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spinal dural AVF 脊髄硬膜動静脈瘻

spinal dural AVFの症例をとっても久しぶりに経験しました。非常に稀ですが誤診されやすく、見逃してはならない治療可能な脊髄疾患として重要です(神経内科医、整形外科医、Generalist全てにおいて)。調べた内容をまとめます。

病態・解剖

硬膜内の動脈(radiculomeningeal artery)と静脈の短絡による静脈圧上昇
→動静脈圧の圧格差が減る
→正常静脈のドレナージが減少し、脊髄内の静脈性浮腫による脊髄障害
下部胸髄領域は静脈が相対的に少ないためうっ血をきたしやすい
→浮腫は下方向への拡大(円錐部の障害をきたしやすい *例えシャントがより上部に位置していたとしても)
*硬膜外静脈叢:弁がないが、逆流することは極めて稀(硬膜貫通部が弁の機能を担う)、解剖的には髄節性ではなく仙椎~頭蓋底に連続している
*脊髄血管奇形の最多原因(70%程度を占める)
*後天性の病態
・部位:胸腰髄領域が最多(>80%はTh6~L2に位置する *仙椎領域 4%, 大後頭孔 2% *C2-Th1の領域は極めて稀) *頸髄領域は稀
・増悪因子:バルサルバ法、運動、歌唱 Neurology. 2002 Apr 23;58(8):1279-81.、ステロイド JAMA Neurol 2015;72:833
*運動は動脈圧が上昇することが誘因かもしれない
・疫学:男性が多い(報告上は女性の5倍)、年齢55-60歳が多い(20歳以下は既報なし)

臨床像

胸髄領域の脊髄症+円錐上部/円錐症候群
*円錐上部・円錐部・馬尾の障害に関してのまとめはこちらをご参照ください
・脊髄性の間欠性跛行(短距離・疼痛なし・歩行だけではなく飲酒、運転など血流量が増加する因子と関連)

いかに誤診をふせぐか?
誤診の最多原因は脊柱管狭窄症である
→脊柱管狭窄症として説明できない錐体路徴候や円錐上部症候群、円錐症候群を呈する場合はSpinal dural
AVFを考慮する必要がある
・中高年男性の進行性の歩行障害(特に運動後)は必ず本疾患に注意する

*重要な論文:日本からの40例報告 J Orthop Sci. 2019 Nov;24(6):1027-1032.
・年齢:67歳(平均),男性33/女性7
・初発症状
①感覚障害 85%(下肢遠位から始まり徐々に上行する経過)
②運動障害 83%(痙性歩行 53%, 間欠性跛行 48%, 急性対麻痺 33%, 杖歩行 23%, 車いす 15%)
→間欠性跛行:疼痛がなく筋力低下を呈し・100-200mの短距離で生じる点がポイント
③膀胱直腸障害 35%
・診断:初診時誤診 78%(誤診原因:腰椎脊柱管狭窄症 45%*最多 > 異常なし 16% > 脊髄病変原因不明 10% > 前立腺肥大症 10% > 脊髄内腫瘍 7%
・予後:歩行障害発症~車いすまたは杖歩行までの期間 10か月(中央値)

画像検査(MRI)

くも膜下腔の静脈拡張”tortuous flow voids”:単純撮像で指摘できない場合もあり,その場合は造影MRIでの造影効果を確認
→これもMRI撮像時は毎回ルーチンでチェックする習慣が必要です
・脊髄病変:静脈性浮腫を反映した脊髄内T2WI高信号病変(中心部高信号、辺縁部低信号), long cord lesion, 連続性病変(非連続であることは稀), 円錐部の病変(立位で脊髄の静脈圧が円錐部で最も高いため)
→腰椎MRI撮像ではルーチンで全例円錐部の信号をチェックする必要がある
→脊髄内信号変化を「脊髄炎」と判断してステロイド投与されると増悪することがあり注意

治療

・外科手術(直視下)または血管内治療

参考文献
・AJNR Am J Neuroradiol. 2009 Apr;30(4):639-48. doi: 10.3174/ajnr.A1485.