guidelineより

IDSAのカンジダに関するガイドラインでは以下の記載になっています。

Does the Isolation of Candida Species From the Respiratory Tract Require Antifungal Therapy?
Recommendation: Growth of Candida from respiratory secretions usually indicates colonization and rarely requires treatment with antifungal therapy (strong recommendation; moderate-quality
evidence).

現状はcolonizationか?感染か?を区別する手立ては病理(=肺の組織生検)しか存在しないとされています。つまりなにがしかのbiomarker(例えばβ-D glucanなど)によって両者を区別することは出来ません。

カンジダ肺炎診断のための検査は?

1:生検による肺組織診断(病理)が必要
2:BAL検体の培養で代用可能か?→結論:できない

BAL検体からのCandida検出は生検組織でのCandida検出(=診断)と相関関係がないことが指摘されています(培養からの菌量でも感染症かどうかを鑑別することはできない)。このことから喀痰やBAL検体からのCandida検出を根拠に抗真菌薬を開始してはいけないとされています。

・重症患者に多く、肺生検を行うことは全身状態などから現実的に難しい場合も多く、結局「組織がとれない場合は診断をどうするべきか?」という問いに対して現状答えはありません。
・IDSA guideline 2016では”Pneumonia due to Candida species is generally limited to severely immunocompromised patients who develop infection following hematogenous spread to the lungs.”と記載があります。

文献の紹介

“Significance of the isolation of Candida species from airway samples in critically ill patients: a prospective, autopsy study” Intensive Care Med 2009; 35:1526–31.

・まとめ:77例の肺炎+BALまたは喀痰検体でCandidaが検出されたICU死亡患者で, 剖検での肺病理からCandida検出は0例
・管理人の一言:私がカンジダ肺炎関連で読んだ文献で最もimpressiveであった論文です。きちんと剖検の病理で確証を得ている文献が極めて少ないのでかなり信頼がおける文献です。カンジダ肺炎としている文献で結局病理でconfirmしているものは極めて少ないのでどうしても「えっこれは結局カンジダ肺炎なの?」という疑問をぬぐえません。その点この文献は病理があるので素晴らしいです。結局1例も指摘できなかったという点ではカンジダ肺炎って本当にどのくらいあるの?と疑問に思うところです。

Candida sp. isolated from bronchoalveolar lavage: clinical significance in critically ill trauma patients” Intensive Care Med (2006) 32:599–603

・まとめ:BAL検体からCandidaが検出された85検体(全体の8%*背景は外傷患者)を検討。抗真菌薬を使用しなかった症例でも1例もその後カンジダ菌血症を併発していない。
・管理人の一言:カンジダ肺炎が存在するとしても、それはどのくらい切迫した病態なのか?急いで治療しないといけないのか?という点も気になるところです。つまり十分に他の原因を除外した上で「うんどうしても肺炎だしどうしてもカンジダしか残らないかな・・・」という状況まで抗真菌薬を待てるのか?が問題となります。この研究は結局カンジダ肺炎の診断が病理で行っていないので厳密にどのくらいカンジダ肺炎があるのか?という疑問には答えていないですが、少なくともカンジダ菌血症にすぐになってしまう症例はなかったということを示していると思います。

“Impact of Candida spp. isolation in the respiratory tract in patients with intensive care unit-acquired pneumonia” Clin Microbiol Infect 2016; 22: 94.e1 – 94.e8

・まとめ:ICUでの肺炎患者385例のうち喀痰からのCandida検出は21%。抗真菌薬の投与有無による予後は有意差なし。
・管理人の一言:この文献もCandida肺炎を確定診断している訳ではないけれど、抗真菌薬を投与すると予後は変わるのか?という疑問にretrospective研究なのでlimitationは大いにありますが, propensity matchingを用い有意差はないことを指摘しています。

“Antifungal therapy in patients with pulmonary Candida spp. colonization may have no beneficial effects” Journal of Intensive Care (2015) 3:31

・まとめ:ICUで喀痰からCandidaが検出された500例の後ろ向き解析で、抗真菌薬投与が予後改善や新規肺炎抑制につながったかどうかの検討。結果は抗真菌薬投与により改善しなかった。
・管理人の一言:上記の文献と同じく後ろ向き研究ではあるが似た結果内容。

結局実臨床でどうする?

・今までの研究結果をおおざっぱにまとめます。
1:組織的にカンジダ肺炎と診断された症例は文献上は症例報告レベルになり極めて少ない。剖検を検討して1例も存在しなかったという報告もあるくらいである。
2:喀痰からのCandida検出はcolonizationの可能性が極めて高く, 抗真菌薬投与により何かoutcomeを改善した文献は1つも存在しない(前向き研究はそもそも1つもなく、後ろ向き研究のみ)

・確かにカンジダ肺炎だろうと臨床的に踏んで治療が奏功した報告もあるので、現状これらの情報を踏まえた上で個別に判断していくことになるかと思います。
・ここは私見ですが、組織診断が出来ない状況下で「免疫抑制・担癌などの患者背景」+「肺炎(確実)」+「喀痰からCandida検出かつその他の菌検出なし」+「カンジダ菌血症」であれば確かにカンジダ肺炎と言って良いと思いますが、最後の菌血症がない場合にどこまで物を言う事ができるのか?は、臨床経過が抗菌薬のみでは経時的に悪化していく場合などに抗真菌薬投与を行い改善するか?などにより判断するしかないなかなとも思いました。

色々ご意見いただければ幸いです。

参考文献
・Clinical Infectious Diseases 2016;62(4):e1 – 50 カンジダのIDSAガイドライン(2016年)