Neurologyはtoughな患者家族との面談が非常に多い科です。私自身とても苦手としているところです。実は結構前になるのですが、自施設でコロンビア大学緩和ケア中川俊一先生の”Shared decision making”に関するご講義を拝聴した際に非常に感銘を受けました。ここではそこで学んだ内容などを記載していきます。まだ勉強中かつ苦手意識があるところですが、少しずつ取り組んでいきたいです。
1st stage 病状の説明
Step 0:準備が大切
(例)同席する家族は誰か? 医療サイドからは誰が同席するか?何を話すか? 相手側はどういう質問を尋ねそうか? 治療を続けたいという場合にどう対応するか? 延命を望んでいない場合にどう対応するか?
管理人の一言①:複数の科の医師が関与している場合は、必ず各科の医師に話して治療オプションや推定される予後などに関して協議しておいた方が良い。私自身今まで面談中に「あっしまった、この点の治療オプションに関して〇〇科にもっと選択肢を確認しておけばよかった」となってしまったケースがしばしばある・・・(4分割表の左上に該当するところ)。また看護師さんとは事前にどういう流れにするかを確認しておき、特に患者自身のQOLの観点に関してケアの立場からどうであるか?を事前に確認するようにしている(4分割表の左下に該当するところ)。やはりこの意味でも多職種カンファレンスはとても重要だと思う。
管理人の一言②:私は(事前にまたはその場で)話す内容を紙に文字や絵を描くことが重要だと思っている。また重要な画像などは印刷して渡すようにしている。相互に誤解が生じないように紙に書いて内容を整理したり、また持ち帰ってもらい後で振り返ってもらうことで次回質問してもらうことなどに繋げることができる。
Step 1:参加者の自己紹介とイントロダクション
(例)「今日は〇〇さんの病状と治療方針について相談させていただきたくお呼びさせていただきました」
Step 2:相手側がどのくらい情報を持っているか?の確認
(例)「現在の病状はどのように理解されていますか?」、「前の医者からどのように説明されていますか?」、「ご家族には現状がどのように映っていますか?」
Step 3:説明
注意点1:臓器別アプローチを避ける
注意点2:一番最近に起きている出来事から話すことは良くない
(例)すい臓がん→肝転移→肺炎→敗血症(今ここ) という場合
敗血症の話から始めると「今の敗血症をよくすれば良いか?」と勘違いしてしまう場合がある。実際には癌は進行してしまう。木を見て森を見ずの状態にならないように全体像をきちんと提示する必要がある。
管理人の一言:要約すると視点がミクロになりすぎてマクロな全体像を見失わないようにするということである。例えば全体像として予後が3か月以内と推定されるところで、「直近の敗血症治療で昇圧薬がきれました!」といった伝え方をすると、「敗血症が良くなって患者の全身状態は良くなるのだ!」と誤解が生じてしまうことがある。ここは実際によく陥ってしまう点で、相当注意しながら話す必要がある。
Step 4:予後を伝える
予後に関して2つの側面
1:時間 数時間~数日 or 数日~数週 or 数週~数か月
2:機能 胃ろう?寝たきり?
具体的なステップ
①お伝えしてもよろしいですか?(相手が準備ができているかを確認する) *聞きたくない相手に情報を押し付けてしまう可能性がある
②正確な数字はわかりません。ただ大まかな目安をお伝えすることはできます。 *不確実を強調する
③時間の単位でお答えします。 *どのように伝達するかを予め伝える
④〇〇と思います。
⑤感情に対応
注意点:1st stageで「どうやって治療するのですか?」と質問が来た場合に具体的な治療を話しはじめると混乱してしまう(これは3rd stageになる。つまり治療のゴールを設定しない段階で治療の話をすすめると議論が混ざってしまう)
2nd Stage 治療ゴールの設定
重要:このStageをすっとばして「延命治療はどうします?」という議論を始めてしまうことが多く間違いである(治療ゴールの設定が出来たら2nd stage clearとなる)。
管理人の一言:個人的には全体を通じてここが最も痛感したところである。医療者側は結論を急ぎたくなるがあまりいきなり「延命治療はどうします?」に飛びつきがちである(私自身も今までずっとそうであった)。
「まず何を望んでいるか?」を確認してから3rd stepで治療のoptionを提示する流れになる。
(例)
「一番気がかりなことは何ですか?」,「何が一番心配ですか?」
「本人はどんなことを大切にする人ですか?」,「本人にとって大切なものは何ですか?」,「何を生きがいとされていますか?」
「具合がわるくなったときのことを今まで話したことはありますか?」
価値観の例:マラソンができるように・ゴルフができるように・車いす生活・寝たきりは許容できない・意思疎通できないことは許容できないなど
管理人の一言:当たり前であるが絶対に「過去形」で聞いてはいけない。ここを「過去形」で聞かれると家族は相当なショックを受ける。つまりもう亡くなることが医療者の中では前提として話がすすんでいる印象になってしまう。実は私の親族がここで医療者から「〇〇さんはどのような方だったのですか?」と過去形で聞かれ大きなショックを受けた経験がある。相手側はACPをきちんととろうとしているつもりなのだと思うが、こうした言葉の使い方には相当細部まで注意を払わないといけないとその時痛感した。こうした場面ではやはり自分の手に馴染んだ言葉を使うことが重要だと思う。聞き方のテンプレートのような文章を使うとこうした点で歪が生じてしまう。個人的にはここは相当注意すべき点と考えている。
フォローアップの質問
①より詳しく教えてもらう・なぜなのか?背後の理由を確認する(重要だが忘れがち)
(例)「元通りとおっしゃいましたが、もう少し詳しく教えていただけますか?」
(例)「機械に繋がれて生きるのは嫌だといっていました」→「どうしてそうおっしゃったのでしょうか?」
②それ以外にあるか?
・full-court press 救命に全力を尽くす・生存期間を少しでも延ばす
・あらゆる苦痛を取り除く withdraw
・救命の努力は続けたいが、助からないのであれば本人を苦しませたくもない withhold
3rd Stage 治療オプションの相談
設定した治療ゴールに基づいて治療法を「提案」する(最重要)
医療者サイドがメインになって進める必要がある・yes/noの選択を迫るようにしない
「それぞれの医療行為がなしえることは何か?」をきちんと説明する
(例)
・人工呼吸 利点:生存期間の延長 欠点:話せない苦痛最期は機械につながれたまま
・人口補液 利点:脱水の補正・生存期間の延長 欠点:浮腫や気道分泌の増加 血管内にvolumeを保つことが難しくなる
・抗菌薬 利点:感染症コントロールにより苦痛を和らげる??? 欠点:投与経路(経鼻胃管・点滴ルートの確保)
もし非現実的な希望をもっていたら?
・奇跡を望んでいる→奇跡とは具体的に何を意味しているのか?を確認する→できるだけ客観的な意見を述べる
・適切でない決断をしても価値観を尊重する(頭ごなしに価値観を否定しない)
・time-limited trialを考慮する(1-2週間)
・ゴール設定に関する会話は1回勝負ではなくプロセス 自分の価値観を押し付けない
コロンビア大学緩和ケア中川俊一先生のご講義