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DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)

私が現在勤務している施設で最も勉強になっていることの1つがACPについてです。特に総合内科H先生、集中治療部N先生を始めとして多くを勉強させていただいております。自分から調べた内容というよりも純粋に教えてもらった内容ばかりになりますが、少しずつまとめていきたいと思います。特に今回は総合内科H先生から教えていただいた内容が中心です。DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)とDNR(Do Not Resuscitate)はほぼ同義なので、ここではDNARと記載しています。少しずつ補足していきます。

前提条件:心停止時の蘇生処置(CPR)に関して

心停止(cardiac arrest)=脈が触れない+VF, VT, PEA, asystole

①開始指示:医師の指示は不要
②不開始または中止指示:医師の指示が必要→ここの指示の点にDNARが関与する

DNAR=心停止時に蘇生処置をしない

最重要:あくまでも心停止時にのみ適応されるオーダーである(その他の状況には影響を与えない)

DNARは急変時全体(脈がある場合を含む)を指している訳ではなく、心肺停止時のみが適応であるため、それ以外の状況での対応は別に考える必要がある(指示簿上も分けて記載する必要がある)

よくある誤解:心停止以外にもDNARが適応されると誤解されていることが非常に多い!!
DNARであったとしても、心停止以外での医療・ケアには影響を与えない
(つまりDNARだから何もしない、DNARだから点滴はしない、DNARだから栄養を投与しないという話にはならない。そもそも議論が別である。)

こうしたDNARという言葉自体の誤解がどうしてもあるため、DNARという言葉ではなく、「心停止時 no CPR」とありのままの表現をする場合もある。ここの誤解と誤用は非常に根強く、あちこちで強調されているがまだまだ解消されていない。

(具体的な指示簿記載例)
①心肺停止時:Full または DNAR(=no CPR)
②急変時:Full または 処置の制限あり(例:いかなるときもしない処置 挿管)

注意点:掲示板、指示簿どの記載に従うか?→指示簿
・例え掲示板にDNARと記載があったとしても、指示簿に記載がない場合は指示簿に従った対応になる
・code statusは医師の指示に基づいたものでなければならないため

*参考:DNRとDNARの言葉 使い分ける必要はなく、ここではDNARで統一している
・DNR (Do Not Resuscitate):蘇生はしない
・DNAR (Do Not Attempt Resuscitation):蘇生の適応がないというニュアンスが含まれる

partial DNARは避ける

partial DNAR:例えば心停止時に「除細動のみはするが胸骨圧迫はしない」など

partial DNARは極めて予後不良であるため(後述文献)、「救命がゴール」としても合致せず、またそもそものDNARの目的としても合致しない
→救命がゴールであればきちんと心肺蘇生処置を全て行うべきであるし、苦痛を取ることがゴールであればDNARにするべきである。
→partial DNARはどちらのゴールもかなえられないため基本すべきではない。医師が責任をもって無益な事は行わないことを伝える必要がある。医師はこのことを知識として充分に知っておく必要がある。

文献背景:心肺停止後の生存退院に関して 通常の心肺蘇生実施 23% vs 部分的心肺蘇生(=partial DNAR) 0% “Outcome of Adult Cardiopulmonary Resuscitations at a Tertiary Referral Center Including Results of “Limited” Resuscitations” Arch Intern Med 2001; 161:1751–1758

良くない例:メニュー提示 Procedure-oriented decision making(手技ベースの意思決定)にならないように
・ここで胸骨圧迫、除細動、挿管人工呼吸管理をそれぞれメニューの様に提示して1つずつ「行うか?行わないか?」をチェックリストの用に患者家族に提示して選択してもらうことは「ゴールオブケア」にかなっておらず問題がある。
・患者がメニュー一覧から何をするか、しないかを選ぶことがShared decision makingではない。患者が選んだからそれで良いと簡単に思考停止するのではなく、誤解に基づいた選択ではないか?をきちんと確認することが重要である。繰り返しになるが医学的に無益なことは行わないことを医師が責任をもって提示する必要があり、誤解に基づいた選択にならないようにする必要がある。

参考文献:”Partial do-not-resuscitate orders: A hazard to patient safety and clinical outcomes?” Crit Care Med 2011; 39:14–18 必読文献

心肺蘇生時の予後予測

・患者家族に説明する際に、院内心肺停止時に蘇生処置をすることで予後がどうなるか?の医学的見積もりを伝えることが重要である。
・院内心肺停止に蘇生処置をした際の予後:ROSC 50-60%
→ROSCすれば良い訳ではなく問題はROSC後!
①ROSC後2/3は死亡 ②ROSC後1/3は生存退院(そのうち1/4は神経学的予後不良)

予後推定のスコアリング GO FAR Scoreこちら

・Good Outcome Following Attempted Resuscitation (GO-FAR) Score
・患者が院内心肺停止で蘇生処置を受けた際に神経学的予後良く生存退院できる可能性を年齢や患者背景などを入力することで算出してくれるスコア

問題点:心停止後の蘇生処置による予後が良いという家族の誤解

・テレビドラマ(ER, Chicago Hope, Rescue 911より 多くが外傷が原因、65%が子供~若年者)での60例のCPRの予後を検討し、生存退院67%と報告 N Engl J Med 1996;334:1578-82.
→テレビドラマにより生じうる誤解①若年で蘇生されているが実際には高齢者が多く、高齢者の方がより予後は不良である、②心疾患による心肺停止が実際よりも少なすぎる、③予後が実際よりも良すぎる

問題点:適応がない心肺蘇生を希望された場合

心肺蘇生の目的:心停止の可逆的な原因を除去する間に脳への血流を保つこと
→死にゆく患者に対してはそもそも適応がない(例えばコントロール不能の敗血症、癌末期状態など)
この点を医師が家族に十分に伝えないといけない(家族は心肺蘇生をすれば助かると思っている場合がある)。

心肺停止後に無駄だとわかっていながら蘇生処置を行うことは倫理的にも問題がある。

問題点①:医療従事者側が無益であると分かっているにもかかわらず蘇生処置を行っている(家族への蘇生処置の無益性を充分に伝えられていない)。特にそれがパフォーマンス(show code)になっている場合がある。
問題点②:患者と家族が最後に一緒に過ごす時間を提供することができない。

*管理人の一言:実は私はこのパフォーマンスとしての胸骨圧迫をやれと前の病院で上司から指示されたことが何度かありました。家族に説明した上でどうしても理解が得られないもありますが、その理解を得ようとする努力をせずに説明を放棄して簡単にパフォーマンスに走るのは間違いであると感じています。

全体の参考文献:

・2016年集中治療学会「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」 https://www.jsicm.org/publication/kankoku_dnar.html
・DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)の考え方 日集中医誌 2017;24:210-5.
終末期ディスカッション:自施設で教えていただいている内容が分かりやすくまとめられており、非常に勉強になります。多くを参照させていただきました。
・総合内科H先生のレクチャー