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頭蓋内圧亢進へのアプローチ

脳神経外科や集中治療の先生方にとっては当たり前の内容かもしれませんが、神経内科医は苦手な分野と思います(かくいう私自身が不勉強です)。集中治療部のO先生がとても分かりやすいLectureをしてくださりその内容を参考にさせていただき勉強した内容をまとめさせていただきます。

神経集中治療領域で重要なテーマは“いかにSecondary brain injuryを防ぐか?”という点に集約されます。ここでは脳への酸素需給バランスは問題ないか?虚血を誘発しないか?脳浮腫や頭蓋内圧上昇はないか?てんかん重積の合併はないか?高体温ではないか?代謝は問題ないか?といった点が重要です。今回はその中でも頭蓋内圧上昇に関してアプローチします。また私自身はICPモニター留置を行う技量を持ち合わせていないので、ICPモニターが使用できない状況での議論を中心にしていきます。

頭蓋内圧の生理学

CPP=MAP-ICP

CPP=MAP-ICP
*CPP=cerebral perfusion pressure 脳還流圧
*MAP=mean arterial pressure 平均動脈圧
*ICP=intracranial pressure 頭蓋内圧

・この数式が最も重要です(頭蓋内圧は閉じた環境であることを理解する)。なぜICPが上昇すると問題なのかというと、ICPが上昇することで脳還流圧が下がることが問題な訳です。この数式からわかる通り、脳還流圧(CPP)を保つためには平均動脈圧(MAP)を高くするまたは頭蓋内圧(ICP)を低くすることが必要です。
・脳の自動調節能(autoregulation)が保たれている状況では脳還流圧が多少変化しても脳血流量は一定に保たれますが(下図上段)、脳の自動調節能(autoregulation)が破綻している状況ではCBF(cerebral blood flow:脳血流量)はCPPに依存します(下図下段)。
*自動調節能(autoregulation)が破綻する状況:虚血・てんかん重積・腫瘍・外傷など
・この状況ではICP上昇は脳血流量を直接的に下げる影響を及ぼします。

頭部外傷患者ではCPP=50~70mmHgを目標とすることが多いですがこれが本当に至適なのかはわかりません(非頭部外傷患者での目標値はまだわかりません)。

頭蓋内圧(ICP: intracranial pressure)を構成する要素

ICPは以下の3つの構造物から構成されます
・脳実質 90%
・血液 5%
・脳脊髄液 5%

ICP上昇に対する代償機構→以下の機序が破綻するとICPが上昇しはじめます
1:CSFをくも膜下腔から脊髄へ移動
2:くも膜顆粒からのCSF九州促進
3:頭蓋内圧の血液を流出

ポイント:ICP値が正常だからといって背景の脳浮腫病態を否定することはできない
理由:上記の代償機構が作用してICPをなんとか正常に保っているだけの可能性がある

PaCO2の影響

・血管平滑筋はH+濃度により収縮・拡張が変化する(pH上昇により血管平滑筋が収縮する)
HCO3-はBBBを超えることが出来ないが、CO2はBBBを超えることが可能(ポイント1)
・PaCO2は脳脊髄液を経由して動脈周囲の血管平滑筋に作用する(20~30秒)
この状態が長期にわたると再度平衡状態に戻る(ポイント2)→この平衡状態に戻る半減期が6時間とされる→hyperventilationが長時間有用ではない理由(6時間程度しか効果はない)

ICPモニターを使用しない場合にどのように頭蓋内圧上昇を推定するか?

・頭蓋内圧がいくつ以上であれば治療介入するべきか?という基準は現時点でまだ定まっていませんが、現状はICP>20~25mmHgの場合に治療介入することが多いです。
・ICPモニターを挿入していない状況では「臨床的なパラメーターから頭蓋内圧を推定できるか?」というclinical questionが生まれます。以下が代表的なsystematic reviewの結果でICP≧20mmHgを基準として身体所見・画像所見を検討していますがいずれの単一指標をもっても診断・除外には不十分であることがわかります。

眼球エコー検査:視神経径測定

経頭蓋ドップラーエコー検査:Pulsatility index

頭蓋内圧上昇へのアプローチ:Staircase approach

・頭蓋内圧上昇に対してのアプローチは”Staircase approach”として紹介されています(N Engl J Med 2014;370:2121-30.)。
・以下の順番に行わないといけない訳ではない点に注意。
・またこれだけではなく、純粋に頭位挙上, 頭位正中位(静脈還流を阻害しないため)といったすぐできる点を行う。

1:挿管・換気調整
2:鎮痛鎮静の管理を強化
3:脳室ドレナージ
4:高浸透圧療法
5:過換気療法
6:低体温療法
7:バルビツレート療法
8:開頭減圧術

過換気療法

・原理:PaCO2が上昇すると脳血管拡張によりICP上昇を来してしまうため、過換気によりPaCO2低下させて血管拡張を抑制する。
・目標PaCO2 = 30~35 mmHg
・6時間以上は効果がなく短期間にとどめる点と下げ過ぎると虚血を誘発してしまう点に注意が必要。このようにあくまでも間に合わせの治療法である。

高浸透圧療法

1:マンニトール

・商品名:マンニットール
・製剤:20% 300mL
・投与30分程度で脳圧最低になり3時間程度持続する
・腎不全患者では使用できない(マンニトールは代謝されず100%腎臓から排泄されるため)
・浸透圧>320mOsm/kgでは効果なし(血漿浸透圧のフォローアップが必要)

使用方法:マンニトール200mL 30分かけて投与 1日6回投与など

2:グリセロール

・商品名:グリセオール®
・製剤:10% 200mL, 300mL, 500mL *10%グリセリン・生理食塩水・5%果糖を含有
・腎排泄 10~20%, 代謝 80~90%
・投与2時間程度で脳圧最低になり6時間程度持続する

マンニトールなのか?グリセロールなのか?

・グリセロールは日本で使用される機会が多いが、海外ではほとんど使用されない(FDA採用なし)。これは歴史的に日本では使用されてきた経緯があることが大きい。文献上もグリセロールはほとんどない。
・背景としてグリセロールの方がマンニトールと比較してリバウンド現象が少ないとされてきたが(色々な教科書にも書かれているが)、これを裏付ける臨床研究は乏しい。かなり日本で独自に使用し続けている薬剤という立ち位置になる。

高張食塩水 HTS: hypertonic saline

原理:浸透圧差によりICP低下効果を持つ
利点:リバウンド現象が少ないとされている
欠点:心機能や腎機能障害例では血管内volume過剰によるうっ血を来すことがある
組成:0.9%生理食塩水 380mL + 10%NaCl 120mL =500mL

そもそも頭蓋内圧モニタリングや頭蓋内圧低下を目的とした治療”ICP oriented therapy”は予後を改善させるのか?

記載途中

また情報を集めてup dateしていきます。

最後に今日(2022/12/24)はクリスマスイブなのでクリスマスツリーの絵を添えます。