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脊髄円錐上部・円錐・馬尾

解剖

脊髄円錐上部・円錐・馬尾は重要な構造物がぎゅっとまとまっており、少し場所がずれただけで前面にでてくる臨床症状が異なるため、難しい領域です。解剖をまとめます(安藤哲朗先生の書かれた脊椎脊髄2015;28(3): 185-190.を参照させていただきました)。椎体高位と脊髄高位を勘違いしないようにしましょう。

下図はCONTINUUM (MINNEAP MINN)2018;24(2, SPINAL CORD DISORDERS):584 – 602より引用。

障害部位と高位・症候などの対応関係をまとめると下図にようになります。これらは互いにオーバーラップすることもあれば、周囲の神経根を巻き込んで障害される場合もあるためきっちりこの通りに障害されない場合もあります。

神経根と運動・感覚・深部腱反射の対応関係

■円錐上部

・障害される髄節:L4~S2髄節
・脊椎高位:Th11~L1(胸腰椎移行部)
・原因:腫瘍、血管障害、黄色靭帯骨化症(OLF: the ossification of the ligamentum flavum)*OLFは特に同部位に生じることが多い
・運動:下肢への運動神経の前核細胞が障害されると、著明な下肢筋委縮を認める場合もあります。下位運動ニューロン障害が主体になる場合もあれば、円錐部や馬尾にくらべると上位にあるため、錐体路徴候(病的反射、深部腱反射亢進)を認める場合もあります。
下垂足の鑑別としても重要です(下垂足に関してはこちらをご参照ください)。
・感覚:下肢に認めます。神経根による疼痛は認めない場合が多いです。
・膀胱直腸障害:排尿中枢はS2~4に位置するため、排尿障害はそこまで目立たない場合が多いです。
*なぜ円錐上部では運動障害を呈しやすいのか?に関しては同部位は解剖学的に前角の面積が非常に広い点が挙げられており、また上下方向の1髄節あたりの長さが非常に短いため(短い上下方向に複数の髄節がたてこんでいる)一箇所の病変で容易に複数の下肢筋萎縮をきたしやすいとされています。
*ポイント:「腰仙髄の髄節は椎体レベルTh12-L1に集中している」

■円錐部

・障害される髄節:S3~Co髄節
・脊椎高位:L1
・原因:腫瘍、血管障害(特にdAVFが注意)
・運動:下肢筋への神経線維も前角も位置していないため、運動障害は通常認めません(周囲の神経根も障害される場合を除く)。
感覚会陰部の感覚低下(saddle anesthesia)を認めます。これは他の障害では認めず、円錐部障害にかなり特徴的な所見です。会陰部の感覚低下は患者さんが自発的に訴えないため、こちらから能動的に問診で聞き出す必要があります。
膀胱直腸障害:排尿中枢はS2~4に位置するため障害当初から著明な膀胱直腸障害を呈します(馬尾障害では後期に膀胱直腸障害を呈する点が鑑別点として重要)。

■馬尾 cauda equina

馬尾症候群(cauda equina syndrome)は特に頻度が多いため詳しく解説します。
■障害される髄節:髄節ではなく神経根
*馬尾は神経根なので、多発神経根症の鑑別とオーバラップするところがあります。多発神経根症に関してはこちらにまとめがありますのでご参照ください。
■脊椎高位:L2以下
■原因
・原因としては椎間板ヘルニアによる圧迫が最多です。
・その他の原因は下図の通りですが、特に腫瘍が重要です。

■症候
運動:神経根部の障害により認めます。S3以下に限局した障害では運動障害が顕在化しない場合もあるため注意が必要です。
疼痛:背部痛と神経根性疼痛(神経根痛は障害部位により片側性、両側性どちらもある)を認めます。背部痛は原因が「椎間板ヘルニア」>「その他の浸潤性病態」とされており、また仰臥位で背部痛は悪化するとされています。また間欠性跛行が馬尾症候群の特徴です。
膀胱直腸障害:馬尾症候群で重要です。早期にはあまり目立たず、障害の時間が経過してから徐々に顕在化してきます。尿意低下に伴い、膀胱に尿が貯留し溢流性尿失禁をきたします(蓄尿・排尿障害に関してはこちらもご参照ください)。こちらも患者は尿意が低下しているだけで自覚がない場合があるため医療者が能動的に確認する必要があります。
反射:深部腱反射、病的反射に加えて通常routineでは診察しない球海綿体筋反射、肛門括約筋反射などを確認します。

■検査
髄液検査細胞診を必ず提出します(髄液のフローサイトメトリーも可能でれば提出)、細胞数が上昇している場合は腫瘍、感染症、サルコイドーシスなどに鑑別が絞られます
造影MRI検査:馬尾の評価として必須です(神経根造影増強効果を持つ疾患の鑑別はこちらにまとめがありますのでご参照ください)
電気生理検査:神経伝導検査、針筋電図検査
*筋力低下が明確にあるにもかかわらず下肢のCMAP振幅が保たれている場合は、近位の伝導ブロックの可能性があります。例えば腫瘍細胞の浸潤による近位の伝導ブロックを証明するためには通常の神経伝導検査での刺激部位だけでは評価しきれないため、神経根部の刺激をデジタイマーで加えて評価することなどを検討します。
*SNAPが保たれている場合は後根神経節より近位の障害を疑います。
*針筋電図でsubclinicalな障害範囲の評価や、脱神経所見から活動性があるかどうか?の評価を行うことも極めて重要です。
腫瘍などの全身検索(造影CT検査・PET-CT検査など):特に髄液細胞数上昇を伴う馬尾症候群は悪性腫瘍の転移やIVLなど腫瘍の可能性を真っ先に考えます(感染症除外後)。馬尾生検は侵襲的な検査でもあるためまずは全身検索で生検可能な部位がないかどうか?などを検討します。
馬尾生検:馬尾生検は後遺症の問題があるため最後の手段になりますが、診断に最も確実な方法です。事前に電気生理検査や画像検査でどの部位を生検するかどうか?精密に評価しておくことが重要です。

参考文献
・脊椎脊髄2015;28(3): 185-190 安藤哲朗先生が書かれた素晴らしいまとめです。おそらくこれ以上のまとめはありません。
・CONTINUUM (MINNEAP MINN)2018;24(2, SPINAL CORD DISORDERS):584 – 602. 馬尾症候群に関して非常によくまとまったreviewです。

管理人記録:2021/5/29一部訂正・円錐上部の機序に関して追記