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癌性髄膜炎 carcinomatous meningitis/ leptomeningeal metastases

背景

・原発:乳癌(12-34%)>肺癌(10-26%)>melanoma(17-25%)>消化管(4-14%) *日本では胃癌も多い
・癌のうちどのくらい転移するか?:melanoma 22-46%> SCLC 10-25% > 乳癌 5% > NSCLC 1%> 頭頚部癌 1%
・組織型:adenocarcinomaが最多
*乳癌は特にtriple-negative, lobularが多い *肺癌はadenocarcinoma, small cell carcinoma
・障害されやすい部位:脳底槽や後頭蓋窩 *髄液の流れがうっ滞する部位に多いとされている

・基本は腫瘍の進行期に診断となるが、癌性髄膜炎から腫瘍発見に至る経過もあるため、常に癌性髄膜炎の可能性は考慮するべき

*参考:硬膜転移
・原発:前立腺がん 19.5%> 乳癌 16.5% >肺癌 11%> 消化器癌 7.5% Journal of Neuro-Oncology 2005;75:57.
・機序:骨転移からの波及>血行性 *逆に軟髄膜からの浸潤は報告なし
・臨床像:頭痛 39%, 脳神経障害 30%, 視野障害 16%, 意識障害 16%, てんかん発作 11%
・髄液細胞診「陰性」が硬膜転移の診断に必須 Cancer 2009;115:1947
・画像所見:必須(DA patternの造影効果)
・治療:標準化なし(硬膜はBBBを有さないため全身化学療法が基本)

臨床像

1:頭痛・頭蓋内圧上昇
・頭痛 initial症状として最も多い 30-50%程度 *それでも通常の髄膜炎よりは少ない
・髄膜刺激徴候は感染性と異なり乏しい場合が多い
・頭蓋内圧上昇を伴う場合が多い *特発性頭蓋内圧上昇を認めた場合は癌性髄膜炎の可能性を考慮するべきという文献あり(Clincal Neurology and Neurosurgery 2014;119: 88-90.)
2:脳神経障害 *多発脳神経障害では必ず癌性髄膜炎を考慮する(多発脳神経障害についてのまとめはこちら
3:小脳症状
 *
4:痙攣
25%程度

*小脳で歩行障害、ふらつき、脳幹で嘔気、嘔吐といった症状から発症する場合があり注意が必要
→頭痛は通常の髄膜炎と比較すると少ない

*合併症は水頭症に注意

検査

髄液検査:髄液細胞診

・髄液細胞診は感度は低いことが問題。
・感度を上げるためのポイントは1. 検査を繰り返す, 2. 多い検体量を提出する, 3. 検体を採取後すぐに提出することの3点です.
・検査を繰り返す:初回検査の感度は45-55%とされていますが, 2回目は80%と検査を繰り返すことで感度が上がります.
・できるだけ多く10mL検体提出する:髄液採取量が多い方が感度が良い(3.5mlは68%, 10.5mlは97%).
・出来るだけ早く提出する:評価できる細胞は30分経過すると50%, 90分経過すると10%と低下することが指摘(J Neurol Sci 1994;121:74‑8.).

髄液所見:何かしら異常所見90%以上、初圧20cmH2O以上 46%、細胞数上昇 57%、蛋白上昇 76%、糖低下(60 mg/dL以下) 54% *髄液糖低下の鑑別こちら)に必ず挙げる

*参考:髄液腫瘍マーカーに関して
・明確なcut off値はなし ・治療効果判定には使用できない
→細胞診の代わりに診断に使用することは推奨されない

頭部画像検査(造影MRI検査)

・軟髄膜の造影効果(pial arachnoid pattern:こちらを参照)
・MRI画像所見正常のみで除外できない

*診断基準 NCCN(National comprehensive cancer network)
1:髄液細胞診にて悪性細胞検出
2:髄液細胞診陰性であるが、画像にて髄膜炎を示唆する所見があり髄液所見と臨床所見が矛盾しない

これらの基準では”underdiagnosed”の可能性あり。実際には臨床所見のみであり、細胞診陰性かつ画像正常のものもある。

■癌性髄膜炎187例の検討 Neurology. 2010 May 4;74(18):1449-54.

・固形癌150例、血液腫瘍37例
・患者背景:年齢56.4歳
・原因:乳がん35%, 肺癌25%、消化管癌6%、メラノーマ5% 血液腫瘍:リンパ腫、白血病
・腫瘍診断から癌性髄膜炎診断までの期間:1.6年(固形癌 2.0年 vs 血液腫瘍 11カ月)
・既知の転移性病変 81%
・脳転移(過去または同時)58% (固形癌 70%, 血液腫瘍 11%)
・髄液検査:細胞診異常 86%, 細胞数上昇 64%, 蛋白上昇 59%, 糖低下 31%, 初圧上昇 50%
・診断:画像のみ53%, 細胞診 23%, 両者 24%
・治療:放射線治療 55%, 化学療法髄注 29%, 全身化学療法 18%, 支持療法のみ 21%
・予後:生命予後2.4か月(固形癌 2.3か月、血液腫瘍 4.7か月)

治療

対症療法:デキサメタゾンや化学療法髄注投与
*実臨床ではほとんど効果がない場合が多い

治療効果判定 1:細胞診の陰性化確認 2:臨床所見の改善
*画像所見、腫瘍マーカは相関がないとされており治療効果判定に関して使用することは現段階では推奨されていない

予後:極めて悪い 未治療生存期間は4~6週間

参考文献
・Cancer. 1998 Feb 15;82(4):733-9.
・Surg Neurol Int . 2013 May 2;4(Suppl 4):S265-88. 最も優れたreview

初圧28cmH2O 細胞数:303(mono:97%, poly:3), TP:805mg/dl, Glu:36mg/dl ADA17.4

初圧:30cmH2O以上(腰椎穿刺後に頭痛が軽減) 細胞数8/μL,TP:87 背景胃癌(印環細胞癌)